冤罪悪役令嬢はヤンデレ王太子に溺愛監禁される

三日月深和

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ストーカーと冤罪令嬢

冤罪を晴らす時(3)

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「父上!」
「国王様!」

 会場にとってはまさかの発言である。王子とオデッサは本日の主役、それがまさか会場をおわれるなど、また周囲がざわついた。
 騎士に誘導された王子たちは抵抗し拘束される中、王は玉座からリリーナたちをみると、悲しげな目を向ける。

「すまなかった、リリーナ嬢」

 王の言葉は謝罪であった。
 ざわつきの収まらない会場で、リリーナは流れるように頭を下げる。

「勿体なきお言葉ですわ、国王様」
「そんなことはない。リヒターのせいで要らぬことをした。フレーメン王国からの書簡で事情は全て把握している」
「!?」

 驚いたリリーナがディードリヒに振り返ると、彼はただ笑って返した。

「来賓諸君、本日は勝手ながら不測の事態につき解散とする」

 会場はもはやざわざわ、ではなくがやがや、といった様相になってきている。慌ただしく騎士たちが来賓を誘導する中、王子たちのその後もわからずリリーナとディードリヒは別室へ案内された。
 
 ***
 
「こちらへどうぞ」

 一人の騎士に案内された別室の扉が開くと、リリーナの感情が一瞬で急激に高まっていく。部屋の中で彼女を待っていた人影は、確かに彼女の心を震わせた。

「お、お父様、お母様…」

 震える唇は二人を呼ぶことさえ躊躇っている。しかし部屋の中で彼女を迎えた二人は座っていたソファから立ち上がるとリリーナの元へ駆け寄ってきた。

「リリーナ!」

 彼女の両親は、彼女の名前を呼びつつもその腕の中に収めることを躊躇っている。リリーナもまた、二人との距離を測りあぐねていた。

「リリーナ…!」
「お母様…」

 それでも一歩踏み出した母親は迷うことなく娘の頬に触れる。その存在を確かめるようにあちこちに触れ、最後は強く抱きしめた。

「生きててくれてよかった…!」
「…お、お母様」

 涙声の母親はしっかりと抱きついて離れない。しかしそのままでは良くないと、ディードリヒが助け舟を出した。

「皆さん、一度座りましょう。ここで話していてもよくないですから」

 ディードリヒはぎこちない三人をソファに誘導する。向かい合うように座った四人には重い空気が漂っていた。

「リリーナ…」

 最初に口を開いたのは彼女の父であるマルクス。重々しい口どりで彼女の名前を呼ぶ父は、実の娘であるリリーナとどう向き合ったものかと戸惑っている。

「リリーナ、本当に生きていてくれてよかった」

 次に声を上げたのは母であるエルーシアだった。ハンカチを手に持ったエルーシアは目尻に溜まった涙を拭いながらリリーナを見ている。

「お父様、お母様…」
「…まだ、親だと思ってくれるのかい?」

 控えめな父親の問いに、おず、とリリーナも口を開く。

「…私のお父様とお母様は、お二人だけですから」
「…ありがとう、リリーナ」

 しんみりと静かな空気の中にノックの音が入ってくる。静かにドアが開くと、豪奢な鎧を着た二人組を連れた王が中へ入ってきた。王は備えられた上座のソファに座ると、頭を下げる全員に対して顔を上げるよう指示を出す。

「待たせたの」
「いえ、待つなどと言うことは」

 王の言葉にマルクスが答える。

「よい。少しここに来るまでに手間取った」

 王はそう言うと騎士の片割れに指示を出し、一つの封筒を受け取った。中身を確認せず目の前のローテーブルにそれを置くと、ソファの肘置きに肘を置いて指を組む。

「まずは改めてリリーナ嬢に謝らなければならん」
「!?」

 王の言葉にリリーナは動揺する。王が自分に対して何を謝ろうと言うのか。

「リリーナ嬢の行った罪は、殺人などではないと当時にはわかっていたことであった」
「それは、どういう…」
「そもそもにおいて、リヒターの提示した証拠はあまりにもお粗末での。本当は其方ではないのだろうと察しはついていたのじゃ」

