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一章:生命の在り処
陽だまりのような君 01
しおりを挟む【陽だまりのような君】
彼女の笑顔は、いつでも柞田 己訓(クニタ ミクニ)の冷えた心臓を温めてくれた。
ほわほわ、と柔らかな顔付きを見るだけで幸せを感じられたのだ。
彼女は他に興味を持てない己訓の中に入り込んでは陽だまりのように笑い、日陰を明るく照らした。
彼女を喪ってから何年が経とうとも、決して忘れることなく胸に、脳に、彼女の優しさは刻まれている。
まるで責められているかのようだった。
想い出す度に優しさに包まれ、同時に心臓を切り刻まれ、脳から思考をごっそり奪われていく感覚に襲われる。
肺の繋ぎ目が痛むとひどく恐ろしい。
かつて彼女だった部位が、己訓を許さないと責めているのだ。
突然、呼吸が止まり二酸化炭素に体内を侵されてしまうのではないか、そんな疑念が頭を占める。
非現実的だと頭では解っていても、彼女への罪悪感が己訓から安穏を奪っていた。
遠いところで名前を呼ばれている。
寝不足で重たい頭を振り、己訓は額に手を当てた。
常に付き纏ってくる妄執に睡眠を上手く取れなくなっている。
ぼう、とする視界で辺りを見渡せば、目の前に心配を滲ませる日向 陽向(ヒムカイ ヒナタ)がいた。
「先生、先生? 大丈夫ですか? ご気分が優れないようなら医務室に」
「いや、大丈夫だ。すまないね。どうにも寝不足で。これで今日の講義も終わりだし、帰って休むよ」
あの日、食堂で話をしてから、授業の前や後で陽向と話すことが多くなっている。
大体が陽向から質問を受け、それに己訓が答える形だ。
授業の間は気を張っていたからか平気だった眠気に一気に襲われ、ひどく頭が重い。
「先生。無理はされないで下さいね?」
ひどく心配そうに眉尻を下げる顔に胸が痛んだ。
悲しませたくない、そう思ったのが何故なのか、己訓は考えることを放棄し、頷くだけの返事を返す。
「……最近、夢見が悪くてね。心配させて申し訳ない」
亡くした妻は、陽だまりのような人だった。
陽向といると妻を想い出すのだ。
ほわり、と柔く笑う彼と妻の顔が、似てもいないのに重なって見えてしまう。
重症だな、と胸中でボヤいた。
「夢見、ですか? 怖い夢……とか?」
きょとん、と目を瞬かせる陽向に曖昧に微笑み首を左右させる。
目を伏せ陽向から視線を逸らす。
彼を直視するのが怖い。
「怖いと言えば怖いのかもしれない。大事なものを失う夢だ」
小さな声でしか言えなかった。
暫く沈黙が流れる。
周りは騒がしく騒音に塗れているのに、二人の間にだけ訪れる沈黙が可笑しかった。
「……僕も、見ます。大切なものが全部なくなる夢です」
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