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一章:責任取ってね?
神沼が大変です 07
しおりを挟む明紫亜の体が起き上がり、トレイの上の箸に手が伸びていく。
この日のおかずはハンバーグだった。
「今、みんなお風呂に行ってるけど、どうする? 入れそう?」
成型された肉の塊を箸で切っている明紫亜に問えば、彼の首が横に倒れる。
「実は僕。人混み苦手、なんだよね。でも、お風呂には入りたいなあ」
考え込んでなのか、明紫亜の口から唸り声が漏れて聞こえる。
義一郎は無意識に人差し指を鼻に持っていき、眼鏡の支点を触っていた。
「もう少し落ち着いたら行こうか? 僕も人が多いのは得意じゃないから、そっちの方が助かるし。ご飯、ゆっくり食べてね」
そう声を掛けると、箸で掴んだハンバーグを揺らしながら、ふおお、と奇声を発して頷く明紫亜の顔には満面の笑顔が浮かぶ。
ありがとっ、と礼を伝えてくれる彼に微笑ましくなり、義一郎はつい微笑んでしまう。
ニヤけてしまう顔を見られるのは恥ずかしくてベッドに移動し、お風呂の準備と明日帰る支度を始めた。
明紫亜の食事が終わり大浴場に向かったのは、消灯時間の一時間ほど前のことだった。
消灯時間ギリギリだからか、他に風呂に向かう人間はいなかった。
脱衣所の荷物置き場には、三人程の荷物が置かれているだけだ。
あまり人がいないことに安堵して、ふう、と息を吐き出していた。
人混みは得意ではないし、人と接するのも好きではない。
それ故にこの時間を選んだのだ。
明紫亜の体調も心配であったし、彼自身も人混みが苦手だと言うので、義一郎としては助かった部分が大きい。
「委員長の読み通りスキスキだねー。良かった」
「うん。でもあんまりゆっくりしてると消灯過ぎちゃうし、少し巻きで入らないとだけど」
安堵に表情を綻ばせている明紫亜に頷きを返し、脱衣所の棚に荷物を置いた。
衣服を脱いで、棚に一つづつ置かれている籠に脱いだ物を置いていく。
ちらり、と横を窺えば、明紫亜も裸になっていた。
ほっそりとした蒼白い体躯は弱々しく見えてしまい、心配になる程だった。
とは言え、他人(ひと)のことを言える程に義一郎とて逞しい訳ではない。
雑念を振り払い義一郎はフェイスタオルで然りげ無く前を隠して、明紫亜と二人で浴場に続く引き戸に向かった。
ガラリと扉を開けると、違うクラスの男子三人程が湯船に浸かっていた。
扉の開く音に此方に視線を投げてくる彼等の中で、一人だけヤケに明紫亜をジロジロと眺めている男がいるようだった。
義一郎は眉を顰めるも、当の明紫亜は気付いていないようで、シャワーのついた洗い場にと向かって行く。
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