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第六章 首輪の在り処
三十三話 喉笛の教え 2
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軍略のやり取りが続く中で、玉蓮が目の前の戦に対する一つの策を口にした。
「敵の陽動に、あえて我が中央主力部隊を乗らせます」
玉蓮の指が、地図上の自軍の駒を弾いた。乾いた音を立てて、味方の兵が盤上から消える。
「そうして手薄になった本陣を、餌として敵に曝け出す……いえ、もっと深く喰いつかせます」
玉蓮は、本陣を示す駒を、無造作に後ろへ下げ、横倒しにした。それは「敗走」を意味する形。
「『兵は詐をもって立ち、利をもって動く』……敵将は慎重ですが、あなたへの憎悪は深い。ですから、退却の際、兵に『軍旗』を捨てさせます」
赫燕は顎で先を促す。
「旗を打ち捨て、我先にと逃げ惑う様を見せつけるのです。そうすれば、敵は『赫燕軍が崩壊した』と確信し、罠を疑う理性を失う。功名心に駆られた敵将は、陣形を伸ばしきって飛び込んでくるはずです」
躊躇いなどない。その冷徹な指先に、赫燕のそれを宿らせる。
「間延びした敵の隊列を、この谷間で引き受けます。伏せていた歩兵で退路を断ち、袋のネズミにする。……ですが、包囲はしません」
「なぜだ」
「包囲すれば、敵は死に物狂いで抵抗します。こちらの損失も増える。ですから——」
玉蓮の指が、敵の背後に回り込む経路を鋭くなぞった。
「迅と朱飛の騎馬隊を、敵の両脇から、一点、敵将の首だけを目掛けて突っ込ませます。一撃必殺。総大将の首を確実に仕留めます」
指先を弾き、敵将の駒を盤外へ突き飛ばした。鋭い音が天幕に響く。
「軍を壊すのではありません。指揮系統を潰すのです。そうすれば、手足である数万の敵兵は、ただの烏合の衆となり、自壊します」
赫燕は喉の奥で、くつりと音を鳴らした。
「……お前は、本当に面白い」
彼はそう呟くと、玉蓮の頬を親指で乱暴に擦った。その瞳が妖しく歪む。
「そうだ——最後はこれだ」
「っ……」
突然、視界が揺れた。赫燕の大きな手が、玉蓮の細い首を鷲掴みにしたのだ。
親指が喉元に這わされ、気道を微かに圧迫する。ほんの少し力を込められれば、容易くへし折れるだろう。だというのに、恐怖はない。少しも苦しくないその指の腹から伝わる脈動が、自分の脈と重なり合って脳が痺れる。
耳元に寄せられた彼の唇が、熱い呼気と共に、囁きを紡ぎ出す。
「——そいつの喉笛に、剣を突き立てろ」
「敵の陽動に、あえて我が中央主力部隊を乗らせます」
玉蓮の指が、地図上の自軍の駒を弾いた。乾いた音を立てて、味方の兵が盤上から消える。
「そうして手薄になった本陣を、餌として敵に曝け出す……いえ、もっと深く喰いつかせます」
玉蓮は、本陣を示す駒を、無造作に後ろへ下げ、横倒しにした。それは「敗走」を意味する形。
「『兵は詐をもって立ち、利をもって動く』……敵将は慎重ですが、あなたへの憎悪は深い。ですから、退却の際、兵に『軍旗』を捨てさせます」
赫燕は顎で先を促す。
「旗を打ち捨て、我先にと逃げ惑う様を見せつけるのです。そうすれば、敵は『赫燕軍が崩壊した』と確信し、罠を疑う理性を失う。功名心に駆られた敵将は、陣形を伸ばしきって飛び込んでくるはずです」
躊躇いなどない。その冷徹な指先に、赫燕のそれを宿らせる。
「間延びした敵の隊列を、この谷間で引き受けます。伏せていた歩兵で退路を断ち、袋のネズミにする。……ですが、包囲はしません」
「なぜだ」
「包囲すれば、敵は死に物狂いで抵抗します。こちらの損失も増える。ですから——」
玉蓮の指が、敵の背後に回り込む経路を鋭くなぞった。
「迅と朱飛の騎馬隊を、敵の両脇から、一点、敵将の首だけを目掛けて突っ込ませます。一撃必殺。総大将の首を確実に仕留めます」
指先を弾き、敵将の駒を盤外へ突き飛ばした。鋭い音が天幕に響く。
「軍を壊すのではありません。指揮系統を潰すのです。そうすれば、手足である数万の敵兵は、ただの烏合の衆となり、自壊します」
赫燕は喉の奥で、くつりと音を鳴らした。
「……お前は、本当に面白い」
彼はそう呟くと、玉蓮の頬を親指で乱暴に擦った。その瞳が妖しく歪む。
「そうだ——最後はこれだ」
「っ……」
突然、視界が揺れた。赫燕の大きな手が、玉蓮の細い首を鷲掴みにしたのだ。
親指が喉元に這わされ、気道を微かに圧迫する。ほんの少し力を込められれば、容易くへし折れるだろう。だというのに、恐怖はない。少しも苦しくないその指の腹から伝わる脈動が、自分の脈と重なり合って脳が痺れる。
耳元に寄せられた彼の唇が、熱い呼気と共に、囁きを紡ぎ出す。
「——そいつの喉笛に、剣を突き立てろ」
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