冤罪悪役令嬢はヤンデレ王太子に溺愛監禁される

三日月深和

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帰省と誕生日

養子は予想外の人物(3)

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 ***
 
 夕食を終えたリリーナは一人ルーベンシュタイン邸の庭を眺めている。
 変わらない植え込みや季節に準えて整えられた花々を見つめながら、なんだかんだと二年はこの庭に来ていなかったことを思い出した。

 流石に夜は着込んでいても冷える、と白い息を吐きながら手先を温めていると、視界の外から“ざり”と靴音が聞こえ人の気配を察知する。

「あら、如何しまして?」

 などと、視線を花に向けたまま相手に問うのはいつかの屋敷での出来事を思い出す。

「窓を開けたら見えたから」
「今日は冷えましてよ」
「それはリリーナもでしょ」

 つい夕食前は暗い話をしたばかりだと言うのに、もう何気ない会話ができることが嬉しくなる。
 だがその思いで少しばかり笑うリリーナの表情は、横にいるディードリヒには上手く映らない。

「どうしたの、こんな時間に」
「特に何ということはありません。ただ庭を眺めたくなったんですの」
「…落ち着く? やっぱり実家は」

 そう溢した隣の声は少し寂しげだ。
 リリーナは彼に“そういう人だ”と少しばかり呆れる。呆れると言っても、嫌な感情ではないのだが。

「流石に過ごした年数が違いますから。ですが私は、これからこの屋敷で過ごした年数よりも長くフレーメンにいることになりますのよ」
「あ…」
「やがて向こうのほうが馴染むようになります。今後この家に帰ってくることも少なくなるでしょうから、そういった意味でこの時間は正解だったかもしれませんわね」
「…」

 これで少しは彼の寂しさを紛らわすことができただろうか、そうは思いつつも視線は花を眺めている。
 感じたことをそのまま言葉にしてしまったら、今見ていなければいけない気がして。

「あのさ」

 そう思っていたのに、寒空に響いた短い声に反応して視線がそちらに向く。視線の先のディードリヒもやはり寒いのか、照明に照らされる薄暗い庭でも少し肌の薄い場所が赤く見えた。

「明日は暇だから、またここにこようよ」
「明日…ですか? 構いませんけれど…」

 急な誘いに戸惑う。
 確かに、蜻蛉返りをするのも大変なので明日は予定も何も入れていないのだが。

「明日、リリーナの好きな場所に連れて行って欲しいんだ。それを一つ一つ写真に撮って、アルバムに纏めたくて」
「それは…また急ですわね」
「この庭は今も綺麗だけど、太陽の下で見たらもっと綺麗でしょ? そういうのをさ、一つ一つ大事にしたいと思ったんだ」
「ディードリヒ様…」

 最初は、珍しいと思った。
 ディードリヒが自分以外のものを残そうと発言することが。

 そしてやはり、嬉しいと思った。
 自分だけでなく、自分の過ごしてきた今までも大事にされているような気がして。

「たくさんありすぎて絞れませんわね…三日はかかってしまいますわ」
「流石にそれは大変だな、もう少し絞れない?」
「そうですわね…仕方がありません、首都のみにして差し上げます」

 リリーナはそう言って悪戯に笑い、

「そうしてくれるとありがたいよ」

 ディードリヒは軽い調子で肩をすくめた。

「それじゃあほら、今日はもう中に入ろう。風邪ひいちゃうよ?」
「では私が風邪をひいたらどうしてくださいますの?」
「勿論、僕が看病する。パンのミルク粥だって作れるよ」
「また意外ですわね」
「そういう時、リリーナを看病したいから覚えたんだ」
「…王太子のすることではありませんわ」

 ディードリヒの言葉に、リリーナは困ったように笑う。そして彼が差し出した手を取って歩き出す。

「そろそろ山間部では雪でしょうか?」
「そうかもね。パンドラは降るの?」
「酷いと首都でも交通が乱れますわ」
「それは大変だね…」
「フレーメンは違うのですか?」
「山でもないと降らないかなぁ。見かけたことはあるけど、交通が乱れるなんて聞いたことがないな」
「羨ましいですわね」

 “山なら雪が降る”、のであればグレンツェ領はどうなのだろう、とリリーナは少し考えたが口にするのは控えた。つい夕食前にルーエの問題があったというのに、今ラインハートの名前は出したくない。

「僕寒いの好きなんだよね」
「あら、珍しいと言われませんこと?」
「そうかも。でもほら、寒いと隣の人の温かさがよくわかるでしょ?」

 ディードリヒは繋いだ手をぎゅっと握った。確かにそれは温かくて、隣に誰かがいるのだと伝えてくれる。

「ずっと手を繋いでていい理由にもなるから、好きだよ」

 言葉と共に伝わる温かさに、リリーナも温かく笑った。

「そうですわね。貴方の言葉を聞いていると、私も寒いことが好きになれそうですわ」
「本当? よかった」

 笑顔を返してくれる相手にまた気持ちが温かくなって、先程とは違う意味で手を繋いでいることに嬉しくなる。
 今日はよく冷えるから、より他人の温かさがわかるだろう。
 それならずっと、ずっと手を繋いでいたい。
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