闇を抱く白菊 —天命の盤—

アリスの鏡

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第八章 別離の衣

五十九話 心の音 2

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 彼の首元で、静かにゆらめく紫水晶の飾りが、玉蓮の額にひんやりと冷たく触れる。その瞬間、玉蓮は同じように確かな重みを持つ、もう一つの石の存在を確かめるように胸元に手をやった。対をなす紫水晶。

 赫燕の力強く、しかし規則的な鼓動に身を委ねる。どこまでが自分の肌で、どこからが彼の肌なのか。その境界線が、彼の熱にじわりと溶かされていくようだった。彼の心の臓の音が、自分自身の命の律動になっていく。

 外界のあらゆる喧騒けんそうが遠ざかり、世界の全てが、この腕の中にある一つの鼓動と、一つの温もりだけになっていく。

 玉蓮は、微睡まどろむように目を閉じた。



「……むつまじいということは、誠に美しいことですね」



 いつの間にか入り込んでいたのか、子睿しえいの声が玉蓮の耳に届いた。入り口の方を見れば、そこには子睿と朱飛がいた。

 驚いて赫燕の腕から飛び降りようとする玉蓮を、力強い腕が押さえる。

「入れとは言ってねえ」

 赫燕の不機嫌そうな声に、子睿は臆することなく応える。

「私たちが来ていることに気づいても、やめなかったのはお頭でしょう? まったく、いつまで待たされるのかと」

 自分たちに向けられる視線に、玉蓮の頬が熱を持ったように火照る。

「お頭、もう傷は大丈夫そうですね。元気そうで何よりです」

 朱飛が口元に、普段の彼からは想像もつかないような、からかうような笑みを浮かべて、そう続けた。

「朱飛、嫌味なら通じねえぞ」

 赫燕はそう言い放ったが、その声は、戦場で聞くような、全てを切り捨てる刃の鋭さを持っていない。それはまるで、じゃれ合う獣が牙を隠して甘噛みするかのような響き。

 玉蓮は、そんな彼らのやり取りを微笑ほほえましく見つめながら、まだ頬に残る赫燕の温もりをそっと確かめていた。
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