闇を抱く白菊 —天命の盤—

アリスの鏡

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第十章 正義の敵

七十五話 仮面の下 1

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◇◇◇ 玉蓮ぎょくれん ◇◇◇

 少しだけ蒸すような風が、裾を揺らし、目に眩しい光が注ぐ中、玉蓮は支度を整えていた。

「奥様は、何をお召しになっても、お美しいです」

 侍女の翠花スイファが無邪気に笑って、帯を締めていく。

 纏わりつく空気を一掃する爽やかな紅藤べにふじ色の衣に、玉蓮は視線を走らせる。玉蓮の衣の多くには、白菊が施され、銀糸ぎんしが使われていたため、光が当たるたびにきらめく。

「奥様の肌の白さと、この光る衣で、まるで天女てんにょのようだと屋敷の者たちが申しております」

翠花スイファ……髪はあまり華美かびにせぬように。外に出るわ」

「外出されるのに、飾らぬのですか?」

「旦那様の評判をおとしめぬよう、自制せねば。ただでさえ敵国の公主は目立つのよ」

「……御意はい

 支度を終えた玉蓮は、翠花スイファと護衛を伴って大都督だいととくを出て、馬車に乗り込む。大通りを南下し、小道をたどっていくと、しょう将軍の屋敷が見えてきた。門番に顔と名前を告げると、すぐ屋敷内へ通される。

 廊下を抜け、光の揺れる広間に足を踏み入れた瞬間、玉蓮は、かすかな緊張の匂いを感じる。現れたしょう将軍と夫人の眼差しは、どこか遠くを見つめていた。しょう将軍は蒼白な顔で、まなざしだけが宙を彷徨さまよい、夫人は衣の袖を指先でぎゅっと握りしめている。

しょう将軍、先日はご挨拶もそこそこに失礼いたしました」

 玉蓮は深く頭を下げた。しょう将軍は、一瞬言葉に詰まるようだったが、やがて重い息をついて招き入れた。

崔夫人さいふじん、ありがとうございます。まさか我が屋敷にお越しになるとは」

 広間の奥へ進むと、しょう将軍は背後を気にしながら卓に座り、切り出す。

「本日はどのようなご用件でお越しくださったのでしょうか」

「……しょう尚書も戻られたとお聞きしております。しょう様はその後、ご回復されましたか?」

「……はい。なんとか、崔瑾さいきん様が手配してくださった太医たいいのお陰様で、危機は脱したようです」

「そうですか……」

 玉蓮が視線をふと、周囲に巡らせれば、しょう将軍は手を上げて側仕えの者たちに下がるように指示をする。しょう夫人も同様に、頭を下げてその場を後にする。

翠花スイファ、あなたも下がりなさい」

 一瞬、翠花スイファはためらうそぶりを見せたが、玉蓮が「周囲を確認するように」と加えると、頭を下げて出ていった。
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