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一章:編集長は快楽に流されました
快楽に勝てる人間など、いないに等しい 04
しおりを挟む揶揄されても寧は否定の言葉を口に出来なかった。
黙って唇を噛み締め楼と目を合わせようとしない寧は、何も言わずとも行動で答えを示していることには気付いていない。
「編集長は魔法使いでしたか。そんなに乃々子さんが好きだったの? 想い人の息子に抱かれるなんて背徳的ですね」
からかわれても寧が引き結んだ口唇を開けることはなかった。
ただ不思議そうに楼を眺めては何か言いたそうに睨んでいる。
「編集長。どうしました?」
固く開くことを拒む唇を親指でなぞる。
ぴくり、と微動した目蓋がゆっくりと綴じられ、震えながらも言葉を発する唇から、楼の指に息が掛かった。
「お、俺は。魔法なんか使えねぇぞ。そ、れに。俺が女を知らないことと乃々子さんは関係ない。こんな面だ。寄って来る訳がねぇだろ。……確かに乃々子さんを好きだったが、性的な目で見たことは一度もない」
視界を閉ざしたまま顔を背け横を向こうとする寧の体躯を抱き締め、下半身を密着させる。
切なそうに話す寧の瞳に自分を映したくて、楼は彼の目尻を、そっ、と撫でていく。
「編集長、知らないんですか? 30歳になるまでに童貞を捨てられないと魔法使いになるらしいですよ。僕は貴方の顔、好きですけどね。怖い顔を真っ赤にさせて恥ずかしがるところなんて堪らなくそそられる」
頑なに開くことのない目蓋に口付けを落とし、シャツを剥ぎ取った。
腕から抜く時に、ぴくぴく、と反応した目蓋を舌先で押しては撫でる。
ばさり、と寧のシャツを床に放った。
「す、好きとか、言うな。こんな面、好きになったりすんな。頼むから、っ、そんなこと、っっ、お前が、言うなっ!」
漸く楼を映した瞳は悲し気に揺れ、涙を湛えて今にも溢れてしまいそうだ。
察したのは、彼が見ているのは楼ではなく、自分に似ているという女だと言うことだった。
誰もが楼に望むのは、乃々子と言う女の虚像でしかない。
「僕が言わなくて、他に誰が貴方に言えるんですか? 乃々子さんはもういないんですよ?」
不思議と怒りは湧かなかった。
眼前で打ち震え涙を必死に堪えている男が哀れに想えて、現実を突き付ける。
望むものを与えられるのは自分しかいないのだと優しく説き伏せようとした。
今はただ、代わりでも虚像でも何でも良い。
誰かの心に残りたいと願ったのははじめてのことだった。
「お前は、乃々子さんの代わりじゃねぇだろ! ふざけんな! どんなに似ていようが、乃々子さんとお前は全然ちげぇんだよ。どっちかっつぅと、お前の中身は親父さん似だろ。おぞましいわ。ゾッとする。本当にやめてくれ」
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