37 / 159
ストーカーと冤罪令嬢
月明かりに照らされて
しおりを挟む********
屋敷に帰ってきて最初に目にしたのは、紙吹雪が舞う光景。
「「「おめでとうございます!」」」
玄関ホールに使用人一同が集まって、垂れ幕を持ったり紙吹雪を撒いたり。何事かと驚いていると、垂れ幕に“復権&婚約おめでとうございます”と書かれていた。
「おかえりなさいませ、リリーナ様!」
メイドが一人笑って出迎えてくれる。他の使用人も明るい雰囲気で出迎えてくれていた。
驚きつつも、ひとまず垂れ幕について問う。
「復権もなにも…どうしてわかったんですの?」
戸惑うリリーナに、メイドは答える。
「信じてましたから」
「…!」
「さ、リリーナ様! 殿下も! 食堂にご馳走用意してますよ!」
メイドはそうまた笑って、リリーナが横にいるディードリヒを見ると、彼はただ穏やかに笑った。
「さぁリリーナ様、身内のパーティですからこんな豪奢なドレスは着替えてしまいましょう」
「!?」
後ろから唐突にかけられた声に振り向くとミソラの姿が。リリーナは背中を押され強制的に移動されつつ、ミソラはディードリヒを見て「ディードリヒ様も着替えてきてください」とそれだけ残すとそのままリリーナを運んで行った。
***
普段使いのシンプルなドレスに着替えて食堂に向かうと、すでに中は賑わっているように見える。そっと中に入ると、ラフな服装に着替えたディードリヒがすかさず彼女を見つけた。
「リリーナ!」
「…殿下」
ディードリヒはリリーナのラフな姿にご機嫌である。「やっぱりリリーナは自然体が一番だよ」と言いながらすり寄ってきたのでさっと避けた。
それにしても、と食堂を見渡すとなかなかの盛り上がりだ。今日は無礼講ということなのかワインを嗜んでいる使用人もいる。
「僕が良いよって言ったんだ」
「殿下が?」
不思議そうに周りを見ているリリーナに気づいたのか、ディードリヒが言う。
「ここまでみんな頑張ってくれてたから。今日は一区切りってことで」
そう話す彼の表情は穏やかだ。
「…優しいのですね」
「まぁ、城じゃできないかもね」
流石に城に勤めている人数の無礼講は難しいだろう。しかしこの屋敷に勤めている使用人は二十人といない。十分な人手を確保していると言っても、この小さな屋敷ではたかが知れているということだ。
「リリーナ様!」
賑わいの中、メイドの一人がこちらに気づいて声をかけてくる。
「リリーナ様、おめでとうございます!」
「ありがとう」
「これで殿下と正式にご婚約されるんですよね!」
「え、えぇ…そうなるんじゃないかしら」
実際、婚約を行うのはスケジュールの問題上少し先になるだろう。それ以前にやることが多い。
「でも…そうしたらリリーナ様と会えなくなってしまうんですね…」
「…」
「リリーナ様は使用人一同にもとても優しくしてくださったので…寂しいです」
「そんな、何も明日いなくなるわけじゃないのだから…」
「いいえ」
涙ぐむメイドを宥めていると、横からずい、とミソラが現れる。
「明日より行動を開始します。リリーナ様には明日、急ですがご実家に帰って頂きご自身のお荷物をまとめて頂きたく」
「明日ですの!?」
「話はすでに通してあります」
「明日一日くらいは休ませて欲しいものですけれど…」
渋るリリーナに、ミソラは畳み掛ける。
「もうこれ以上リリーナ様を隠す必要もありませんので」
「確かに復権したのにこんなお屋敷ってわけにもいかないですよね…」
さっきまで涙ぐんでいたはずのメイドまで参加して、あれよあれよと話が進んでしまいそうで困っていた時、後ろから声がした。
「僕はもう少し後でいいと思うけどな」
声に反応して振り向くとディードリヒの姿が。
「殿下!」
「ここは僕とリリーナの愛の巣なんだから…三日、いや三ヶ月…三年先でもいいんじゃないかな」
顎に手を添え希望に満ちた表情でディードリヒは夢を語るが、ミソラはその希望を叩き潰す。
「ディードリヒ様が帰らないからリリーナ様が巻き添えくってるんですよ」
「帰らないしリリーナを帰す気もない」
「そういうところがあるから明日とかって話になってる自覚あります?」
