美醜逆転世界で婚約破棄された私、気がついたら反社に執着されてた

はりねずみ

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8 気がついたら(前世の)イケメンが馬鹿笑いしてた

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「おら、食えるのもなら、召し上がれ!」

 店主さんが喧嘩腰に言いながら、私の前にドンと定食を置く。

「なんなんですか、そのフレーズ。作ってくださってありがとうございます。お言葉に甘えていただきます」

 私の前に置かれたのは唐揚げ定食。
 黄金色にあげられた鶏肉は、揚げたてホカホカ。ショウガとニンニクの匂いが食欲をそそる。
 隣に添えられているのは瑞々しい千切りキャベツと、つやッと赤いプチトマト。
 さらには炊き立てホカホカの白米と、長ネギとわかめのお味噌汁。

 前世ではしょっちゅう食べていたのに、今世ではご無沙汰だったせいか、見ているだけでお腹がすいてくる。

「あ、嘔吐用のバケツ、足元に置いてあるから」
「いや、やめましょうよ。食事の前に嘔吐の話するの」
「大事なことだろ。いざ吐くときに困るじゃねえか」
「吐きませんて」

 イケメン顔に疑いをたっぷり乗せて、こちらを見てくる。
 そんな店主さんの前にも、唐揚げ定食が置かれている。唐揚げもキャベツもご飯も、全部私の二倍くらいの量だけど。

 店主さんの前に置かれたのか、この店の通常メニューらしい。
 あまりの盛り上げぶりに震えながら、「どうやっても食べきれないので、私の分は減らしてください。あ、いえ、店主さんの顔を見て食欲が落ちてるわけじゃなくて、いや、本当に一般女子には多すぎますって、それ!」と必死に訴えかけて減らしてもらった。
 あんなデカ盛り、食べられる気がしない。

「言い合ってても仕方がないから、食べましょう。――いただきます」

 手を合わせたら、さっそく唐揚げを箸でつかんで、がぶり。

「んっ、あふっ」

 揚げたてだから、火傷しそうなくらい熱い。でも、かじったとたんに口中に広がる肉の旨みに身もだえしそうになる。

「おいしっ」

 足をじたばたさせたいくらい美味しい。行儀が悪いからぐっとこらえるけど。

「あふっ、んー、あふっ」

 そのまま大ぶりの唐揚げを、二口、三口と食べていく。
 私のこぶしぐらいのサイズがある大ぶりな唐揚げは食べ応え抜群。
 でも、ショウガがきいているせいか、全然しつこくなくて肉と脂の旨みをいつまででも楽しめそう。
 
 唐揚げを食べたら、つぎはホカホカご飯。
 お箸に大目によそって、くちをあけて、あむり。

 あー、唐揚げと合う。完璧! というか、白米だけでも美味しい。
 お味噌汁は長ネギの香りと甘みがガツンと殴りにきたあと、やさしい出汁が身体を癒してくれる。

 もう一度唐揚げにかぶりついた後、お行儀が悪いけれど、いったん食べかけの唐揚げをご飯の上において、今度は千切りキャベツ。
 うわ、シャキシャキ。なにもつけなくても、どんどん食べられる。唐揚げと交互に食べたら、エンドレスじゃん。

 あー、天国。

「ん……? 店主さん、食べないんですか?」

 ふと気が付くと、店主さんがあんぐり口を開けてこちらを見ていた。
 しかし、アホ面してても顔がいいな。

「店主さん?」

 もう一回尋ねると、店主さんはパクンと口を閉じた後、もう一回まじまじと私を見て、それから――

「ははっ、はははは!」

 派手に笑いだした。

「え、怖い怖い。急に笑い出して大丈夫です?」

 思わず身を引いてしまう。

「ははははっ、いや、ほんとマジでメシ食うんだなーと思って。ハハハハッ」
「え、だめでした? 断るのが正解でした? この店の面接、罠が多すぎません?」
「はははははっ、全然違うって、ハハッ、今だって俺の顔見てるし、はははは」
「意味不明すぎるんですけど……とりあえず、面接落ちても諦めるんで、ご飯の続き食べていいですか?」

 いや、本当に唐揚げ定食美味しいんだよ、ここで箸をおくのはつらすぎる。

 真顔で聞いたら、店主さんはますます大笑いをしながらも、頷いてくれたのだった。

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