 王は部屋の中にすでに待機していた侍従に全員分の紅茶を持ってくるよう指示を出す。

「本来であれば、我が国において貴族の者の殺人は極刑が基本。しかし貴族牢へ其方を移したのは、オデッサ嬢に対する嫌がらせへの罰のようなものじゃった」
「そんな…」
「しかし嫌がらせ程度にしては重たい罰じゃったの。そこに関してはあの時其方の潔白を示す証拠がなかった故、仕方なかった」

 侍従がそれぞれの前に紅茶を置いていく。静かな室内にその音だけが響いた。

「ご両親に関してもそうじゃな」

 そう言うと王はマルクスを見る。

「…リリーナが社交界に戻るのは難しいだろうと、父様たちは判断した。だから数年したら市井におろし、金銭面で援助するつもりだったんだ」
「何も聞いてまいせんわ…」
「そうじゃろう。余が口止めをした。其方を混乱させたり、罪を軽く見てもらわないようにしたかったからの」

 リリーナは出された紅茶を飲むべきか悩んでいた。正直に言えば心を落ち着かせるため一口、と言いたいところだが、空気が重く手が伸びないでいる。

「その最中じゃ。この封筒が届き、其方が誘拐されたのは」
「!」
「なんだかんだと半年近く前か。まず其方が突如誘拐された。当然城は騒然となり、大規模な捜索も行われた」

 なんせやり口があまりにも派手だっからの、と王はつけ添え顎鬚を撫でた。

「市井の方にも手配状を出したりと大騒ぎじゃった。その中でこの封筒が正式な手段で届いた」

 王は紅茶を一口飲み下す。

「中には其方の潔白を示す証拠がぎっしり詰まっておった…何事かと返事を書けば其方をフレーメンで預かっていると言うではないか」
「あず、かる…?」

 あの状況は預かるとはとてもいい難いが、それでも貫き通したのだろうか。

「もちろん返してもらうよう交渉した。しかし相手は其方の潔白を証明する代わりに嫁に欲しいと言ってきたのじゃよ」
「!」

 リリーナは勢いをつけて隣に座るディードリヒを見た。相手はご機嫌に笑うばかりで特に釈明しようともせず…リリーナはため息しか出ない。

「確かに外交的には美味しい話じゃ。本当に先方の言う通りなら其方の潔白も証明できる、ルーベンシュタインの名も返すことができよう」
「…」

 狼狽えるリリーナ。
 願うような両親の視線も、申し訳ないと語る王の視線も、笑顔で変わらないのに不安でたまらないディードリヒの視線も、どれに答えたらいいのかわからない。

「以上がここまでのあらすじじゃな。この度は本当にリヒターが馬鹿なことをした。親として申し訳ないと思う。すまなかった」

 王の視線は真摯なもので、悪いのは彼ではないのにと考えてしまう。
 そして自分の目の前に座る両親もまた、申し訳ないと言外に伝えながら言葉をこぼした。

「…リリーナ、父様たちのしたことはとても許せることではない。だけど…復縁、させてくれないか」
「復縁…」
「貴女があの子に悪戯をするのを、母様たちは止められなかったわ。王子殿下と愛のない許婚なのに、誰よりも貴女が努力をしていたことを、母様たちは知っていたから」

 母はまた、目尻に溜めた涙を拭う。その肩を抱く父もまた、涙を堪えているように見えた。

「それがこんなことになるなんて…父様たちは不甲斐ない親だ。それでも帰ってきてくれ、リリーナ」
「…」

 リリーナは返答に困ってしまい、少し黙り込む。自分を思ってくれる人たちにどうしたら答えを出せるのかと。
 ふと、彼女は隣に座るディードリヒを見た。彼はこちらに応えていつも通り王子様の微笑みを見せているようで、その目は不安に濁っている。

「…」

 その姿を見たリリーナは、心底がっかりしてディードリヒの頬をつねってやろうかと思った。
 まだ不安なのだ、相手は。自分が古巣に帰るのではないかと不安でたまらないが、それでもこちらの意思を尊重しようと思おうとしている。

 その姿を見ていたら、なんだかいろんなものがどうでもよくなってしまった。

「…そうですわね」

 リリーナは吹っ切れたと言わんばかりに背筋を正す。

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