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一章:編集長は快楽に流されました
快楽に勝てる人間など、いないに等しい 05
しおりを挟む嫌そうに眉を顰める寧をマジマジと見詰め、ふはっ、と息を吐き出した。
本気で頭を叩きにくる彼の手首を掴み、堪え切れない笑い声を首筋に埋める。
「きっと貴方だけですよ。父親似だとは一度も言われたことがない」
感じたことのない爽快感に肩が震えた。
込み上げてくるものが何かなど楼には解らない。
嗚咽を呑み込んで寧の皮膚に噛み付く。
抑え切れなかった水滴が首元に落ちたことに気付いていてもそこには触れてこない。
こんなにも胸が優しく充たされ嬉しくなることはなかった。
「っ、お前は犬か」
痛みに息を詰めても寧は怒らなかった。
されるがままにジッと動かずにいると、楼の舌が噛み跡をなぞっていく。
自分の零した涙を舐め取っているようでもあった。
「編集長。澤田さん。やすし、さん。……名前、呼んでも良いですか?」
唐突の問い掛けに寧は目を見張る。
縋るように揺れる瞳を見てしまえば、嫌だとは言えなかった。
無言で楼の頬に手を伸ばし撫でていく。
綺麗な面立ちは中性的で乃々子さんに似ている。
姉のように慕った初恋の人の忘れ形見だ。
殴って逃げ出したいと思っても、寧には出来なかった。
強く拒めば彼が壊れてしまいそうで拒否することが恐ろしい。
「ねえ、いいって言ってよ」
弱々しい声音に寧の心は乱れてしまう。
年の離れた部下に下の名を呼ばれるのには抵抗を感じるが、それすらもどうでもよくなってしまった。
「……今だけ、だぞ」
小さな声で答えたのが聞こえたのか、痛い程に強く抱き締められる。
耳元で何度も「寧さん」と囁かれ、何故なのか切なくて堪らなくなった。
「さか、つ。もう離せ」
楼の薄い胸板を押し、今にも泣き出しそうな楼から離れようとした。
深入りする前に彼から逃げてしまいたい。
こんなにも心が揺れるのだ。
大事に大切に想ってしまったら手遅れだと思った。
「駄目ですよ、寧さん。言ったでしょ? 貴方を抱きます」
それでも、何度も湧く逃げ出したい欲求よりも、年下の男を放っておけない情の方が勝ってしまったのだ。
普段は見せもしない真剣な眼差しに見詰められてしまえば、寧にはどうにも出来なかった。
体躯から余計な力を抜いていく。
他人と性的に触れ合ったことなどない寧には未知の領域でどうしていいのか解らずに「さかつ」と掠れた声で名前を呼んでいた。
「大丈夫です。優しくしますから。……ねえ、楼って、呼んでよ」
コツン、と合わさった額から男の温もりを感じる。
懇願にも似た響きが寧の胸を引き千切ろうとする。
「やぐ、ら」
呟いた名前に愛しさが込み上げた。
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