10 / 35
9 気がついたらガン見されてた
しおりを挟む「いらっしゃいませ。お好きなお席にどうぞ―」
暖簾をくぐって入ってきた男の人に声をかける。
ダルそうな様子で入ってきたその男の人は、私が声をかけるとぎょっとした顔をし、こちらを見たかと思ったら、キュウリを見た猫のごとくぴょんっと飛び跳ねた。
マスクをしていても、その整った顔立ちがわかる。厳ついけど。すんごい厳ついけど。厳ついのに、目が真ん丸になってて、なんだか愛嬌があるなぁ……
「……えっ、あ、……お、おんな!? え、女ぁ……!?」
「はい、女です。お好きなお席にどうぞー」
天変地異でも起きたのかと思うような驚きを示す男の人。
しかし私は動じない。なぜならこのやりとり、もう今日一日で何度もやってるからだ。
人生でこんなに性別を確認されること、ある?
そう、店主さんの前で見事唐揚げ定食(少なめ)を完食した私は、無事このさかいだ食堂で働けることになったのである。
結局、なんで店主さんが爆笑していたのかはわからないままだった。
謎の多い面接だったな。
今世では箱入り娘の私だが、前世では高校生時代バイトに明け暮れた私は、もちろんファミレスでの接客経験もあった。
即戦力の私に、店主は「俺の顔を見ても吐かないうえに、仕事もできるなんて天使か? 天使だな! 天使様!」と言って涙した。いや、怖いって。
注文を取って、厨房に流して、出来上がった料理を運ぶ。メニュー数も少ないし、人気の定食はある程度決まっているしで、私としては順調な仕事の滑り出しなのだけれど、お客さんはそうじゃなかった。
私を認識するなり、ぴょんっと飛び跳ね、ものすごい勢いでマスクとサングラスを取り出して装備し、おどおどとした様子で席に座る。
そしてマスクの隙間からご飯を食べながら、私をガン見してくるのだ。
率直に言って居心地が悪いし、マスクが汚れるのも気になる。マスクしながら食べるの、無理すぎない?
とりあえずテーブルが全部埋まったし、料理も出し終えたので、いったん、厨房に避難。
「お、どうした? やっぱり耐えきれなくなったか? 二階で休んでくるか?」
オーダーをこなして一服してた店主さんが、気遣うように声をかけてくる。
「いや、大丈夫です。それよりも、飲食店の厨房でタバコ吸うのはアウトでしょ。外で吸ってくださいよ」
「いいんだよ、ここは俺が法律だから。つうか、疲れた顔してるぞ。上で休んでこいよ、芽衣」
ナチュラルに下の名前で呼んでくるイケメン(前世)、心臓に悪いんですけど!
イケメン(前世)に下の名前で呼んでもらえて、しかも心配してもらえるって、前世でどんな徳を積んだんだ、私。社畜の徳かな?
心の中でそんな阿呆なことを考えながら、心配そうにのぞき込んでくる店主さんに、首を横に振って返した。
「いや、本当に大丈夫です。どっちかっていうと、私があっちにいると、お客さんが食べづらそうで。なんでみんなサングラスとマスクして食べてるの? この店、それがドレスコードなんですか?」
「あー……」
店主さんが携帯灰皿に煙草を押し付けつつ、苦笑する。
「いや、まぁ、慣れるまではしゃあねえな。芽衣は知らないだろうけど、サングラスとマスクは俺らブサイクの標準装備なんだよ。素顔をさらして生活していると、基本、ぶん殴られるからな」
「は?」
思わず低い声が出た。
「まぁ、汚い顔をさらすなってことだろ」
何でもないことのように言う店主さんに、私のほうが腸が煮えくり返ってくる。
本当にどうしようもない世界だ。
「まぁ、うちはいつもブサイクばっかり集まるから、普段はみんな素顔で食べてるけど、今日は芽衣がいるからな」
「え、あれ、私向け装備なんですか? あれ、それだと、私がこの店に接客するのはマイナスでは? お客さんがくつろげないじゃないですか。とはいえ、首にされると困るんだけど……あ、私、厨房やりましょうか」
軽い気持ちでそう言ったら、店主さんの顔がぽかーんとなる。
「え“……女の子の作ったメシ、食べられるの? この店、天国では? 買収しようかな……あ、俺の店だったわ」
「あ、すみません。なかったことにしてください」
普通に話してたのに、ちょこちょこ変なところ出してくるんだよな、店主さん。
私が引き気味なのがわかったのか、店主さんはすぐに我に返る。
そして小さく苦笑して言った。
「まぁ、芽衣が吐かないってわかったら、そのうちサングラスもマスクも外すでしょ。その頃には、うちも超人気店よ、きっと。………あれ、それって、やばくね?」
店主さんが真顔になった理由を私が理解したのは、約一週間後のことだった。
132
あなたにおすすめの小説
私が美女??美醜逆転世界に転移した私
鍋
恋愛
私の名前は如月美夕。
27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。
私は都内で独り暮らし。
風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。
転移した世界は美醜逆転??
こんな地味な丸顔が絶世の美女。
私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。
このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。
※ゆるゆるな設定です
※ご都合主義
※感想欄はほとんど公開してます。
美醜逆転世界でお姫様は超絶美形な従者に目を付ける
朝比奈
恋愛
ある世界に『ティーラン』と言う、まだ、歴史の浅い小さな王国がありました。『ティーラン王国』には、王子様とお姫様がいました。
お姫様の名前はアリス・ラメ・ティーラン
絶世の美女を母に持つ、母親にの美しいお姫様でした。彼女は小国の姫でありながら多くの国の王子様や貴族様から求婚を受けていました。けれども、彼女は20歳になった今、婚約者もいない。浮いた話一つ無い、お姫様でした。
「ねぇ、ルイ。 私と駆け落ちしましょう?」
「えっ!? ええぇぇえええ!!!」
この話はそんなお姫様と従者である─ ルイ・ブリースの恋のお話。
『推しに転生したら、攻略対象が全員ヤンデレ化した件』
春夜夢
ファンタジー
「推しキャラが死ぬバッドエンドなんて認めない──だったら、私が推しになる!」
ゲーム好き女子高生の私が転生したのは、乙女ゲームの中の“推しキャラ”本人だった!
しかも、攻略対象たちがみんなルート無視で私に執着しはじめて……!?
「君が他の男を見るなんて、耐えられない」
「俺だけを見てくれなきゃ、壊れちゃうよ?」
推しキャラ(自分)への愛が暴走する、
ヤンデレ王子・俺様騎士・病み系幼なじみとの、危険すぎる恋愛バトルが今、始まる──!
👧主人公紹介
望月 ひより(もちづき ひより) / 転生後:ヒロイン「シエル=フェリシア」
・現代ではゲームオタクな平凡女子高生
・推しキャラの「シエル」に転生
・記憶保持型の転生で、攻略対象全員のヤンデレ化ルートを熟知している
・ただし、“自分が推される側”になることは想定外で、超戸惑い中
この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜
具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです
転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!?
肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!?
その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。
そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。
前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、
「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。
「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」
己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、
結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──!
「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」
でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……!
アホの子が無自覚に世界を救う、
価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
黒騎士団の娼婦
イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる