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二章:悲劇の日から
記憶に取り残された幼馴染 06
しおりを挟むボクが来るのが遅くて帰ってしまうだとか、違う場所に行ってしまうと言うことは、あのクロに限っては、ないに等しい。
自分で判断するということが、彼は苦手なのだ。
いつもならば言われた通りの場所で待っている筈だと、答えを導き出せば、なら何処にいるのかと言う疑問にぶち当たり、イライラと前髪を掻き上げる。
「カン君」
そんな時だった、声を掛けられた。
声のした方を振り返ると、其処には長身の男が立っていた。
日本人離れしたその容姿は、良くも悪くも人を惹き付ける。
白に近い頭髪に、陶磁のように滑らかで白い肌、そして赤味の掛かった瞳は、どことなくアルビノを連想させる。
「照須君か。何の用だい? ボクは今忙しい」
彼は、去年のクラスメイトだった。
照須 月(テラス ユエ)は、何かとボクに付き纏ってくるイメージがある。
サン君と呼ばせて欲しいに始まり、もっと仲良くなりたい、遊びに行こう、一緒に勉強しよう、とクラスが変わってからも、何かと構ってくれと言ってくる。
その度にクロを言い訳に断ってきた。
名前は親友にしか呼ばせないのだと。
親友はあの莫迦一人で十分だから、君に呼ばせるつもりはないと。
親友と約束があるから無理だ。
そう悉(ことごと)く断った。
ボクの冷たい言葉にめげることなく、ユエはにこりと笑い、首を傾げてみせる。
「今日もカン君は、お友達と約束だったよね?」
「ああ。あの莫迦、待ち合わせ場所にいないんだ。施設はとっくに出たらしいし」
今日も、一緒に勉強しようと誘われ、断ったばかりだった。
くそ、と普段は口にもしない悪態を吐く。
嫌な予感がしている。
早くクロの顔を見て安心したかった。
「僕、それらしい人、見たよ。私服の人がいたから、その人かもね。でも、稲荷先輩達と楽しそうに話していたから違うかな」
稲荷(トウカ)先輩とは、柄の悪い3年の先輩だ。
そして、ユエの信奉者だった筈である。
嫌な予感しかしない。
少し考えれば解りそうなものだったのだ。
ボクは警戒が足りなかったのだろう。
この男を甘く見ていた。
「何処? それ、何処だよ」
飽くまでも、今は彼を犯人だと決めつけることはせず、それでも乱暴になる口調は止まらない。
殴られているのだろうか。
それならば、クロには酷だ。
DVを受けて育った彼は、殴られ慣れ過ぎていて、そして誰よりも心が弱いのだ。
父親の暴力で彼は母親を亡くしている。
此処で問い詰めるよりも先に、クロを助け出したかった。
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