冤罪悪役令嬢はヤンデレ王太子に溺愛監禁される

三日月深和

文字の大きさ
134 / 159
帰省と誕生日

生誕祭前日、ヴァイスリリィにて

しおりを挟む

 
 ********
 
 
 雪が降るほどではないとはいえ、厳しく冷え込む寒さの今日は生誕祭を明日に控えている。
 そんな中、リリーナはヴァイスリリィを訪れていた。

「ごきげんよう、三人とも」

 工房にいたアンムートとソフィアを売り場にを呼び出したリリーナは、一週間ぶりの面々にまず挨拶をする。

 ヴァイスリリィの売り上げは従業員総員の努力もあり順調だ。大きく落ち込むこともなく、期間限定品や新商品が出ればそれに応じて売り上げを伸ばす。
 グレンツェ領での一件から少し経って販売を始めた練り香水や、今の季節であれば期間限定で出しているベリーをメインに香りを組んだ香水など、話題を欠いていないというのも大きいだろう。

 練り香水に使われる蜜蝋は無事にグレンツェ領のもののみを取り扱うことができるようになった。現在は数件の養蜂家と契約を結び取引をしている。おかげで“ブランド感”という意味でも非常に反応がいい。

 練り香水の商品は複数販売しているが、その中でも人気なのは少し特別な蜜蝋を使った商品だ。
 蜜蜂が“一種類の植物のみから蜜を採取した”結果生まれた蜜蝋で、精油などを添加しなくてもその植物の香りがする、というもの。グレンツェ領ではそういった方法で採取できた蜂蜜をブランド品として販売しているそうだが、蜜蝋にも直接的に影響している。

 物珍しさからか品切れを起こすほどの人気を誇っており、リリーナからしては精油の添加していない練り香水はもはやただの蜜蝋では…と思わないこともないが、天然精油が入っていると肌に合わない客などにも話題が広がり、新しい客層を獲得しているのも事実なので心境は複雑だ。

 蜂蜜や蜜蝋の香りなどに植物の種類が影響していることは現地の養蜂家が教えてくれたのだが、そこまで直接案内してくれたラインハートは領内の事情に非常に詳しく、領民とも仲がいいように見えたので意外に感じたのをよく覚えている。

 リリーナはてっきりラインハートは戦闘に脳をやられた男なのだとどこかで思っていたのだが、何かともてなしなど社交に長け領内の仕事もこなし、国境の領主として剣の実力もある…領主としてはとても優秀な印象に少し驚いたのを改めて思い出した。

「こんにちは、リリーナ様!」
「お疲れ様です」
「いらっしゃい、リリーナ様」

 ソフィア、アンムート、グラツィアの三人がリリーナを出迎える。ヴァイスリリィの従業員は工房と売り場を併せて五名いるが、売り場のスタッフはシフト制、工房を任せられているアンムート兄妹は仕事があれば、といった感じだ。
 そう言ったところで、基本的に毎日やることはあるので体調不良や事前の用事がない限り兄妹は店に顔を出している。

「それにしてもリリーナ様、今日はなんのご用事できたのかしら?」
 珍しくリリーナが手荷物を持ち歩いていることに気づいたグラツィアが彼女に問う。
「今日は仕事ではないんですの。皆さんに渡しておきたいものがありまして」
「渡したいもの?」
「これですわ」

 そう言ってリリーナが鞄から取り出したのはリボンで装飾された布の袋。
 リリーナは三人にそれぞれ渡して、三人は一様にその袋を不思議な目で見ている。

「これ、なんですか?」
「ジンジャークッキーですわ。明日は感謝祭ですから、日頃の感謝にと思ったんですの」
「ジンジャークッキー! 俺好きですよ。ありがとうございます」
「あたしも、ありがとうございます!」
「もしかして、リリーナ様の手作りだったりするのかしら?」

 グラツィアの言葉に、リリーナは横に首を振った。

「いいえ、気に入っている店のものです」
「リリーナ様はお料理しないんですか?」
「できはするのですが…あまり機会に恵まれていないのです。長いこと台所には立てていませんわ」
「料理できるんですね…意外…」
「いけませんこと?」
「ダメっていうか、貴族の人って家事は人に任せるってよく言うじゃないですか」
「花嫁修行では習いますわ。裁縫もです」

