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一章:鬼畜極道は似非王子を騙す
王子とキノコと学校生活 02
しおりを挟む何故なのかは知らないが、明紫亜は昔から気分が高揚したり、気持ちを落ち着かせたい時には、額や頭を誰かの肩口に押し当て擦り付けてくる。
気分が良い時の彼からは、くふり、だったり、くふくふ、だったり、何の音なのか判別しにくい音が漏れてくる。
「何かあったら僕のところにくるんだよ? 僕が守るから」
握った手を引き寄せ明紫亜を抱き締めた。
未だに細い体躯はほっそりとしていて折れてしまいそうだ。
去年までは同じクラスだったのが、今年は離れ離れになってしまった。
近くで見守ることが出来ないことに、得も知れない不安が蒼真の表情を曇らせる。
「ソーマ、苦しいよ。けど大丈夫。僕、迷惑掛けないように頑張るから」
もぞもぞ、とキノコ頭が腕の中で動き、蒼真から抜け出ようとするのを許さずに更に力を込めた。
力では敵わないと諦めたのか明紫亜の腕が蒼真の背中に回り、ゆっくりと撫でていく。
小さな掌が辿る感触に胸が熱くなった。
彼はいつでもさりげない遠慮をみせる。
迷惑にならないように、と気を配って生きているのだ。
同い年の従兄は、雪代の人間を家族だと受け入れはしても、明紫亜から家族の一員になろうとはしない。
何処かで見えない一線を引くことを自身に強いているようだった。
「メシアの為なら、僕は何があっても迷惑だなんて思わない。家族なんだ。当たり前だろ?」
家族だと自分で口にする度に虚しくなる。
本当は解っている。
明紫亜が一番に望む家族は、母親なのだ。
子供として焦がれて当然の温もりを、彼は求めないようにしていた。
手に入らないと諦め、それに近いものからも遠ざかろうとする。
涼子のことを「ユキちゃん」と苗字で呼ぶのも、甘え過ぎてしまうことを無意識に恐れてのことなのだろう。
養ってくれる家族ではあっても、全てを委ねることはしない。
明紫亜と雪代の人間の間には、見えない壁があり、誰もが気付いていながら、口に出すことはしなかった。
明紫亜が母親以外の家族を望むことはないと、蒼真とて解ってはいる。
言葉だけでも「家族」だと示していないと、蒼真の手から消えてしまいそうで、ことあるごとに「家族」なのだと口にする。
偽りだと気付いていながらも「家族」なのだと言い張ることに、蒼真は言い知れぬ虚無感を抱く。
「う、ん。ありがと、ソーマ。僕、ソーマのそういうとこ、大好きだよ」
明紫亜は無理に笑顔をみせるようになっていた。
涙を流すことが罪だとばかりに泣かなくなった。
下手くそな笑みで自らを騙そうとする彼が、泣きそうに歪んだ顔を必死で誤魔化そうと笑う彼が、堪らなく愛しくて痛々しい。
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