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第六章 首輪の在り処
三十八話 深謀の影 2
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赫燕の隣で微笑む彼女を見れば、あの不敬な歌こそが、本質を言い当てていたのかもしれないと思わされる。この並び立つ二人は、もはやこの世のものではない。
何度も戦場でその名を聞いた、白楊の華。その完璧な仮面の下に、憎しみが込められた冷徹な光と、決して屈することのない、鋼のような意志を隠している。男たちは、その危うさにこそ惹きつけられ、破滅していくのだ。
崔瑾は、自分がほんの一瞬だけ、交渉の場にいることを忘れかけていたことに気づき、拳に力を込める。
「貴国の大都督・劉義殿の学び舎に、類稀なる美しき姫君がおられるという噂は、遠く玄済にまで届いておりました。拝謁でき、この上なき光栄に存じます」
その時だった。玉蓮の首筋に、赫燕の大きな手がまるで所有印を刻むかのように置かれ、その親指が肌をゆっくりと撫でたのだ。
視界の端で、劉永の拳が白くなるのが見えた。彼のまなじりに、激しい感情が滲んでいるのは、誰の目にも明らかだったが、赫燕は意にも介さず、その視線をこちらへと向けてきた。
「大都督・崔瑾殿。あんたは、随分と女に優しいらしいな。こいつが白楊の公主だからか?」
「いえ。ただ興味深い、と。それだけです」
赫燕も同様にその感情の読み取れない目で見つめ返してくる。
「まさか、赫燕将軍にまで捕虜交換の会談の場にお越しいただけるとは」
崔瑾の言葉に、赫燕は口の端を吊り上げた。
「あんたこそ。目的がなけりゃ、こんな退屈な盤面を覗きには来ねえだろ」
「……と、おっしゃいますと?」
「価値のある駒が盤上にある。値踏みに来たんじゃねえのか?」
赫燕の視線が、一瞬だけ、隣の玉蓮に流れた。その言葉と視線に、己の眉が、初めて微かに動く。
赫燕は、ふ、と息を漏らす。
「さて、化かし合いを始めるか」
そう呟くと、目の前の男は、傲慢な空気を纏いながらも、優雅な所作で椅子の背もたれに深く体重を預けた。崔瑾もまた、衣の裾を翻して対面の席に座した。
何度も戦場でその名を聞いた、白楊の華。その完璧な仮面の下に、憎しみが込められた冷徹な光と、決して屈することのない、鋼のような意志を隠している。男たちは、その危うさにこそ惹きつけられ、破滅していくのだ。
崔瑾は、自分がほんの一瞬だけ、交渉の場にいることを忘れかけていたことに気づき、拳に力を込める。
「貴国の大都督・劉義殿の学び舎に、類稀なる美しき姫君がおられるという噂は、遠く玄済にまで届いておりました。拝謁でき、この上なき光栄に存じます」
その時だった。玉蓮の首筋に、赫燕の大きな手がまるで所有印を刻むかのように置かれ、その親指が肌をゆっくりと撫でたのだ。
視界の端で、劉永の拳が白くなるのが見えた。彼のまなじりに、激しい感情が滲んでいるのは、誰の目にも明らかだったが、赫燕は意にも介さず、その視線をこちらへと向けてきた。
「大都督・崔瑾殿。あんたは、随分と女に優しいらしいな。こいつが白楊の公主だからか?」
「いえ。ただ興味深い、と。それだけです」
赫燕も同様にその感情の読み取れない目で見つめ返してくる。
「まさか、赫燕将軍にまで捕虜交換の会談の場にお越しいただけるとは」
崔瑾の言葉に、赫燕は口の端を吊り上げた。
「あんたこそ。目的がなけりゃ、こんな退屈な盤面を覗きには来ねえだろ」
「……と、おっしゃいますと?」
「価値のある駒が盤上にある。値踏みに来たんじゃねえのか?」
赫燕の視線が、一瞬だけ、隣の玉蓮に流れた。その言葉と視線に、己の眉が、初めて微かに動く。
赫燕は、ふ、と息を漏らす。
「さて、化かし合いを始めるか」
そう呟くと、目の前の男は、傲慢な空気を纏いながらも、優雅な所作で椅子の背もたれに深く体重を預けた。崔瑾もまた、衣の裾を翻して対面の席に座した。
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