127 / 159
第十章 正義の敵
七十話 蜘蛛の謀略 1
しおりを挟む
◆
玉蓮と盤を挟んでいた崔瑾の元に、阿扇が訪れた。
「崔瑾様」
阿扇は、音もなく頭を下げる。
「阿扇、あなたも打ちますか? 玉蓮殿の手はとても面白いのですよ」
玉蓮は、扇で口元を隠しつつも、柔和に微笑んでいる。
「崔瑾殿は、先ほどからわたくしの手を躱してばかり。わたくしでは、勝つのは難しそうです。阿扇、あなたが代わりに——」
「結構です」
玉蓮の言葉を遮るように、阿扇はきっぱりと言い放った。崔瑾が玉蓮に視線を向けるが、そこにはふわりと微笑む美しい顔があるだけ。
「ご報告がございます」
彼の緑がかった瞳は、崔瑾一人に注がれている。崔瑾は、軽く頷き、盤に視線を落とした。
「では、書斎に場所を移しましょう。玉蓮殿、しばし失礼いたします」
そう言って立ち上がると、阿扇は一歩下がって後に続いた。
書斎に向かう回廊の途中、周囲に人影がないことを確認して崔瑾は口をひらく。
「阿扇、玉蓮殿は嫁いできたばかりです。もう少し柔らかく接することはできませんか」
「……あの姫は白楊国の者。何を考えているかわかりません。私は、崔瑾様を守らねばなりませんから」
その返答は、いつにも増して硬い。頑なな側近の言葉に、わざとらしくため息をついて見せた。
「それは、困りましたね。阿扇には玉蓮殿を守って欲しかったのですが」
「……あの姫の歩く音からは、凄まじい武の匂いがいたします。私など不要でしょう」
低く、拗ねた子供のような響きに、崔瑾はとうとう笑い声をあげる。
(武の匂い、か)
あの姫が、ただの可憐な花ではないことを、阿扇は見抜いているのだろう。だからこそ、これほどまでに頑なになる。
「……もし、私に何かあれば、北の門を抜けるように。あなたに託します」
「『託す』は撤回願います。私は、最後まで崔瑾様をお守りいたします」
阿扇は即座に反論したが、崔瑾は答えることなく微笑んだ。
玉蓮と盤を挟んでいた崔瑾の元に、阿扇が訪れた。
「崔瑾様」
阿扇は、音もなく頭を下げる。
「阿扇、あなたも打ちますか? 玉蓮殿の手はとても面白いのですよ」
玉蓮は、扇で口元を隠しつつも、柔和に微笑んでいる。
「崔瑾殿は、先ほどからわたくしの手を躱してばかり。わたくしでは、勝つのは難しそうです。阿扇、あなたが代わりに——」
「結構です」
玉蓮の言葉を遮るように、阿扇はきっぱりと言い放った。崔瑾が玉蓮に視線を向けるが、そこにはふわりと微笑む美しい顔があるだけ。
「ご報告がございます」
彼の緑がかった瞳は、崔瑾一人に注がれている。崔瑾は、軽く頷き、盤に視線を落とした。
「では、書斎に場所を移しましょう。玉蓮殿、しばし失礼いたします」
そう言って立ち上がると、阿扇は一歩下がって後に続いた。
書斎に向かう回廊の途中、周囲に人影がないことを確認して崔瑾は口をひらく。
「阿扇、玉蓮殿は嫁いできたばかりです。もう少し柔らかく接することはできませんか」
「……あの姫は白楊国の者。何を考えているかわかりません。私は、崔瑾様を守らねばなりませんから」
その返答は、いつにも増して硬い。頑なな側近の言葉に、わざとらしくため息をついて見せた。
「それは、困りましたね。阿扇には玉蓮殿を守って欲しかったのですが」
「……あの姫の歩く音からは、凄まじい武の匂いがいたします。私など不要でしょう」
低く、拗ねた子供のような響きに、崔瑾はとうとう笑い声をあげる。
(武の匂い、か)
あの姫が、ただの可憐な花ではないことを、阿扇は見抜いているのだろう。だからこそ、これほどまでに頑なになる。
「……もし、私に何かあれば、北の門を抜けるように。あなたに託します」
「『託す』は撤回願います。私は、最後まで崔瑾様をお守りいたします」
阿扇は即座に反論したが、崔瑾は答えることなく微笑んだ。
0
あなたにおすすめの小説
行き遅れ王女、重すぎる軍団長に肉で釣られる
春月もも
恋愛
25歳、独身、第四王女システィーナ。
夜会でも放置されがちな行き遅れ王女の前に、ある夜突然現れたのは、ローストビーフを差し出す重すぎる第三軍団長だった。
