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シュヴァルツの話
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「いや、嫌だ!! 死にたくない!! 死にたくないよぉ!! 殺してやる!! 殺してやる!! 胡散臭い偽善者共め!!」
がしゃん、がしゃんと、次々と破壊音を立てて暴れるのは私の配下にいる一人の少年――シュヴァルツ。
いつもはテリトリーの中で、床をハサミで何度も突いたり迷い込んできた人間の目を平然と抉って飾ったり、時には人形を切り裂いては綿を取り出してみたりと、無邪気に遊んでいるだけの少年。光の宿らない黒の瞳は確かに「濁りのない瞳」だ。
けれど、この日だけは。12月25日だけは、彼も無邪気でいられなかった。
12月25日、神の生誕日、そして生前のシュヴァルツの誕生日。
その日に、彼は死んだのだ。
彼の台詞を聞けばわかるだろう。彼は死にたくて死んだわけじゃない。そして、病や事故といった、運命分岐的なものでもない。
【神が降臨せしその日】、シュヴァルツは人の手でその生涯を閉じた。
……否、「閉ざされた」。その表現の方が、正しい。
『もうじき、神の生誕日を告げる鐘が鳴る。その時、神は顕れるだろう。18年穢れ無く育ててきた我が神子の内に!』
『今こそ降臨の時! さぁさその身を捧げ給え、我らが主に!』
『此より、降臨の儀を始める!』
神を呼ぶといえば聞こえのいい話だ。
しかし、実際に全知全能の神を上司に持つ私からすれば、それはなんとも下らない、不毛な儀式にしか見えなかった。
大勢の信者の前で響きの良い言葉を並べて、罪無き息子の処刑を執り行おうとされているようにしか思えなかったのだ。
そしてその儀の果てに、生前のシュヴァルツは殺された。自らを育てた、父の手によって。
――しかし。彼の内に降りたのは、彼らの期待する神ではなかった。
『あは、あはは! あっははははは!! みんな、みぃんな、しんじゃえばいいんだ! ここにいるひと、みぃんな僕がころしちゃう! あはははは!!』
殺された生前のシュヴァルツの内に宿ったもの。それこそが……今の、シュヴァルツの魂だった。
彼が私から「シュヴァルツ」という名を授ける前……彼が、普通の人間として生きていた頃。その時に、長い間ため込んでいた悲しみが、怒りが、憎しみが、儀式をきっかけに溢れてしまったのだろう。
そして彼は、両親を含む教団員を殲滅。生き残りの居ない彼の周囲には、様々な箇所をハサミで抉られた屍の山ができあがっていた。
彼は自分の名を嫌っていた。私が尋ねた時も、教えてくれなかったものだった。
あくまで推測に過ぎないが、宗教に関する名でも付けられていたのだろう。
そして時が経つにつれ、彼は自らの名どころか、生前の死ぬまでの記憶も、蓋をするかのように、少しずつ、少しずつ、忘れていった。
彼が意識的に忘れようとしていたわけではない。私がそうなるように手を下したわけでもない。
無意識の、自己防衛といったところ……なのかもしれない。
けれど、耳に、心にしっかりと染みついてしまっているものはいつまでも拭えないのか。
シュヴァルツを留めている教会や街中で鳴り響く、「12月25日を告げる鐘の音」が鳴る度に、シュヴァルツは我を忘れテリトリーの中で大暴れするのだ。
その時は、その時ばかりは。いつも心の奥底にしまい込んでいた、忘れかけていた記憶が鮮明に蘇ってくるのだろう。
それは、一年に一度必ず訪れる、シュヴァルツにとって最悪の一日。
闇の精霊たる私の力を込めた結界が、シュヴァルツに壊される恐れはない。
けれどこうして毎年シュヴァルツの元に足を運ぶのは、どうにも彼が哀れで仕方がないように思えてしまうからだ。
誰か一人を贔屓する、全くそんなつもりはないのだが。
「……お前はただの人間だ。お前の身に、神は、……我が上司のゼウス様は降りてこない。罪深きは、そんなことすら考えもしなかった、お前の周囲にいた愚かな人間共だ、シュヴァルツ」
12月25日が明けるその時まで、シュヴァルツの破壊衝動は続いていく。
決まってそれを遠くから見ている、彼の主たる私。
明日になったら、彼は元に戻る。いつもの、無邪気なシュヴァルツに。