「帰ったらリリーナと二人きりになれるかわかんないだろ」
「「…」」
睨み合う二人に困り果てるメイド。
リリーナは三人を見て、一つ大きなため息をついた。助けを求めてきたメイドを軽く宥めてディードリヒに声をかける。
「あら、城に帰るのがお嫌でして?」
リリーナの声にディードリヒが振り返る。
「私、これでもあなたとの結婚を楽しみにしてましたのに」
「…え?」
「結婚などは所詮儀式ですわ。その程度で貴方が変わるわけないのですから、それこそ共に飛び立つ意味があるというものでしょう? おわかりになって?」
「…!」
ディードリヒは無言で嬉しそうな顔を見せると、食堂の外へ歩き出す。
「急いで支度するよリリーナ!」
しかし今にも飛び出しそうな彼の服の裾をリリーナは掴んで引き留めた。
「少しは落ち着きなさい」
「でも、リリーナ…」
「今はこの場を楽しみましょう。せっかく前向きなお祝いなのですから」
ちらりとディードリヒを見るリリーナに、彼は満足そうに笑う。
「うん、リリーナ」
そうして二人は喧騒へと戻っていった。
***
「なんでしょう、お話とは」
盛り上がる食堂を抜けた屋敷の庭。月明かりに照らされるその場所で、リリーナとディードリヒがふらふらと歩いている。
煉瓦でできた道筋はそう長いわけではないが、ゆっくりと歩いていれば花々を楽しむことができた。
「…リリーナは、花が好きだったよね」
「? え、えぇ…」
リリーナは花をよく好む。好きな花は白百合で、実家では時折飾ったりしていた。
「わかってたから、ここの庭には力を入れてもらったんだ。そんなに大きくないけど綺麗でしょ?」
「それは…はい、気に入っていますわ」
初めて見た時から綺麗だとは思っていて、自分のためかどうかは考えていなかったが、そう言われると嬉しいものがある。
「「…」」
そこで会話が途切れてしまった。
珍しいこともあるものだ、とは思いつつもどこか緊張した相手の様子が気になる。
「…今日は満月、なんだね」
「…そう、ですわね」
「紺のドレス、照らされて綺麗だよ」
「あ、ありがとうございます」
確かに今着ているのは紺色がベースのドレスではあるが、急になんの話だと戸惑ってしまう。
「「…」」
また途切れる会話。
なんだがこっちまで緊張してしまいそうだ。
仕方ないので少しばかり月明かりを眺め、それからディードリヒを見ると、彼がまた不安げな顔でこちらを見ているものだからまた少しむくれる。なのでまた文句を言ってやろうと歩き出した時、彼が近づいてきて自分の手を取った。
「!」
「いかないで」
「…?」
「月に、連れていかれそうだ」
「…そんなわけないでしょう」
「あるよ。リリーナは綺麗だから」
「…」
少し黙ってしまう。
こういうところに弱い。
純粋に、自分を求めてくるところ。本当に自分をいいものと思って疑わないところも。
つい、“仕方ないな”と思ってしまう。
「あぁ、えっと…」
そこでなぜか、ディードリヒが目を逸らす。今までなかった光景に驚いていると、少し震えた声を出した。
「緊張するな…」
「…貴方が?」
相手がここまで緊張したところなど見たことがない。何がその要因なのか。
それでも、一つ決意したように彼がこちらを見る。
「ちゃんと言ってなかったと思って」
「…?」
惚けていたら、短いキスが降ってきた。
「!」
驚くと、声が聞こえる。
「僕は、何があってもリリーナ・ルーベンシュタインを愛すると誓う。だから」
そう話す水色の瞳は、月明かりに照らされて綺麗で。
その視線が重なって、囚われる。
「だから…僕と結婚、してくれませんか?」
惹き込まれて…声を失った。
「…!」
「あぁ、やっぱ、緊張するな」
心臓が、静かに高鳴っている。
嫌な感じはしない。むしろ心地いいような、喜びがそこにあって、少しだけ泣きそうになった。
「!」
掴まれた手が優しく握られて、我を取り戻す。
「…返事、もらっていい?」
珍しく、不安げなのではなくしおらしい彼の言葉に、なんだか気が抜けて笑いそうになる。しかし敢えて気を引き締めて、いつも通り自信に満ちた笑顔で返した。
「決まっているでしょう。“はい”と答えますわ」
