美醜逆転世界で婚約破棄された私、気がついたら反社に執着されてた

はりねずみ

文字の大きさ
18 / 35

17 気がついたら逆鱗に触れてた

しおりを挟む

 婚約者さん――桐生さんの黒い瞳がじっと私を見ている。
 穏やかになったように見えたのは表面上だけのことで、その奥に煮えたぎるような何かがある。熱くて、ドロドロとした、どす黒いなにか。

「なぁ」

 細部まで美しい男が、その美しい口を動かす。一瞬たりとも私から目をそらさないまま。

「いくら払ったら、俺のもんになるの」
「え?」
「金。払うなら自分に払えって言ってただろ」
「あー……」

 ちょっと前の自分を殴りたい。なんでそんな意味のわからないことを言ったんだ、私。
 いや、ちょっと頭おかしくなっていた自覚はあるんだけど。

「平均的な生涯年収って二億ぐらいだっけ。でも、あんた、ブサイクに普通に対応できそうだし、ブサイクからうまく金を巻き上げそうだよな」
「いや、そんなことしないですよ」

 風評被害がひどい。美人局じゃないんだから。前世では生涯年収二億なんて到底届かない底辺社畜だったけれど、真面目さには定評があったんだぞ。犯罪例もありません。

「そうやって考えると、十億ぐらい? じゃあ、二十億払うから、俺のものになれ。衣食住も保証する。なんだって買ってやる。――その代わり、俺だけを見て、俺だけのために生きろ」

 じぃっと見つめてくる、黒い瞳。
 イエス以外は許さない圧を込めた、命令。

 いや、それたぶん、かなりの束縛ですよね。二十億もらっても使う自由がないやつ。

 もう私はこの狂った世界でちょっと頭がパーンってなった私は、それなりに自由に生きると決めたので、常に抑圧された生活は避けたいところだ。

 そう伝えたいけれど、間近から向けられる黒い瞳の圧に、言葉がうまく出ない。
 彼の瞳が発する熱量も、執着も、そして暴力的なまでの圧も、すべてが「ダメなら、実力行使」と言っている。

「えっと……」

 なんとか口を開いたあと、乾ききった唇を舐める。
 彼の視線が、私の口元に向かい、私の濡れた唇を見て、なぜか蕩けるような甘い何かをにじませる。
 え、なに、怖い。

「えっと……その、お金を私に払えと言ったのは、その言葉の綾でして……お金を払えば、あなたのものになるというわけでは」
「あ“あ”?」

 甘やかな何かをにじませていた瞳はその一瞬でそれを消し、苛立ちにぎらつく。

「いや、本当にすみません。まことに申し訳ありません。なんというか……すみません」

 桐生さんが私の右手首をつかんでくる。そしてギリギリと締め上げ、低い声で言った。

「――無理やり俺のものにしてもいいんだぞ」

 痛みに顔をしかめつつ、彼の顔を見つめる。

 たぶん、彼はそうすることができるのだろう。それができるだけの暴力も、財力も、権力ももっている。

「――でも、桐生さんはそういうのが欲しいんじゃないんですよね」

 桐生さんが眉をピクリと動かした。

「顔がいい女性も、スタイルがいい女性も、気が利く女性も、いくらでもいるでしょう? どんな女性だって、桐生さんはきっと無理やり自分のものにすることができるんでしょう? ――でも、無理やり自分のものにしたら、みんな女なんて一緒でしょ。私もそうです。無理やり桐生さんのものにされたら、私だって怯えてあなたの顔なんか見られなくなっちゃいますよ」

 あなたに怯えて、泣き叫ぶ女なんて、お望みじゃないでしょう? と暗に伝える。

「――友達ってやつ、やってみませんか。私、人間の外見にあまり興味がないので、普通に桐生さんの顔、見られますよ。普通に手も触れるし、普通に話せますよ」

 あなたの暴力性には怯える可能性大ですが、とは口に出さないようにしておく。

「――だから、友達ってやつ、やってみませんか」
「やらねえよ」

 自分と桐生さんとの妥協点を探って出した申し入れは、かぶせ気味に拒絶された。
 男の瞳が、いつのまにか怒りに染まっていた。

「この俺が、その他大勢なんて地位に甘んじると思ってんのか」

 そして悪辣に、そして嗜虐的に嗤った。
 息を呑むほど、美しい笑みだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

美醜逆転世界でお姫様は超絶美形な従者に目を付ける

朝比奈
恋愛
ある世界に『ティーラン』と言う、まだ、歴史の浅い小さな王国がありました。『ティーラン王国』には、王子様とお姫様がいました。 お姫様の名前はアリス・ラメ・ティーラン 絶世の美女を母に持つ、母親にの美しいお姫様でした。彼女は小国の姫でありながら多くの国の王子様や貴族様から求婚を受けていました。けれども、彼女は20歳になった今、婚約者もいない。浮いた話一つ無い、お姫様でした。 「ねぇ、ルイ。 私と駆け落ちしましょう?」 「えっ!? ええぇぇえええ!!!」 この話はそんなお姫様と従者である─ ルイ・ブリースの恋のお話。