 こと裁縫に関して言ってしまうと、リリーナは裁縫…特に刺繍が隠れた特技になってしまっている。牢にいた頃、時間を持て余し刺繍を始めてしまったのが始まりで、暇なあまり絵画をハンカチ程度の布に刺繍するなどしていた。
 その頃を思い出して悲しくなるので牢を出てからは針にも触れていないが。

「じゃあじゃあ、今度リリーナ様とお料理作ってみたいんですけど…いいですか?」
「勿論です。その時は時間を調整しますわ」
「わぁ…! ありがとうございます!」

 リリーナの快い返事にソフィアは嬉しそうだが、兄が頭を下げる。

「すみません…妹が無礼で…」
「ちょっとおにい、それどういう意味!?」
「お前な、相手は王族の方なんだぞ。どんなに優しい言い方してくれたって平民に時間割けるわけないだろ」
「正確にはまだ王族入りしていませんが…ソフィアもこの店で頑張ってくれていますから、きちんと時間は作りますわ」
「ほら! リリーナ様もこう言ってくれてる!」
「だからそれとこれは別だって言ってんだバカ!」

 そこから兄妹喧嘩が始まってしまった。リリーナが慌て仲裁に入ろうとすると、グラツィアから声をかけられる。

「リリーナ様」
「なんでしょう、グラツィア」
「期間限定のベリー系、結構売れてるわ」
「そうでしょう。やはりベリーは冬の鉄板ですから」

 期間限定品はリリーナの狙い通り好調な売れ行きを見せているようだ。上機嫌なグラツィアの表情にリリーナはしっかりと頷いていく。

「ベリーって聞くと女性用っぽいイメージがあるから、最初は男性向けの方は渋かったんだけど…試供品が効いたわね」
「そうですか、それは何よりですわ」

 今回期間限定品を出すにあたり、一定以上の金額まで商品を買い上げた客に対して試供品を提供していた。
 試供品は男性向けと女性向けどちらも用意し、客が選べるように準備をして。ただ試供品なので量は少ない。

「ワタシも男性向けの方使ってみたんだけど、ベリーにミントが合ってて素敵だわ。クランベリーなら甘過ぎないし、冬の寂しさに彩りが生まれるの」
「アンムートの行う試作に参加して正解でした。ベリーといえど種類がありますから、一応男性向けとはしていますが男女問わずに使えるよう心がけています」

 リリーナは香水そのものに男女の垣根のようなものは感じていない。
 自分は女性だが、甘さの強い香りよりもすっきりした香りの方が好みで、数は少ないが男性向けと謳われている品にもお気に入りがある。
 だが人によっては甘い香りは勿論のこと、動物性の香料独特の香りを好む者もいるので、結局のところ好みは性差ではなく個人に依存するものだとリリーナは考えているのだ。

 なので宣伝の名目上わかりやすくなるように男性向け、女性向けと区別はするが、売り場での商品の陳列は男女を意識させないよう心がけている。

「女性向けのストロベリーは如何ですか? あちらはバニラを入れて甘い香りに仕上げましたので、若い女性を中心に売れ行きが出ているといいのですけれど」
「それが、女性向けの方が売り上げ的には負けてるのよ。若い子が買っていくのはよく見るんだけどね」
「そうですか…大きく差が出るようでしたら、来年の参考にしていきましょう」
「そうね、言われた通り誰も在庫チェックは欠かしてないから、結果を見てから考えましょ」

 グラツィアの言葉にリリーナは静かに同意した。今はまだ経過を見る段階なので、早急に結論をつけるべきではないだろう。

「さて、私はそろそろお暇しようと思いますわ。エマとバートンの勤務日は今日ではありませんものね?」
「二人は明日よん。明日は生誕祭当日だから、全員で売り場に出ることになると思うわ」
「では言伝て二人の分も渡しておいてください」
「了解よ♪」

 リリーナの言葉にウィンクを返したグラツィアは、その後すぐ後ろを振り返る。

「ほら二人とも、いつまで喧嘩してるの。リリーナ様がお帰りよ」

 グラツィアの少し呆れた声に反応する兄妹。そしてまずソフィアか勢いよくリリーナの元に現れた。

「リリーナ様もう帰っちゃうんですか!?」
「えぇ、明日はイベントがありますから準備をしなければいけないのです」
「そっかぁ…クッキー大事に食べますね!」
「ありがとう、ソフィア」