はっきりと目線は相手を見て、自信に満ちた声と、表情で。彼の好きな自分で、言葉を返す。
すると彼は、また言葉にする前に表情で喜びを表して、勢いよく飛びついてくる。
「やったぁ!」
全身で喜びを表現する彼の背中を叩いて宥めようとするも、今は意味をなさない。
「最初からわかっていたことでしょう!」
「そういう問題じゃない。嬉しいものは嬉しいよ!」
そうやって彼は全身で喜んで、また自分に愛を伝えてくる。
「愛してる、愛してるよリリーナ」
「…私も、ですわ」
辿々しい返事でも、ディードリヒはまた強く抱き締めてきた。それが嬉しくて、そろりとその背中に手を回す。
2
あなたにおすすめの小説
わんこ系婚約者の大誤算
甘寧
恋愛
女にだらしないワンコ系婚約者と、そんな婚約者を傍で優しく見守る主人公のディアナ。
そんなある日…
「婚約破棄して他の男と婚約!?」
そんな噂が飛び交い、優男の婚約者が豹変。冷たい眼差しで愛する人を見つめ、嫉妬し執着する。
その姿にディアナはゾクゾクしながら頬を染める。
小型犬から猛犬へ矯正完了!?
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
転生したら4人のヤンデレ彼氏に溺愛される日々が待っていた。
aika
恋愛
主人公まゆは冴えないOL。
ある日ちょっとした事故で命を落とし転生したら・・・
4人のイケメン俳優たちと同棲するという神展開が待っていた。
それぞれタイプの違うイケメンたちに囲まれながら、
生活することになったまゆだが、彼らはまゆを溺愛するあまり
どんどんヤンデレ男になっていき・・・・
ヤンデレ、溺愛、執着、取り合い・・・♡
何でもありのドタバタ恋愛逆ハーレムコメディです。
じゃない方の私が何故かヤンデレ騎士団長に囚われたのですが
カレイ
恋愛
天使な妹。それに纏わりつく金魚のフンがこの私。
両親も妹にしか関心がなく兄からも無視される毎日だけれど、私は別に自分を慕ってくれる妹がいればそれで良かった。
でもある時、私に嫉妬する兄や婚約者に嵌められて、婚約破棄された上、実家を追い出されてしまう。しかしそのことを聞きつけた騎士団長が何故か私の前に現れた。
「ずっと好きでした、もう我慢しません!あぁ、貴方の匂いだけで私は……」
そうして、何故か最強騎士団長に囚われました。
【完結】離婚を切り出したら私に不干渉だったはずの夫が激甘に豹変しました
雨宮羽那
恋愛
結婚して5年。リディアは悩んでいた。
夫のレナードが仕事で忙しく、夫婦らしいことが何一つないことに。
ある日「私、離婚しようと思うの」と義妹に相談すると、とある薬を渡される。
どうやらそれは、『ちょーっとだけ本音がでちゃう薬』のよう。
そうしてやってきた離婚の話を告げる場で、リディアはつい好奇心に負けて、夫へ薬を飲ませてしまう。
すると、あら不思議。
いつもは浮ついた言葉なんて口にしない夫が、とんでもなく甘い言葉を口にしはじめたのだ。
「どうか離婚だなんて言わないでください。私のスイートハニーは君だけなんです」
(誰ですかあなた)
◇◇◇◇
※全3話。
※コメディ重視のお話です。深く考えちゃダメです!少しでも笑っていただけますと幸いです(*_ _))*゜
主人公の義兄がヤンデレになるとか聞いてないんですけど!?
玉響なつめ
恋愛
暗殺者として生きるセレンはふとしたタイミングで前世を思い出す。
ここは自身が読んでいた小説と酷似した世界――そして自分はその小説の中で死亡する、ちょい役であることを思い出す。
これはいかんと一念発起、いっそのこと主人公側について保護してもらおう!と思い立つ。
そして物語がいい感じで進んだところで退職金をもらって夢の田舎暮らしを実現させるのだ!
そう意気込んでみたはいいものの、何故だかヒロインの義兄が上司になって以降、やたらとセレンを気にして――?
おかしいな、貴方はヒロインに一途なキャラでしょ!?
※小説家になろう・カクヨムにも掲載
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる