美醜逆転世界で婚約破棄された私、気がついたら反社に執着されてた

はりねずみ

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6 気がついたらめっちゃ喋ってた

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「佐々木芽衣19歳。志望動機は、生きていくためには衣食住が必要だからです。親に縛られるのが嫌で、家を出てきました。生い立ちだけ聞くと箱入り娘に見えるかもしれませんが、その実メンタルはけっこう大人で社畜です。お仕事頑張りますので、雇ってください」

「お、おう……」

 あ、店主さんが引いてる。

「あ、すみません。実家にいるときはほとんど喋ってなかったので、自由に話していいのかと思ったら暴走しました」

「あー、いや、話せる人のほうが接客業としてはありがたいんだけど……」

 引いた顔をしつつも、そういってくれる店主さん、やさしいな。
 張り紙を張っているところを遠目で見た時にはおじさんなのかと思ったが、近くで見てみると思ったよりも若い。おそらく30代前半くらいだろうか。
 ただし、この店主さん、見た目が怪しい。巨大なマスクをしているうえに、真っ黒なサングラスをかけているのだ。
 ここ室内ですよ、大丈夫?

「とりあえずこのあたりで生きてるのはみんな訳ありだから大丈夫。ただ、ね。この店、ちょっと特殊でね」
「風俗は遠慮してます」
「いやいやいや、違うから! うちは健全な定食屋だから」

 焦ったように首をぶんぶん横に振る店主さん。町で会ったら、完全な不審者ですよ、それ。

「君みたいな明るくて図太そうな子、ぜひ雇いたいんだけどね……その、うち、……お客さんにブサイクが多いんだ」
「はぁ……」

 窺うようにこちらを見てくる店主さんと、あいまいにうなずく私。
 いま、さらっと図太いって言われなかった? 私、ディスられてる?

「…………」
「…………」
「…………」
「……あ、これ、私が何かを言うのを待たれてる感じです?」

 沈黙の多さに、もしかして自分のターンなのか、と尋ねると、店主さんに頷かれた。
 でも、何を言えばいいんだ?

「えーっと……そうか。つまりブサイク専門店だから、店員にもブサイクが求められるってことですね。けっこう私も当てはまると思うのですが、いかがでしょうか。少なくとも美人と言われたことはありません」

「いやいやいやいや、違うから! 雇用条件に別にブサイクは入れてないから!」
「あ、そうなんですね。じゃあ、なんて答えるのが正解でした?」

 わからないので正直に尋ねる。

「君、変わってるねぇ……。つまり、うちは定食屋で、かつブサイクといわれるお客さんが多い。いくらブサイクを見たからって、飲食店で店員が日常的に嘔吐すると困るってこと」
「それは困りますね……」

 飲食店で店員が日常的に嘔吐って、それ、大惨事じゃん。どんなにお腹がすいてても、どんなに美味しそうな定食があっても、嘔吐物がそこにあったら食欲が失せるようね。

「でしょ」
「はい」
「…………」
「…………」
「…………」
「……え、また私が何かを答える場面です?」
「ウン」
「え、なにを?」

 やばい、思った以上に私、コミュニケーション能力、カスなのでは?
 求められている回答がわからない。
 あれかな、今世箱入り、前世社畜でPCに向かいすぎて、対人間能力ゼロになっちゃったのかな。

「だーかーら! 君を雇ったあげく、お客さんを見て吐かれると困るって言ってるの!」

 店主さんが呆れたように言う。

「あー、そういうことですか! あ、大丈夫です。私、美醜にさほどこだわりがないタイプです。特に(この世界の)ブサイクは、全然大丈夫、オールオッケーです」

 軽く答えた私に、店主さんが疑いの目を向ける。

「ほんと?」
「本当です」
「どのくらい?」
「え、どのくらい? これどういう答えが正解です? パーセント表示? 具体例表示?」
「具体例表示で」
「えーっと、今まで人の顔を見て、嘔吐したことはありません」

 うん、たぶん。前世の芽衣ちゃんの記憶をたどっても、嘔吐はなかったはず。芽衣ちゃん自体は、今世の常識どおりブサイクを忌み嫌ってたみたいだけど、嘔吐したことはない。

「それは君が箱入りで、真のブサイクを見たことがなかったからじゃない?」
「まぁ、そういう可能性もゼロじゃないですけど」

 店主さん、疑い深いな。

「だから採用試験はこれだ!」

 店主さんは急に立ち上がり、自らの顔からサングラスとマスクを奪い去った。
 明らかになるご尊顔。

「どうだ、この顔を見て、吐かずにいられるか!」

 ドヤァッとする店主さんの顔を、私はほわーと思いつつ見つめた。

 ――わぁ、(前世の)イッケメーン。

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