 二人の会話にアンムートもふらりと現れる。

「忙しいのに、ありがとうございました」
「いいえ、私が勝手に行ったことですから」

 リリーナは焦った様子でちらりと壁にかけられた時計を見る。流石に時間が危うい。

「すみませんがもう行かなくては。また来ますわ」
「わかりました。リリーナ様、また来てくださいね」
「いつでも来てください」
「リリーナ様~またお茶しましょ~」

 挨拶もそこそこに店を後にするリリーナ。
 明日は生誕祭だ。明日顔を出せるかわからない分今日時間を作ったので、スケジュールとしてはぎっちり詰まっている。次の予定に急がなくては。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冗談のつもりでいたら本気だったらしい

下菊みこと
恋愛
やばいタイプのヤンデレに捕まってしまったお話。 めちゃくちゃご都合主義のSS。 小説家になろう様でも投稿しています。

わんこ系婚約者の大誤算

甘寧
恋愛
女にだらしないワンコ系婚約者と、そんな婚約者を傍で優しく見守る主人公のディアナ。 そんなある日… 「婚約破棄して他の男と婚約!?」 そんな噂が飛び交い、優男の婚約者が豹変。冷たい眼差しで愛する人を見つめ、嫉妬し執着する。 その姿にディアナはゾクゾクしながら頬を染める。 小型犬から猛犬へ矯正完了!?

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

転生したら4人のヤンデレ彼氏に溺愛される日々が待っていた。

aika
恋愛
主人公まゆは冴えないOL。 ある日ちょっとした事故で命を落とし転生したら・・・ 4人のイケメン俳優たちと同棲するという神展開が待っていた。 それぞれタイプの違うイケメンたちに囲まれながら、 生活することになったまゆだが、彼らはまゆを溺愛するあまり どんどんヤンデレ男になっていき・・・・ ヤンデレ、溺愛、執着、取り合い・・・♡ 何でもありのドタバタ恋愛逆ハーレムコメディです。

じゃない方の私が何故かヤンデレ騎士団長に囚われたのですが

カレイ
恋愛
 天使な妹。それに纏わりつく金魚のフンがこの私。  両親も妹にしか関心がなく兄からも無視される毎日だけれど、私は別に自分を慕ってくれる妹がいればそれで良かった。  でもある時、私に嫉妬する兄や婚約者に嵌められて、婚約破棄された上、実家を追い出されてしまう。しかしそのことを聞きつけた騎士団長が何故か私の前に現れた。 「ずっと好きでした、もう我慢しません!あぁ、貴方の匂いだけで私は……」  そうして、何故か最強騎士団長に囚われました。

【完結】離婚を切り出したら私に不干渉だったはずの夫が激甘に豹変しました

雨宮羽那
恋愛
 結婚して5年。リディアは悩んでいた。  夫のレナードが仕事で忙しく、夫婦らしいことが何一つないことに。  ある日「私、離婚しようと思うの」と義妹に相談すると、とある薬を渡される。  どうやらそれは、『ちょーっとだけ本音がでちゃう薬』のよう。  そうしてやってきた離婚の話を告げる場で、リディアはつい好奇心に負けて、夫へ薬を飲ませてしまう。  すると、あら不思議。  いつもは浮ついた言葉なんて口にしない夫が、とんでもなく甘い言葉を口にしはじめたのだ。 「どうか離婚だなんて言わないでください。私のスイートハニーは君だけなんです」 (誰ですかあなた) ◇◇◇◇ ※全3話。 ※コメディ重視のお話です。深く考えちゃダメです!少しでも笑っていただけますと幸いです(*_ _))*゜

主人公の義兄がヤンデレになるとか聞いてないんですけど!?

玉響なつめ
恋愛
暗殺者として生きるセレンはふとしたタイミングで前世を思い出す。 ここは自身が読んでいた小説と酷似した世界――そして自分はその小説の中で死亡する、ちょい役であることを思い出す。 これはいかんと一念発起、いっそのこと主人公側について保護してもらおう!と思い立つ。 そして物語がいい感じで進んだところで退職金をもらって夢の田舎暮らしを実現させるのだ! そう意気込んでみたはいいものの、何故だかヒロインの義兄が上司になって以降、やたらとセレンを気にして――? おかしいな、貴方はヒロインに一途なキャラでしょ!? ※小説家になろう・カクヨムにも掲載

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

処理中です...