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第四.五章 クリスマス編
第九話 静まりゆく日
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12月25日 18:00 ── 冬の陽もすっかり身を潜め、月が顔出す夜空の下。
楽しかったクリスマスパーティーもとうとうお開きとなり、三栗谷先生のお宅から近い順に車で帰ることとなった。
「今日はすごく楽しかった! 良かったらまた一緒に遊びたいな!」
「うん、次は新年会でもやる?」
三栗谷先生のお宅を出発して15分ほど、最寄りである窓雪さんの家に到着した。明るい灰色の外壁に黒い屋根、どこにでもあるような二階建ての一戸建て。
よほど楽しかったのだろう、窓雪さんも黒葛原さんも喜びで溢れた輝かしい笑顔を浮かべている。
「新年会か……それも楽しそうですね。ねぇ影人さん」
「えぇ、やだよめんどくさい……やるなら俺抜きでやって」
「あんたいちいちノリが悪すぎ、もう少し青春したらどうなのよ」
「あはは……みんな、良いお年を!」
「うむ。元気でな、窓雪」
漫才のような掛け合いをする黒葛原さんと影人さんに苦笑しつつ、窓雪さんがぶんぶんと大きく手を振る。
彼女が家の中へと入っていくのを確認したのち、三栗谷先生は車を発進させた。
窓雪さんの家から次に近いのは、黒葛原さんの家。5階建ての、白い外壁のアパートだ。
三栗谷先生のお宅ほどではないが、それでもボクからしたら十分大きな建物。黒葛原さんは、このアパートの4階に住んでいるらしい。
「次会うのは年明けかしらね。それまでくたばるんじゃないわよ、特に黒崎」
「ははは、黒葛原はハッキリ言うのう。大丈夫じゃよ、影人には不破がついておる」
「え、ボクですか?」
車から降りるなり、さっそく毒舌?を発揮した黒葛原さん。そんな彼女に苦笑を浮かべつつ、三栗谷先生はボクを指さした。
ボクは影人さんの保護者か何かと思われているのだろうか……。一人暮らしかつ不摂生な生活をしている影人さんのことは、いつも気になるのは確かなのだが。
「大丈夫でしょ……蛍はお節介だから、俺がくたばる前に察して来ると思うよ」
「えぇ……まぁ、そのつもりではいますけど、自分でもちゃんとしてて欲しいですよ」
「そう言うだろうとは思ったけどね、黒崎ってば不破君のこと絶対アテにしてそうだし。……ま、よいお年を! じゃあね!」
好き放題言いつつ、黒葛原さんがエレベーターの中へ駆けていく。最後に見せた表情は、今まで以上にはつらつとした笑顔だった。
残ったのは、ボクと先生と後部座席の影人さんの三人だ。おしゃべりな女子二人がいなくなった車内は一気に閑散とした空気に包まれ──
「次は不破の家が近かったかのう、案内を頼む」
「……はい」
……ボクがこの車から降りる時間も、刻一刻と近づいている。
名残惜しさが、胸の中にどっと押し寄せていた。
彼女達と一緒に過ごした楽しい時間が終わる、それがとても名残惜しい──そんな気持ちもあるけれど。
ボクの中には、もう一つ……ボクだけが感じているであろう、特別な寂しさがあった。
(……影人さんとも、またお別れかぁ)
冬休みが始まってから、以前のように声をかけることが出来なくなっていたボク。
夏休みの時は、特に用のないメッセージだって迷うことなく送れていた。それなのに、今は何故かそれを躊躇ってしまっている。
約束せずとも毎日会うことが出来ていた「学校」がなく、各々が自由に過ごすこの冬休み。そんな中で彼に声をかけること一つ、正当な理由を探してしまう。
「迷惑じゃないだろうか」「鬱陶しいと思われないだろうか」──メッセージを送ったことによって、画面の向こうの彼が僅かでも眉を顰めたりしないか、そんな不安が過ぎって。
きっかけも無いまま彼を誘い出すことを、「怖い」と思ってしまっている。
今回は黒葛原さんがきっかけを作り出してくれた。だからそれを理由に声をかけることが出来たけれど、明日からはどうしよう?
