冤罪悪役令嬢はヤンデレ王太子に溺愛監禁される

三日月深和

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帰省と誕生日

ルーベンシュタイン邸にて(1)

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 ********
 
 
「おかえり、リリーナ」
「おかえりなさい」

 グレンツェ邸よりさらに馬車で半日かけてたどり着いた、パンドラ王国首都ラムダにあるルーベンシュタイン邸にて一行を迎えたのは、マルクス・ルーベンシュタインとエルーシア・ルーベンシュタイン夫婦。
 リリーナの両親である二人は、久しぶりの娘の帰省に心弾ませながら言葉をかける。

「ただいま戻りました」

 リリーナは両親から歓迎の抱擁を受け、自らもそれを返していく。そして娘への歓迎を終えた両親は次にディードリヒへ視線を移すと、流れるように頭を下げた。

「フレーメン王太子殿下、ようこそパンドラへお越しくださいました。道中お疲れはありませんでしたでしょうか?」

 右手を胸に当て静かに頭を下げるマルクスの隣ではエルーシアが美しいカーテシーでディードリヒを迎えている。
 これは流石と言える話だが、やはりエルーシアのカーテシーはよく磨かれた銀のような美しさを放っていた。カエルの子はカエルとは言うが、やはりエルーシアはリリーナの母親なのだろうと感じさせる優雅なカーテシーである。

「問題ありません。ご丁寧にお迎えいただき感謝します」

 ディードリヒは当たり前のように仮面の笑顔で言葉を返した。言った言葉に嘘はないだろうし、他国である以上一見目下の人間であろうが敬語であることも不思議ではない。ただ、そうやって人と一歩距離を作ろうとするのは変わらないのだな、とリリーナは感じた。

「さぁ、こんなところで立ち話もなんですので中へご案内いたします。大したおもてなしもできないかもしれませんが」

 マルクスはエントランスより奥への道を開けるとすっとそちらへ手を向ける。

「いえ、お気遣いなく」

 ディードリヒの言葉で一行は歩き出す。
 ミソラたち侍女やディードリヒについてきた侍従は別途作業があるためここで一度解散となった。
 
 ***
 
「リリーナはそちらでもうまくやれていますか」

 ルーベンシュタイン邸にある談話室にて、ディードリヒにそう問うたのはマルクス。
 その問いに対してディードリヒは穏やかな声音で答える。

「勿論です。フレーメンでも彼女の淑女としての在り様は評判ですよ」

 返ってきた言葉に両親は安堵した様子を見せた。やはり離れている分手紙では伝わらないこともあるのだろう。

 ルーベンシュタイン家に養子として入る者が現在所用で不在のため、リリーナの侍女二人とディードリヒの侍従が、二人が眠る部屋にて荷物を解いている中、リリーナたち四人は朗らかな談話の中にある。

「手紙ではどうしても主観的な話になってしまうので安心しましたわ。リリーナはフレーメンでも頑張っているのね」
「いえ、そのようなことはありません。私はただ淑女として日々を生きるのみですわ」
「そんなに謙遜しなくていい。リリーナのこれまでの努力は、父様たちが一番わかっているつもりだよ」
「…あ、ありがとうございます」

 感謝を述べるリリーナの表情は少しばかり硬い。
 リリーナの“努力”を深く知っているのはあともう一人いる。今横に座っているその人物と両親、果たしてどちらが一番リリーナの積み重ねてきたものを知っているのか、少し考えてしまった故に。

「リリーナの姿にはいつも驚かされるばかりで…どんな相手にも臆さぬその姿や、芸術のような立ち居振る舞いは常に感動的です」
「…そうですか」

 ディードリヒの放ったリリーナへの賞賛に、マルクスは少し悲しげな顔を見せる。
 リリーナは気づいていない様だが、ディードリヒはマルクスが何を思ってその表情になったのか、すぐに気がついた。

「そうだわ」

 空気が少しでも暗くなる前に、と言わんばかりに声を挟んできたのはエルーシア。彼女は場を明るく切り替えるように華のある笑顔を見せる。

「リリーナはそちらではどう過ごしているのでしょうか? 手紙のやりとりをしていても、この子はあまり自分のことを話さないので気になっていたのです」
「お、お母様!」

 照れたリリーナが母親を止めようと声を上げるも、母親はそれを気に留めず言葉を返した。

「だって貴女、自分のことは体調くらいしか書かないでしょう? こちらの心配ばかりするのですから」
「そ、そのようなことは…」
「あります。あまり心配ばかりかけさせないでほしいわ」

 エルーシアはリリーナを心配するあまり少し怒っている様で、ディードリヒはそのやりとりにリリーナらしさを感じながら少し苦笑いで答える。

「リリーナはこの一年、とても精力的に活動していましたよ。彼女はいま自らが経営する店舗を構えているので」
「お店!?」
「どうして話してくれなかったんだリリーナ」
「う、紆余曲折ありまして…」

 何故かこういった話には慣れていない様子のリリーナ、ディードリヒとしては店のことを両親に話していなかったことも含めて、リリーナの反応を少し不思議に思った。

「香水のお店だよね、リリーナ」
「は、はい…」
「すごいわリリーナ。自分でお店を出せるなんて」

 笑顔のエルーシアに、リリーナは照れたような態度で動きもぎこちない。

「うちの両親とも関係は良好な様ですし、こちらとしても大変安心しています」

 ここぞとばかりにリリーナの今を自慢していくディードリヒ。誇らしげな顔で次は何を言おうかと考えていると、誰かが談話室のドアを叩いた。

「ご歓談中失礼いたします。ミソラでございます。ドアを開けさせていただいてよろしいでしょうか?」

 急なことに何事かと思いつつマルクスが了承の返事をすると、ミソラがそっとドアを開ける。

「リリーナ様、お荷物のことでご確認いただきたいことがございます。お時間よろしいでしょうか?」
「わかりました。すぐ向かいますわ」

 リリーナはミソラの言葉にそう返すと、軽い挨拶を残して去っていった。その様子を三人は見届けて、少し沈黙が降りる。
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