冤罪悪役令嬢はヤンデレ王太子に溺愛監禁される

三日月深和

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彼女の好きなこと

王妃様のお茶会にて(2)

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「皆さんリリーナ様が素敵な方だから緊張してお喋りができないのかしら。もっと近くでお話ししましょう?」

 そう言うと、ヒルドは自ら進んで席を立ち、リリーナの右隣に座った。ファリカ以外の令嬢もあわててヒルドの付近に座り直し、その状況で優しく笑うヒルドにリリーナは少しばかり動揺する。

 正直言って何を考えているかがわからない。そうまでして自分を派閥に引き入れたいのかと勘繰ってしまう。


「さぁ、これでお話ししやすいわよね」

 そう笑うヒルドにリリーナは肯定を返しながら笑顔を作る。今は表情を崩していい時ではないと。

「何かお話のきっかけがほしいわね…何かリリーナ様に訊きたいことがある方はいらっしゃる?」

 ヒルドからの問いかけに「はい」と返事をした令嬢が一人いた。声の方を向くと、ファリカがこちらを見ている。

「殿下はルーベンシュタイン様の前ですとどういったご様子なのでしょうか?」

 ファリカは確かにそう問うてきて、リリーナは言葉を濁しつつ内心で頭を抱えた。
 まさか甘ったれの駄々っ子でヘタレな上にストーカーだとは言いづらい。

「やだアンベル様、そういったことはお二人の秘密でなくて?」

 一人の令嬢が言う。しかしファリカは色めき立つでもなく、ただ興味や関心といった様子で言葉を続けた。

「皆さんは気になりませんか? あの『仮面の殿下』が恋人の前ではどんな姿を見せるのか」

 ファリカの言葉に、場が少し静まった。しかし空気が冷えているということではなく、どちらかというとファリカの疑問に肯定的であるが故にリリーナの回答を待っている、という様子である。

「…『仮面の殿下』とはなんですの?」

 しかし周囲からすればリリーナの回答はやや期待はずれとなった。リリーナ本人はディードリヒにそんな評価があったのかと気になっただけなのだが。
 そこでヒルドが問いに答える。

「リリーナ様は知らないのですね。ディードリヒ殿下は愛想笑いがとてもお上手なんですよ」
「愛想笑い?」

 なぜそんなことがわざわざ言われるのだろう。愛想笑いなど貴族としては当たり前のことだ。会話にも動作にも仮面を被り、本音と建前をうまく混ぜながら使い分ける。それが社交界なのだから。

「ただ殿下は愛想笑いであることを隠されようとはしないんです。本当は愛想笑いと言っても、もっと自然な笑顔に見せかけるでしょう?」
「まぁ、そうですわね…」

 ふと、この間ファリカの家を訪問した際の違和感に一つ、答えが出たような感覚を覚える。そうだ、愛想笑い。ディードリヒの愛想笑いはあまりにも不自然なのだ。

「誰に対しても“仮面”をかぶって剥がさない…だから『仮面の殿下』と呼ばれているのです」

 しかし故郷にいた頃にそんなことを気にしたことはない。自分が他人にいかに必要以上の興味がなかったかが伺える。
 結局リリーナは己の役割を果たすために努力を重ねたのであって、取り巻きですら損得勘定で決めていた以上言うほど人間と言うものに興味がなかったのだろうと、今更自覚した。

(どうりでリヒター殿下とも関係の進展が見込めなかったわけですわ)

 などとどうでもいい自白をしてしまう程度には、自分の中で納得できてしまったし、自分の努力というものに執着してしまったのもその延長線にあったのだろうと感じた。

「そういうわけなので気になってしまって…殿下はリリーナ様の前ではどういったお顔をするのかと」

 しかし重ねてきたファリカの言葉にはやはり頭を抱えざるを得ない。なんと答えたらいいかとも思うが、やはりディードリヒはリリーナの前でそんな顔はしないからだ。
 当たり障りのない内容を…と少しばかり考えてから回答を口に出す。

「変わった…という部分はありません。思慮深く紳士的な方ですわ」

 ものはいいようである。
 思慮深いなど通り越して思考の先回りをしてくるし、一見丁寧に見えるだけで発言は何かと気持ち悪い。実際のところ変わった人間を集めて煮詰めたような人間だとしか形容できないのだ。

 それでいてリリーナに対してだけは真っ直ぐなのも事実だしその愛は信用に値するとも言える。
 人間とは一筋縄ではいかないものだというより仕方ない。

「殿下は思慮深い一面がおありなのね」

 ヒルドは楽しそうに微笑んでいる。そこに令嬢の一人が小さく眉を顰めた。

「本当に…そんな殿下がヒルド様が隣にいらしていたらどうなっていたのかしら」

 扇の向こうから聞こえる声に、リリーナは反応しない。そもそもわかっていたことに目くじらを立てるなどみっともないと感じているからだ。

「リリーナ様はどこで殿下とお知り合いになったの?」

 今度はヒルドが問う。彼女自身は空気を変えようとは望んでいないらしい。

「故郷にいた頃のパーティでいくつも。もう数え切れませんわ」

 これは嘘だ。
 リヒターとオデッサの話を適当に当て嵌めているようなもので、リリーナとディードリヒはパーティですら十回と会っていない。だがそんなことに興味がある令嬢も早々いないだろう。

「パーティの時だけの逢瀬なんて、ロマンチックですのね」

 ときめくように笑うヒルドの表情が本心なのかまではわからないが、そこへまた一つ声が落ちた。

「でも可哀想なヒルド様…」
「何度殿下に結婚をお申し込みしても応えてくださらなくて」

 五人の中で、リリーナに触れてこなかった令嬢二人が開いた扇の向こうでヒルドを憐んでいる。

「ヒルド様が一番殿下に近しかったのに…」
「ご努力も人一倍なさっていましたのに…」

 リリーナを排斥したいのか、はたまたヒルドに気に入られたいのか、そのどちらでもリリーナが何かを言うことはない。今ここで恥を晒したところで意味がないのは当然なのはもちろん、所詮その程度の者なら相手にする価値もない。

 しかしその声は響いた。

「おやめになって」

 そう言って席を立ったのはヒルド。令嬢たちは驚いた顔で彼女を見ている。

「殿下が選ばれたのはリリーナ様です。私や、他の誰もが口を挟むことではありません」

 ヒルドの強い瞳に令嬢たちは気まずく視線を逸らした。その様子を見たヒルドは座り直すと、リリーナに声をかける。

「ご無礼を謝りますわ、リリーナ様」
「お気になさらないで、私がよそ者であることに変わりはありませんから」

 とは言いつつも、内心は納得していない。本来ヒルドが謝ることではないからだ。

 先ほどのヒルドの様子を見るに彼女の派閥の令嬢でもなさそうな上、むしろ扇の向こうで嗤うようにヒルドを憐んでいたあの二人が謝ることはないだろう。
 話が拗れるので、ヒルドが場を収めてくれた以上わざわざなにか言うつもりもないが、到底納得できるものでもない。

「広い心をお持ちなのですね、リリーナ様」
「そのようなことはありませんわ、オイレンブルグ様」

 内心は憤慨しているのだから、と付け加えはしなかった。
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