私が美女??美醜逆転世界に転移した私

恋愛
私の名前は如月美夕。 27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。 私は都内で独り暮らし。 風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。 転移した世界は美醜逆転?? こんな地味な丸顔が絶世の美女。 私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。 このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。 ※ゆるゆるな設定です ※ご都合主義 ※感想欄はほとんど公開してます。

冗談のつもりでいたら本気だったらしい

下菊みこと
恋愛
やばいタイプのヤンデレに捕まってしまったお話。 めちゃくちゃご都合主義のSS。 小説家になろう様でも投稿しています。

この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜

具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです 転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!? 肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!? その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。 そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。 前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、 「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。 「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」 己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、 結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──! 「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」 でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……! アホの子が無自覚に世界を救う、 価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!

今世は『私の理想』の容姿らしいけど‥到底認められないんです! 

文月
恋愛
 私の理想の容姿は「人形の様な整った顔」。  クールビューティーっていうの? 華やかで目を引くタイプじゃなくて、ちょっと近寄りがたい感じの正統派美人。  皆の人気者でいつも人に囲まれて‥ってのじゃなくて、「高嶺の花だ‥」って遠巻きに憧れられる‥そういうのに憧れる。  そりゃね、モテたいって願望はあるよ? 自分の(密かな)願望にまで嘘は言いません。だけど、チヤホヤ持ち上げられて「あの子、天狗になってない? 」とか陰口叩かれるのはヤなんだよ。「そんなんやっかみだろ」っていやあ、それまでだよ? 自分がホントに天狗になってないんなら。‥そういうことじゃなくて、どうせなら「お高く留まってるのよね」「綺麗な人は一般人とは違う‥って思ってんじゃない? 」って風に‥やっかまれたい。  ‥とこれは、密かな願望。  生まれ変わる度に自分の容姿に落胆していた『死んで、生まれ変わって‥前世の記憶が残る特殊なタイプの魂(限定10)』のハヅキは、次第に「ままならない転生」に見切りをつけて、「現実的に」「少しでも幸せになれる生き方を送る」に目標をシフトチェンジして頑張ってきた。本当の「密かな願望」に蓋をして‥。  そして、ラスト10回目。最後の転生。  生まれ落ちるハヅキの魂に神様は「今世は貴女の理想を叶えて上げる」と言った。歓喜して神様に祈りをささげたところで暗転。生まれ変わったハヅキは「前世の記憶が思い出される」3歳の誕生日に期待と祈りを込めて鏡を覗き込む。そこに映っていたのは‥  今まで散々見て来た、地味顔の自分だった。  は? 神様‥あんだけ期待させといて‥これはないんじゃない?!   落胆するハヅキは知らない。  この世界は、今までの世界と美醜の感覚が全然違う世界だということに‥  この世界で、ハヅキは「(この世界的に)理想的で、人形のように美しい」「絶世の美女」で「恐れ多くて容易に近づけない高嶺の花」の存在だということに‥。   神様が叶えたのは「ハヅキの理想の容姿」ではなく、「高嶺の花的存在になりたい」という願望だったのだ!   この話は、無自覚(この世界的に)美人・ハヅキが「最後の人生だし! 」ってぶっちゃけて(ハヅキ的に)理想の男性にアプローチしていくお話しです。

『推しに転生したら、攻略対象が全員ヤンデレ化した件』

春夜夢
ファンタジー
「推しキャラが死ぬバッドエンドなんて認めない──だったら、私が推しになる!」 ゲーム好き女子高生の私が転生したのは、乙女ゲームの中の“推しキャラ”本人だった! しかも、攻略対象たちがみんなルート無視で私に執着しはじめて……!? 「君が他の男を見るなんて、耐えられない」 「俺だけを見てくれなきゃ、壊れちゃうよ?」 推しキャラ(自分)への愛が暴走する、 ヤンデレ王子・俺様騎士・病み系幼なじみとの、危険すぎる恋愛バトルが今、始まる──! 👧主人公紹介 望月 ひより(もちづき ひより) / 転生後:ヒロイン「シエル=フェリシア」 ・現代ではゲームオタクな平凡女子高生 ・推しキャラの「シエル」に転生 ・記憶保持型の転生で、攻略対象全員のヤンデレ化ルートを熟知している ・ただし、“自分が推される側”になることは想定外で、超戸惑い中

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜

水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。 その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。 危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。 彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。 初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。 そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。 警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。 これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

処理中です...