何をきっかけに話を切り出し、彼と会うのが最適解なのだろうか。会いたい気持ちばかりが募って、思考回路は鈍るばかりだ。
(……本当、なんてことで悩んでるんだろ)
ボクらは「友達」なんだから、普通にすればいいはずなのに。
影人さんへのよくわからない感情が、今まであったはずの普通を壊してしまっている──そんな気がしていた。
「先生、送迎までしてくださってありがとうございました。今日は本当に楽しかったです」
「うむ、わしも楽しかったぞ。家族にもよろしく伝えておいておくれ」
「はい、お世話になりました」
そうして悩むうちに、見慣れた我が家に到着。この車を降りたら、いつもの日常に戻る。
シートベルトを外す手すら動かしたくない――車を降りて今日という日が終わることに、未練がましい気持ちが巡る。
けれど、いつまでも乗ってはいられない。ボクが降りたら、次は影人さんが帰る番なのだ。
心寂しさを抑えつけながら車から降り、後部座席の影人さんに目を向ける。
「影人さんも、体には気をつけてくださいね。 宿題もちゃんとやらないとダメですよ?」
「……うん」
「それじゃあ、よいお年を」
「よいお年を」──自分で言った言葉で、ずんと心が重くなる。今生の別れになる訳でもないのに、ここで影人さんと別れることを本心は未だ拒んでいて。
後ろ髪を引かれる、とはこのことだろうか。そんな寂しさを抱えつつ、振り切るようにリビングへと急いだ。
◇ ◇ ◇
蛍が降りた後、三栗谷と影人の二人きりになった車内は深夜のようにひっそり静まり返っていた。
車内に流れる音楽ようやく少し色が付くこのぎこちない空間は、身内同士ありながら解け合わない二人の関係を強調するかのようだ。
元々三栗谷を避けていた影人、それを理解している三栗谷。誰も間にいない空間で、しばらく二人の間に会話はなかった。
「……影人も、友達がたくさん出来たのじゃな。 わしは少し安心したぞ」
「……」
「ここで紡いだ縁もいつかは主の助けとなるだろう、人は独りじゃ生きていけん。特に不破は、主のことをとても大事に思っているみたいだからの」
ぼーっと窓の外を眺める影人に、三栗谷が言葉を投げる。静寂を破ったのは、静かに彼に歩み寄ろうとする三栗谷だった。
三栗谷にとって、影人は可愛い甥っ子。友達が出来た、一緒に遊ぶ仲間ができたというのも、三栗谷にとっては気になることではある。
しかし、三栗谷から投げられた言葉に、影人は声を返さなかった。
蛍、窓雪、黒葛原……彼らと自分の間にあった些細な日常の話すら、彼に聞かせることもしない。
ただ黙って、伯父の話を聞くだけ―― 一方的なキャッチボールでしかない甥っ子との会話に、三栗谷は苦笑する。
「今も変わらず、不破とは仲良くやっているのだろう?」
「……まぁ、ぼちぼちね。」
構わず続けて投げられた言葉に、ようやく影人が頷く。けれど先ほどと同じように、ただ一言だけ返してそれ以上は語らない。
マスクの中の口は、いつもより硬く真一文字を描いている。三栗谷にとってようやく訪れたチャンスでもあるこの機会も、彼にとっては早く過ぎ去って欲しい時間に過ぎなかった。
「あぁ、そうじゃ影人」
「何」
「アパートの更新のことでな、年明けには大家に提出したい書類があるのじゃが……主に書いてもらいたい項目があるのでな、月末までにはお邪魔させてもらうぞ?」
「あぁ、そう……別にいいけど……。」
会話を始めたのは、またしても三栗谷。今度は自分の生活に関わることだからか、受け流さずに答えを返した。
影人としては、本来なら三栗谷を家に上げることもしたくはない。両親やそれに関わるものと一切接触したくない影人としては、三栗谷と過ごす時間も避けて通りたい事項だ。
しかし、両親との関係を絶っている影人にとって、三栗谷は欠かすことの出来ない存在。影人が未成年である間は、両親に代わって後見人となっている三栗谷のサポートなしでは生活が成り立たないのだ。
だからこそ、どれだけ「面倒くさい」「やだ」と思っても、彼には「頷く」以外の選択は許されない。嫌々ながらその力を借りてここまで生きてきたのだ、身内が大嫌いな影人もそれは理解していた。