形のない愛は信じない。
でも、出来立ての肉は信じてしまう。
肉に釣られ、距離を詰められ、気づけば下賜され、そして初夜へ。
これは、行き遅れ王女が重たい愛で満たされるまでの、ちょっとおかしなお話。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
小さくなった夫が可愛すぎて困ります
piyo
恋愛
夫が、ある日突然、幼児の姿になってしまった。
部下の開発中の魔法薬を浴びてしまい、そのとばっちりで若返ってしまったらしい。
いつも仏頂面な夫が、なんだかとっても可愛い――。
契約結婚で、一生愛とは無縁の生活を送ると思っていたノエルだったが、姿が変わってしまった夫を、つい猫可愛がりしてしまう。
「おい、撫でまわすな!」
「良いじゃありませんか。減るもんじゃないし」
これまで放置されていた妻と、不器用に愛を示す夫。
そんな二人が、じれじれ、じわじわとお互いの距離を詰めていく、甘くて切ない夫婦再生の物語
※完結まで毎日更新
※全26話+おまけ1話
※一章ほのぼの、二章シリアスの二部構成です。
※他サイトにも投稿
七日後に神罰が落ちる。上層部は「下を切り捨てろ」と言った——私は全員を逃がす
蒼月よる
ファンタジー
七日後、この港に神罰が落ちる。
追放された元観測士イオナだけが、その事実を知っていた。
しかも災害は自然現象ではない——誰かが、意図的に引き起こそうとしている。
港の上層部はすでに手を打っていた。「下層区画を緩衝被害区として切り捨てる」秘密契約。被害を最小限に見せかけ、体制を守る冷徹な計画だ。
イオナは元護送隊長ガルム、荷運び組合長メラとともに動き出す。
犯人を暴き、証拠を公開し、住民を逃がし、工廠を止める——すべてを七日で。
被害を「選ぶ」管理か、全員を「残す」運用か。
追放観測士の、七日間の港湾カウントダウン・サスペンス。
この作品は以下の箇所にAI(Claude Code)を利用しています。
・世界観・設定の管理補助
・プロット段階の壁打ち
・作者による執筆後の校正
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
リトライさせていただきます!〜死に戻り令嬢はイケメン神様とタッグを組んで人生をやり直す事にした〜
ゆずき
恋愛
公爵家の御令嬢クレハは、18歳の誕生日に何者かに殺害されてしまう。そんなクレハを救ったのは、神を自称する青年(長身イケメン)だった。
イケメン神様の力で10年前の世界に戻されてしまったクレハ。そこから運命の軌道修正を図る。犯人を返り討ちにできるくらい、強くなればいいじゃないか!! そう思ったクレハは、神様からは魔法を、クレハに一目惚れした王太子からは武術の手ほどきを受ける。クレハの強化トレーニングが始まった。
8歳の子供の姿に戻ってしまった少女と、お人好しな神様。そんな2人が主人公の異世界恋愛ファンタジー小説です。
※メインではありませんが、ストーリーにBL的要素が含まれます。少しでもそのような描写が苦手な方はご注意下さい。
ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています
紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、
ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。
「もう君は、僕の管理下だよ」
退院と同時に退職手続きは完了。
住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。
外出制限、健康管理、過保護な独占欲。
甘くて危険な“保護生活”の中で、
私は少しずつ彼に心を奪われていく――。
元社畜OL×執着気味の溺愛社長
囲い込み同棲ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる