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第十一章 心の臓を撃つ石
八十四話 昏い光
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宿に戻る道すがら、崔瑾は何も言わなかった。隣を歩く玉蓮の衣が、彼の腕に微かに触れる。いつもなら、そっと手を添えてくれるはずの彼が、今は氷の壁のように、前だけを見据えて歩いている。
その横顔から発せられる冷気が、夜の空気をさらに凍てつかせる。
宿の自室に戻った瞬間、崔瑾は、無言で玉蓮の手を掴んだ。
「ツッ……!」
普段の崔瑾からは考えられないほどに荒々しい力。玉蓮の腕から、衣と肌が擦れる音がした。
目の前の瞳は、もはや深い森の湖ではない。そこに揺らめいていたのは、何も映さない、玻璃のような無機質な光だけ。
「……だん、なさ」
「そんなに、あの男が恋しいですか、玉蓮殿」
心の底から絞り出すような静かな声。玉蓮は、その瞳に射す光を見つめるしかできない。
彼の喉から獣が唸るような低い音が漏れ、玉蓮の腕を掴む腕が震える。
「ぁ……」
玉蓮の声が音にならずに震えた。
「あの男が!」
崔瑾が、傍らの卓を薙ぎ払った。それと同時に響き渡る、杯が砕け散る凄まじい音。一瞬の恐怖に胸元に手を置いた瞬間——崔瑾の表情が、能面のように、一切の光を失った。
「いつからだ!」
「だん——」
「いつから、私の腕の中で、あの男のことだけを考えていた!」
荒々しい声に、玉蓮は言葉を失い俯く。喉からは乾いた音が漏れるだけ。崔瑾は玉蓮の頬を乱暴に掴み、激しく、ほとんど叩きつけるように口を塞いだ。
それは、もはや口付けと呼べるものではなかった。
玉蓮の唇をこじ開け、全てを奪い、自分の色で塗りつぶそうとする、荒々しいまでの支配。彼の唇は熱く、強引に玉蓮の抵抗を押し潰そうとする。
心の臓が震える。息が詰まる。
その激しさのまま、玉蓮の背が壁に打ち付けられ、再び鈍い音が響くと同時に痛みがびりりと走った。
「あッ……ンッ……は、なし」
部屋の外から、急ぐ足音がして、すぐに声が届く。
「さ、崔瑾様!」
馬斗琉の声。崔瑾は一瞬、それに反応したが、玉蓮を抱きしめる腕の力は緩まない。
「ばと……んっ!」
玉蓮が馬斗琉の名を呼ぼうとしたが、崔瑾はその口を塞ぐ。
「入るな! 下がれ!」
「……で、ですが」
「んんっ!!」
「命令だ! 二度言わせるな!」
崔瑾は、大きな声でそれだけを告げる。
そして、玉蓮の衣に手をかけ、剥いでいく。絹の衣が擦れる音が、静まり返った部屋に耳障りに響く。
普段の彼からは想像もつかない、獣のような光がその目に宿り、玉蓮を押さえつけるその腕は、身動き一つさえ取らせてはくれない。
彼の唇から漏れる、濃い酒の匂い。
「だん、なさッ……あ」
いつもは優しく髪を梳く指が、今は、力任せに肌を掴む。その指の跡が、玉蓮の白い肌に赤く跡を残す。
「やめ……おやめ、くだ」
「……誰を……誰を……その心で呼んでいる!」
耳元で聞こえる、呻くような声。
「貴女はッ——私のものだ!」
そして、彼は何かを吐き出すように、玉蓮の体を無理矢理に開いた。まるで、その中に残る別の男の影を根こそぎ引きずり出そうとするかのように。
何度も、何度も。
その夜は、嵐のように過ぎ去っていった。
その横顔から発せられる冷気が、夜の空気をさらに凍てつかせる。
宿の自室に戻った瞬間、崔瑾は、無言で玉蓮の手を掴んだ。
「ツッ……!」
普段の崔瑾からは考えられないほどに荒々しい力。玉蓮の腕から、衣と肌が擦れる音がした。
目の前の瞳は、もはや深い森の湖ではない。そこに揺らめいていたのは、何も映さない、玻璃のような無機質な光だけ。
「……だん、なさ」
「そんなに、あの男が恋しいですか、玉蓮殿」
心の底から絞り出すような静かな声。玉蓮は、その瞳に射す光を見つめるしかできない。
彼の喉から獣が唸るような低い音が漏れ、玉蓮の腕を掴む腕が震える。
「ぁ……」
玉蓮の声が音にならずに震えた。
「あの男が!」
崔瑾が、傍らの卓を薙ぎ払った。それと同時に響き渡る、杯が砕け散る凄まじい音。一瞬の恐怖に胸元に手を置いた瞬間——崔瑾の表情が、能面のように、一切の光を失った。
「いつからだ!」
「だん——」
「いつから、私の腕の中で、あの男のことだけを考えていた!」
荒々しい声に、玉蓮は言葉を失い俯く。喉からは乾いた音が漏れるだけ。崔瑾は玉蓮の頬を乱暴に掴み、激しく、ほとんど叩きつけるように口を塞いだ。
それは、もはや口付けと呼べるものではなかった。
玉蓮の唇をこじ開け、全てを奪い、自分の色で塗りつぶそうとする、荒々しいまでの支配。彼の唇は熱く、強引に玉蓮の抵抗を押し潰そうとする。
心の臓が震える。息が詰まる。
その激しさのまま、玉蓮の背が壁に打ち付けられ、再び鈍い音が響くと同時に痛みがびりりと走った。
「あッ……ンッ……は、なし」
部屋の外から、急ぐ足音がして、すぐに声が届く。
「さ、崔瑾様!」
馬斗琉の声。崔瑾は一瞬、それに反応したが、玉蓮を抱きしめる腕の力は緩まない。
「ばと……んっ!」
玉蓮が馬斗琉の名を呼ぼうとしたが、崔瑾はその口を塞ぐ。
「入るな! 下がれ!」
「……で、ですが」
「んんっ!!」
「命令だ! 二度言わせるな!」
崔瑾は、大きな声でそれだけを告げる。
そして、玉蓮の衣に手をかけ、剥いでいく。絹の衣が擦れる音が、静まり返った部屋に耳障りに響く。
普段の彼からは想像もつかない、獣のような光がその目に宿り、玉蓮を押さえつけるその腕は、身動き一つさえ取らせてはくれない。
彼の唇から漏れる、濃い酒の匂い。
「だん、なさッ……あ」
いつもは優しく髪を梳く指が、今は、力任せに肌を掴む。その指の跡が、玉蓮の白い肌に赤く跡を残す。
「やめ……おやめ、くだ」
「……誰を……誰を……その心で呼んでいる!」
耳元で聞こえる、呻くような声。
「貴女はッ——私のものだ!」
そして、彼は何かを吐き出すように、玉蓮の体を無理矢理に開いた。まるで、その中に残る別の男の影を根こそぎ引きずり出そうとするかのように。
何度も、何度も。
その夜は、嵐のように過ぎ去っていった。
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