――それまでは、お前の気が済むまで暴れると良い。この日だけは特別に、その想いを汲んでやるからな。
がしゃん、がしゃんと、次々と破壊音を立てて暴れるのは私の配下にいる一人の少年――シュヴァルツ。
いつもはテリトリーの中で、床をハサミで何度も突いたり迷い込んできた人間の目を平然と抉って飾ったり、時には人形を切り裂いては綿を取り出してみたりと、無邪気に遊んでいるだけの少年。光の宿らない黒の瞳は確かに「濁りのない瞳」だ。
けれど、この日だけは。12月25日だけは、彼も無邪気でいられなかった。
12月25日、神の生誕日、そして生前のシュヴァルツの誕生日。
その日に、彼は死んだのだ。
彼の台詞を聞けばわかるだろう。彼は死にたくて死んだわけじゃない。そして、病や事故といった、運命分岐的なものでもない。
【神が降臨せしその日】、シュヴァルツは人の手でその生涯を閉じた。
……否、「閉ざされた」。その表現の方が、正しい。
『もうじき、神の生誕日を告げる鐘が鳴る。その時、神は顕れるだろう。18年穢れ無く育ててきた我が神子の内に!』
『今こそ降臨の時! さぁさその身を捧げ給え、我らが主に!』
『此より、降臨の儀を始める!』
神を呼ぶといえば聞こえのいい話だ。
しかし、実際に全知全能の神を上司に持つ私からすれば、それはなんとも下らない、不毛な儀式にしか見えなかった。
大勢の信者の前で響きの良い言葉を並べて、罪無き息子の処刑を執り行おうとされているようにしか思えなかったのだ。
そしてその儀の果てに、生前のシュヴァルツは殺された。自らを育てた、父の手によって。
――しかし。彼の内に降りたのは、彼らの期待する神ではなかった。
『あは、あはは! あっははははは!! みんな、みぃんな、しんじゃえばいいんだ! ここにいるひと、みぃんな僕がころしちゃう! あはははは!!』
殺された生前のシュヴァルツの内に宿ったもの。それこそが……今の、シュヴァルツの魂だった。
彼が私から「シュヴァルツ」という名を授ける前……彼が、普通の人間として生きていた頃。その時に、長い間ため込んでいた悲しみが、怒りが、憎しみが、儀式をきっかけに溢れてしまったのだろう。
そして彼は、両親を含む教団員を殲滅。生き残りの居ない彼の周囲には、様々な箇所をハサミで抉られた屍の山ができあがっていた。
彼は自分の名を嫌っていた。私が尋ねた時も、教えてくれなかったものだった。
あくまで推測に過ぎないが、宗教に関する名でも付けられていたのだろう。
そして時が経つにつれ、彼は自らの名どころか、生前の死ぬまでの記憶も、蓋をするかのように、少しずつ、少しずつ、忘れていった。
彼が意識的に忘れようとしていたわけではない。私がそうなるように手を下したわけでもない。
無意識の、自己防衛といったところ……なのかもしれない。
けれど、耳に、心にしっかりと染みついてしまっているものはいつまでも拭えないのか。
シュヴァルツを留めている教会や街中で鳴り響く、「12月25日を告げる鐘の音」が鳴る度に、シュヴァルツは我を忘れテリトリーの中で大暴れするのだ。
その時は、その時ばかりは。いつも心の奥底にしまい込んでいた、忘れかけていた記憶が鮮明に蘇ってくるのだろう。
それは、一年に一度必ず訪れる、シュヴァルツにとって最悪の一日。
闇の精霊たる私の力を込めた結界が、シュヴァルツに壊される恐れはない。
けれどこうして毎年シュヴァルツの元に足を運ぶのは、どうにも彼が哀れで仕方がないように思えてしまうからだ。
誰か一人を贔屓する、全くそんなつもりはないのだが。
「……お前はただの人間だ。お前の身に、神は、……我が上司のゼウス様は降りてこない。罪深きは、そんなことすら考えもしなかった、お前の周囲にいた愚かな人間共だ、シュヴァルツ」
12月25日が明けるその時まで、シュヴァルツの破壊衝動は続いていく。
決まってそれを遠くから見ている、彼の主たる私。
明日になったら、彼は元に戻る。いつもの、無邪気なシュヴァルツに。
――それまでは、お前の気が済むまで暴れると良い。この日だけは特別に、その想いを汲んでやるからな。
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