(きっと、来て欲しくは無いんだろうがな……許しておくれ、影人)
自分が来ることを明らかに歓迎していない、眉を顰めた表情が見える。バックミラー越しに見える甥は、こちらに視線すら向けてはくれず。
まぁ、これも想定内の範囲ではあるが──理解はしつつも、三栗谷は少し寂しげに微笑を浮かべていた。
楽しかったクリスマスパーティーもとうとうお開きとなり、三栗谷先生のお宅から近い順に車で帰ることとなった。
「今日はすごく楽しかった! 良かったらまた一緒に遊びたいな!」
「うん、次は新年会でもやる?」
三栗谷先生のお宅を出発して15分ほど、最寄りである窓雪さんの家に到着した。明るい灰色の外壁に黒い屋根、どこにでもあるような二階建ての一戸建て。
よほど楽しかったのだろう、窓雪さんも黒葛原さんも喜びで溢れた輝かしい笑顔を浮かべている。
「新年会か……それも楽しそうですね。ねぇ影人さん」
「えぇ、やだよめんどくさい……やるなら俺抜きでやって」
「あんたいちいちノリが悪すぎ、もう少し青春したらどうなのよ」
「あはは……みんな、良いお年を!」
「うむ。元気でな、窓雪」
漫才のような掛け合いをする黒葛原さんと影人さんに苦笑しつつ、窓雪さんがぶんぶんと大きく手を振る。
彼女が家の中へと入っていくのを確認したのち、三栗谷先生は車を発進させた。
窓雪さんの家から次に近いのは、黒葛原さんの家。5階建ての、白い外壁のアパートだ。
三栗谷先生のお宅ほどではないが、それでもボクからしたら十分大きな建物。黒葛原さんは、このアパートの4階に住んでいるらしい。
「次会うのは年明けかしらね。それまでくたばるんじゃないわよ、特に黒崎」
「ははは、黒葛原はハッキリ言うのう。大丈夫じゃよ、影人には不破がついておる」
「え、ボクですか?」
車から降りるなり、さっそく毒舌?を発揮した黒葛原さん。そんな彼女に苦笑を浮かべつつ、三栗谷先生はボクを指さした。
ボクは影人さんの保護者か何かと思われているのだろうか……。一人暮らしかつ不摂生な生活をしている影人さんのことは、いつも気になるのは確かなのだが。
「大丈夫でしょ……蛍はお節介だから、俺がくたばる前に察して来ると思うよ」
「えぇ……まぁ、そのつもりではいますけど、自分でもちゃんとしてて欲しいですよ」
「そう言うだろうとは思ったけどね、黒崎ってば不破君のこと絶対アテにしてそうだし。……ま、よいお年を! じゃあね!」
好き放題言いつつ、黒葛原さんがエレベーターの中へ駆けていく。最後に見せた表情は、今まで以上にはつらつとした笑顔だった。
残ったのは、ボクと先生と後部座席の影人さんの三人だ。おしゃべりな女子二人がいなくなった車内は一気に閑散とした空気に包まれ──
「次は不破の家が近かったかのう、案内を頼む」
「……はい」
……ボクがこの車から降りる時間も、刻一刻と近づいている。
名残惜しさが、胸の中にどっと押し寄せていた。
彼女達と一緒に過ごした楽しい時間が終わる、それがとても名残惜しい──そんな気持ちもあるけれど。
ボクの中には、もう一つ……ボクだけが感じているであろう、特別な寂しさがあった。
(……影人さんとも、またお別れかぁ)
冬休みが始まってから、以前のように声をかけることが出来なくなっていたボク。
夏休みの時は、特に用のないメッセージだって迷うことなく送れていた。それなのに、今は何故かそれを躊躇ってしまっている。
約束せずとも毎日会うことが出来ていた「学校」がなく、各々が自由に過ごすこの冬休み。そんな中で彼に声をかけること一つ、正当な理由を探してしまう。
「迷惑じゃないだろうか」「鬱陶しいと思われないだろうか」──メッセージを送ったことによって、画面の向こうの彼が僅かでも眉を顰めたりしないか、そんな不安が過ぎって。
きっかけも無いまま彼を誘い出すことを、「怖い」と思ってしまっている。
今回は黒葛原さんがきっかけを作り出してくれた。だからそれを理由に声をかけることが出来たけれど、明日からはどうしよう?
