冤罪悪役令嬢はヤンデレ王太子に溺愛監禁される

三日月深和

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ストーカーと冤罪令嬢

貴方のいない間に(2)

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 ***
 
「リリーナ様」

 十七時、優雅に紅茶を嗜む時間に訪ねてきたメイドが一人。

「あらミソラ、何かご用?」
「はい」

 そこでメイドは一つ頭を下げ、リリーナの指示で位置を戻すと再び口を開く。

「ここ数日またご教養を確認なされているそうで」
「えぇ、殿下の居ぬ間に好きにさせてもらっていますわ」
「それはディードリヒ様もお喜びでしょう。私は提案がございましてこの場にお邪魔させていただきました」
「提案?」

 リリーナが持っていたカップを音もなくソーサーへ移すと、ミソラは「はい」とまた一つ言葉を返す。

「護身術の習得は如何でしょうか」
「護身術…講師には誰が?」
「僭越ながら私めが行わせていただきます」

 そこでまた頭を下げるミソラに顔を上げるよう指示を出すも、リリーナは彼女を訝しむ目で見ている。

「…貴女、私を騙していたのでしょう?」

 訝しむ視線も何も、リリーナは抱えていた三人の侍女の中でミソラを最も信用していた。寡黙だが頼り甲斐があり、マナーや所作にミスもない。侍女は普段主人の部屋を自由に使っていいとは言われているが、そういった側面のない、仕事上の関係と言った側面の強い彼女を気に入っていたのである。

 そんなミソラが自分の知らないところであの王太子に個人情報を流していたと思うとショックを通り越していっそ悲しみさえあった。

「それに、この間まで貴女のことを見かけもしなかったのに急に話を振ってきた理由がわかりませんわ」
「それに関しては『実はいました』としか…」
「…?」

 眉間に皺を寄せるリリーナに対してミソラは涼しく真実をオブラートに包む。

「変装術のご指導もできます、とだけ」
「…やっぱり貴女からは受けたくないですわ」
「しかしこの屋敷で最も強いのは私だと自負しております。ついでにディードリヒ様推薦です」
「何があったらその様なことに…」
「如何でしょう。リリーナ様は素養がございますので、ディードリヒ様に一矢報いることも可能ではないかと」
「…」

 “一矢報いることができる”、その言葉にリリーナは心が揺れる。確かにいつまでもやられっぱなしというわけにはいかない。

 少し考えはしたが、答えは出た。

「いいでしょう。明日のスケジュールを調整しますわ」
「ありがとうございます」

(自衛は大事ですもの。どんな意味であったとしても)

 いっそディードリヒに日頃の恨みを込めて一泡吹かせてやろう、まで想像したリリーナである。うまくいく日が来るのかは定かでないが。

「それにしても」

 そうリリーナは視線を逸らす。

「殿下が推薦したと言うのは護身術を習うことかしら、それとも…」
「どちらも、でございます」
「…」

 リリーナは少し呆れた様子で紅茶を一口飲み下した。

「私が外へ出ることはもうないのですから、不要ではないかしら」
「ディードリヒ様が何をお考えかは、私にもわかりかねます」
「…そう」

 静かに言葉を流す彼女に、今度はミソラが問う。

「ですがそれを仰ってしまうならば、リリーナ様も同じように私には感じます」
「…何が言いたいのかしら」
「『この屋敷から出ない』と仰るのであれば、この日々もまた、不要となってしまいます」

 彼女の身は、確かにディードリヒから見て守られるべきであろう。だからこそ屋敷にいたところで非常時のためにと言い訳をすれば護身術を受ける理由にはなる。

 しかし、リリーナ自身が取り戻そうとしている日々はどうだろうか、一つ一つは忘れてしまっても生きていけるのだ。極端な話生きていくだけなら必要はないし、ディードリヒはそんな怠惰な彼女さえ愛してしまえる。

 しかし彼女にとってそれは正解ではない。
 そう伝えたいように、彼女はカップをソーサーへ移した。

「…わかっています、そのようなことは」

 もしかしたら、ディードリヒは今彼女がやっていることに対していい顔をしないかもしれない。彼が望んでいるのはきっと自立ではなく堕落で、この屋敷以外に拠り所が無くなればいいと思っている可能性もある。

「ただ不安でならないのです」
「…」
「殿下のお言葉に、私は」

 それでも、本当に何かが変わるなら。

「…いえ」

 伏せた目は開かなかった。落ち着かなければと自分に釘を刺す。
 少し、あの綺麗な笑顔がちらついた。

「ただの暇つぶしですわ。皆さん声をかけたら興が乗ったのでしょう、あれやこれやと用意して下さって大変楽しいんですの」
「…左様でしたか、失礼いたしました」

 少し無理やり笑った自覚があって、見抜かれていないか、少し不安になる。それでも今は、期待してはいけない。

 ミソラは静かに頭を下げると挨拶をして去っていった。

「…愛してない」

 相手に都合のいい嘘を吐けばいいのに、自分に都合のいい嘘しか出てこない。
 どんなに必死でブランクを取り戻したって、無意味だと一番わかっているのは自分で、それでも足掻いてしまう。

 本当のことを認められないまま。
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