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第十一章 心の臓を撃つ石
八十三話 白菊の逢瀬 3
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「劉義とは話せたか」
「いえ、先生はずっと捕まっていらっしゃって」
「そうか。あいつは、いつも交渉ばかりだな」
「あの、皆……元気ですか?」
「相変わらずだ。阿呆なことばかりやってる。流石にこの場に呼ばれているのは、軍の者では、大将軍だけだ」
あまりにも変わらない、赫燕の低い声と、どこかぶっきらぼうな口調。それが、なぜだろう。崔瑾の、どんな優しい言葉よりも、心の奥を甘くかき乱す。笑う赫燕を見て、玉蓮は泣き出しそうになるのを必死で笑みに変えた。
「迅、刹、牙門の阿呆三人は、どうにかついてこようとしてたが、今は大孤と戦中だ。子睿が痺れ薬を盛って止めてたぞ」
「し、痺れ薬……ふふ」
赫燕軍の面々が、日々の訓練や任務の中で繰り広げる、たわいもない冗談や競い合いの光景が目に浮かび、笑みが深まる。
「元気か?」
今度は赫燕が、玉蓮の顔を真っ直ぐに見つめて尋ねた。
「……はい」
玉蓮は、少し間を置いて、でもその瞳から視線を逸らすことなく答える。
「攻めあぐねていますが……生きて、います」
生きろ、その言葉を胸に。伝えられない思いを込めて、衣の上から紫水晶に触れるように、己の胸元に手を置いてそのまま握りしめた。
揺れることなどなかった瞳が微かに揺れている。玉蓮だけを映しながら。
「俺は……お前を」
しかし、その言葉は途中で途切れ、唇が固く、引き結ばれる。ひとつ息を整えてから、ようやく唇が動いた。
「進めばいい。思うままに」
心を震わす、その声の元を見つめる。手を伸ばせば、その胸に触れられる。伽羅の香りがする、紫水晶が揺れるその胸に。この胸を焦がすような衝動だけは、どうしても消せない。消えてはくれないのだ。別の道を生きると、あの日、決意したはずなのに。
伸ばした玉蓮の手に、赫燕の手が触れぬまま、重ねられる。熱が空気の壁を通して伝わってくる。触れることなく、輪郭をなぞるように、大きな手が玉蓮の肌に沿って動いていく。髪を辿り、頬、首筋へ。
少しでも動いてしまえば、触れてしまうその温もりに、玉蓮は目を閉じた。何の涙かわからない雫が、玉蓮の目尻から溢れていく。この涙も、揺れ動く鼓動も、乱れる呼吸さえ、許されぬはずなのに。月の光が遮られて、閉じた目蓋の先が暗くなる。
「——奥様!」
遠くから聞こえてきた翠花の声に、玉蓮の身体はびくりと震えた。その瞬間、首元に赫燕の指が微かに触れ、熱い余韻が肌に残る。後ろを振り返れば、外套を手にした翠花と、その隣を歩く崔瑾の姿があった。
「いえ、先生はずっと捕まっていらっしゃって」
「そうか。あいつは、いつも交渉ばかりだな」
「あの、皆……元気ですか?」
「相変わらずだ。阿呆なことばかりやってる。流石にこの場に呼ばれているのは、軍の者では、大将軍だけだ」
あまりにも変わらない、赫燕の低い声と、どこかぶっきらぼうな口調。それが、なぜだろう。崔瑾の、どんな優しい言葉よりも、心の奥を甘くかき乱す。笑う赫燕を見て、玉蓮は泣き出しそうになるのを必死で笑みに変えた。
「迅、刹、牙門の阿呆三人は、どうにかついてこようとしてたが、今は大孤と戦中だ。子睿が痺れ薬を盛って止めてたぞ」
「し、痺れ薬……ふふ」
赫燕軍の面々が、日々の訓練や任務の中で繰り広げる、たわいもない冗談や競い合いの光景が目に浮かび、笑みが深まる。
「元気か?」
今度は赫燕が、玉蓮の顔を真っ直ぐに見つめて尋ねた。
「……はい」
玉蓮は、少し間を置いて、でもその瞳から視線を逸らすことなく答える。
「攻めあぐねていますが……生きて、います」
生きろ、その言葉を胸に。伝えられない思いを込めて、衣の上から紫水晶に触れるように、己の胸元に手を置いてそのまま握りしめた。
揺れることなどなかった瞳が微かに揺れている。玉蓮だけを映しながら。
「俺は……お前を」
しかし、その言葉は途中で途切れ、唇が固く、引き結ばれる。ひとつ息を整えてから、ようやく唇が動いた。
「進めばいい。思うままに」
心を震わす、その声の元を見つめる。手を伸ばせば、その胸に触れられる。伽羅の香りがする、紫水晶が揺れるその胸に。この胸を焦がすような衝動だけは、どうしても消せない。消えてはくれないのだ。別の道を生きると、あの日、決意したはずなのに。
伸ばした玉蓮の手に、赫燕の手が触れぬまま、重ねられる。熱が空気の壁を通して伝わってくる。触れることなく、輪郭をなぞるように、大きな手が玉蓮の肌に沿って動いていく。髪を辿り、頬、首筋へ。
少しでも動いてしまえば、触れてしまうその温もりに、玉蓮は目を閉じた。何の涙かわからない雫が、玉蓮の目尻から溢れていく。この涙も、揺れ動く鼓動も、乱れる呼吸さえ、許されぬはずなのに。月の光が遮られて、閉じた目蓋の先が暗くなる。
「——奥様!」
遠くから聞こえてきた翠花の声に、玉蓮の身体はびくりと震えた。その瞬間、首元に赫燕の指が微かに触れ、熱い余韻が肌に残る。後ろを振り返れば、外套を手にした翠花と、その隣を歩く崔瑾の姿があった。
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