何をきっかけに話を切り出し、彼と会うのが最適解なのだろうか。会いたい気持ちばかりが募って、思考回路は鈍るばかりだ。
(……本当、なんてことで悩んでるんだろ)
ボクらは「友達」なんだから、普通にすればいいはずなのに。
影人さんへのよくわからない感情が、今まであったはずの普通を壊してしまっている──そんな気がしていた。
「先生、送迎までしてくださってありがとうございました。今日は本当に楽しかったです」
「うむ、わしも楽しかったぞ。家族にもよろしく伝えておいておくれ」
「はい、お世話になりました」
そうして悩むうちに、見慣れた我が家に到着。この車を降りたら、いつもの日常に戻る。
シートベルトを外す手すら動かしたくない――車を降りて今日という日が終わることに、未練がましい気持ちが巡る。
けれど、いつまでも乗ってはいられない。ボクが降りたら、次は影人さんが帰る番なのだ。
心寂しさを抑えつけながら車から降り、後部座席の影人さんに目を向ける。
「影人さんも、体には気をつけてくださいね。 宿題もちゃんとやらないとダメですよ?」
「……うん」
「それじゃあ、よいお年を」
「よいお年を」──自分で言った言葉で、ずんと心が重くなる。今生の別れになる訳でもないのに、ここで影人さんと別れることを本心は未だ拒んでいて。
後ろ髪を引かれる、とはこのことだろうか。そんな寂しさを抱えつつ、振り切るようにリビングへと急いだ。
◇ ◇ ◇
蛍が降りた後、三栗谷と影人の二人きりになった車内は深夜のようにひっそり静まり返っていた。
車内に流れる音楽ようやく少し色が付くこのぎこちない空間は、身内同士ありながら解け合わない二人の関係を強調するかのようだ。
元々三栗谷を避けていた影人、それを理解している三栗谷。誰も間にいない空間で、しばらく二人の間に会話はなかった。
「……影人も、友達がたくさん出来たのじゃな。 わしは少し安心したぞ」
「……」
「ここで紡いだ縁もいつかは主の助けとなるだろう、人は独りじゃ生きていけん。特に不破は、主のことをとても大事に思っているみたいだからの」
ぼーっと窓の外を眺める影人に、三栗谷が言葉を投げる。静寂を破ったのは、静かに彼に歩み寄ろうとする三栗谷だった。
三栗谷にとって、影人は可愛い甥っ子。友達が出来た、一緒に遊ぶ仲間ができたというのも、三栗谷にとっては気になることではある。
しかし、三栗谷から投げられた言葉に、影人は声を返さなかった。
蛍、窓雪、黒葛原……彼らと自分の間にあった些細な日常の話すら、彼に聞かせることもしない。
ただ黙って、伯父の話を聞くだけ―― 一方的なキャッチボールでしかない甥っ子との会話に、三栗谷は苦笑する。
「今も変わらず、不破とは仲良くやっているのだろう?」
「……まぁ、ぼちぼちね。」
構わず続けて投げられた言葉に、ようやく影人が頷く。けれど先ほどと同じように、ただ一言だけ返してそれ以上は語らない。
マスクの中の口は、いつもより硬く真一文字を描いている。三栗谷にとってようやく訪れたチャンスでもあるこの機会も、彼にとっては早く過ぎ去って欲しい時間に過ぎなかった。
「あぁ、そうじゃ影人」
「何」
「アパートの更新のことでな、年明けには大家に提出したい書類があるのじゃが……主に書いてもらいたい項目があるのでな、月末までにはお邪魔させてもらうぞ?」
「あぁ、そう……別にいいけど……。」
会話を始めたのは、またしても三栗谷。今度は自分の生活に関わることだからか、受け流さずに答えを返した。
影人としては、本来なら三栗谷を家に上げることもしたくはない。両親やそれに関わるものと一切接触したくない影人としては、三栗谷と過ごす時間も避けて通りたい事項だ。
しかし、両親との関係を絶っている影人にとって、三栗谷は欠かすことの出来ない存在。影人が未成年である間は、両親に代わって後見人となっている三栗谷のサポートなしでは生活が成り立たないのだ。
だからこそ、どれだけ「面倒くさい」「やだ」と思っても、彼には「頷く」以外の選択は許されない。嫌々ながらその力を借りてここまで生きてきたのだ、身内が大嫌いな影人もそれは理解していた。
(きっと、来て欲しくは無いんだろうがな……許しておくれ、影人)
自分が来ることを明らかに歓迎していない、眉を顰めた表情が見える。バックミラー越しに見える甥は、こちらに視線すら向けてはくれず。
まぁ、これも想定内の範囲ではあるが──理解はしつつも、三栗谷は少し寂しげに微笑を浮かべていた。
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