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一章:責任取ってね?
神沼が大変です 09
しおりを挟む遂には腕を取られそうになり、払い除けた腕が捕まってしまう。
「ぅ、あ、気持ち、わる、い」
顔面蒼白になって明紫亜は思いっ切り腕を払い、床に蹲り嘔吐してしまう。
男はその様を見下ろし楽しそうに笑っていた。
「本当に吐くんだな。面白え」
面白がって明紫亜に伸ばされていく腕に、義一郎は我慢出来なくなり声を上げる。
元来、小心者である義一郎の声はみっともなく震えてしまう。
「や、やめなよ!」
言葉での制止しか出来ない義一郎を男子生徒は嘲笑い、明紫亜に触れることをやめようとはしない。
明紫亜に何度も触れ、その度に彼は吐瀉物を口から吐き出す。
自分の力では無理だ、と判断した義一郎は風呂場から飛び出した。
脱衣室で簡単に身体を拭き急いで衣服を身に纏うとバタバタと足音を立て走り出すのだった。
* * * * * *
息を切らして向かったのは、保健医の泊まる部屋だ。
担任はあてにならないと解り切っていてハナから彼に頼るという選択肢はなかった。
明紫亜は嘔吐を繰り返している。
保健医ならば何かあっても何とかしてくれる。
そんな期待で向かった部屋から出て来たのは、機械のように表情の動かない化学教師で、今年新任として赴任してきた笹垣 司破(ササガキ シバ)だった。
「なんだ、騒々しい。どうした?」
保健医でないことに一瞬焦るが、司破と保健医が同室であることを思い出し、切れる息を何とか落ち着かせ口を開く。
「さ、笹垣先生! お風呂で神沼が! あの、とにかく大変で! 嘔吐してて! 来て下さい!」
何と説明していいのか解らなくて上手い日本語が出て来ない。
それでも義一郎は必死で伝えようとした。
神沼、と名前を出した瞬間、無表情だった笹垣の眉がピクリと動き、何か思案している顔付きで義一郎を凝視した後、部屋の中へと身体を捻り声を投げ掛ける。
「瀬名先生、神沼が風呂場で嘔吐しているそうです。一緒に来てくれますか?」
ガタンバタン、と音が響き、慌てたように倫成が出て来た。
笹垣の背後から出て来た彼は義一郎をジッと見詰めてくる。
美形の男に注目される居心地の悪さに俯いてしまう。
「水保君、えぇと、簡単にで良いから状況を教えて貰えるかな?」
優しい口調で倫成に問われ、そろり、と顔を上げると、ちゃんと拭かなかった濡れた髪を撫でられた。
細く長い綺麗な指が義一郎の黒髪に絡む。
「神沼、体調良くなってお風呂にも入りたいってことで、一緒に大浴場に行ったんです。それで、あの。他のクラスの生徒に神沼が絡まれて、よく解らないけど嘔吐し始めちゃって」
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