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21 気がついたら朝チュンしてた
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なんだか肌寒い。首とか、頬とかがすうすうして、もっと寝ていたいのにその涼しさが邪魔をする。
「……ん」
なんだかあったかいものが近くにあるぞ……
身体をもぞもぞとさせて近づくと、ぽかぽかとした何かが頬に当たった。
うーん、あったかくて幸せ。
思わず頬を摺り寄せる。
「ん“……っ」
何かがこらえるような声が聞こえたような……?
しかも、このあったかいもの、少し震えているような?
不審さのあまり、睡魔の誘惑を振り払って瞼を開けた。
「…………んっ……うわっ」
目を開けたら、肌色と黒色……? なんだこれ。
思わずまじまじと見入ってしまう。あ、この黒いの、ドラゴンの形してる。お洒落な感じで。え、これ、もしかしてタトゥーでは? つまり肌色は……誰かの身体?
一気に目が覚め、ぎゅんっと勢いよく顔を上げる。
「え“……?」
驚くほど美しい顔がそこにあって、思わず声が出た。
彫りが深めな端整な顔立ちに、少し灰色がかった髪。鼻筋はすっととおり、その瞳は意思の強さを感じさせる。そのまなざしはどこか甘く、どこか冷静で……
まごうことなき桐生さんだ。
桐生さんが目の前にいる。
ということは、先ほど私がほおずりしたこの身体は桐生さんのものということで……
のけ反りぞりついでにとっさに離れようとしたけれど、腰に腕を回されていて距離をとれない。
桐生さんは何も言わず、ただじっとこちらを見ている。
こ、これは……
一方的にファーストキスをおしつけただけでは飽き足らず、彼を襲ってしまったのだろうか。
あるいは全然記憶にないけれど、合意の上でベッドインしたのか?
「本当に吐かないんだな」
どこか嬉しそうに言われた言葉がピンとこなくて、首を傾げる。
はかないんだな? なんの話?
「朝飯、食おうぜ」
桐生さんがするりとベッドから出ていく。
あ、下はズボンを穿いている。
改めて見てみたら、私もシャツワンピみたいなのを着ていた。
いや、安心していいのか? 誰が着替えさせたんだろう……あんまり考えないでおこう。
とりあえず自分もベッドを降りて、部屋を出た。
扉の先は、昨日桐生さんと顔を合わせたリビングだ。
隣接するダイニングキッチンには、ホカホカと湯気を立てるフレンチトーストと、カフェオレが置いてあった。
ひえ、お洒落な朝食ですね。
「ちょっと顔を洗ってきます」
「ん」
昨日のうちに場所を把握していたトイレと洗面所で用を済ませる。
鏡に映った自分の顔は、どこかぼんやりしてむくんでいた。
「まだ疲れてるのかなぁ……」
思った以上に覇気のない自分の顔に少々ビックリしつつ、ダイニングに戻る。
桐生さんは少し不機嫌そうな顔でスマホを見ている。
なにか面倒事でも起きたのかな。
「お待たせしました」
「ああ。食え」
なんか状況がいまいちわからないけれど、とりあえずせっかく準備されたご飯は温かいうちに食べないと冒涜な気がする。
我ながら厚かましいなぁと思いつつ、席に座って手を合わせた。
「いただきます」
「ん」
ざくっと、じゅわっとするフレンチトーストを一口頬ばって、思わずにへらっと顔が緩んだ。おーいし。
カフェオレはミルクたっぷりで、身体に優しい感じ。
小さなグラスで置かれているのはオレンジジュースだった。
高級ホテルの朝食かな?
あの超高級特別室で食べた病院のご飯もおいしかったけど、ベッドで、しかも一人で食べるご飯って味気ないよね。
準備されていた量もちょうどいいくらいで、綺麗に食べきることができた。
桐生さんはただ座ってこちらを見ている。
「ごちそうさまでした」
「ん……。俺の前で飯も食えるんだな」
どこか驚いたような顔で言う桐生さんに、思わずビクッとした。
「え、厚かましすぎました? すみません」
「ははは、ちげえよ」
笑ったご尊顔の美しいこと。国宝かな? いや、美醜逆転世界だったわ。
と思ったところで、ようやく気がついた。
あ、桐生さんが言っていることって、そういうことか。
この世界で、桐生さんのご尊顔を、直視できて、その前で食事もできるのか、本当に嘔吐しないのか、って。
知らず唇が尖る。
本当にこの世界ってどうしようもないな。
「とても美味しかったです。ごちそうさまでした」
とりあえず、にこっと笑っておいた。
ん……と頷く桐生さんに、改めて尋ねる。
「で、私、どうしてここに連れてこられたんですか」
昨日はぼんやりしているうちに、この部屋に置いていかれて、そのままいつの間にか寝ちゃってたみたいだけど、さすがに状況説明がほしい。
「療養、必要だろ」
「療養」
「ああ。左腕折れてたし」
「あー、でも、なんとんでもなりますよ、たぶん」
「芽衣の勤め先にも伝えてある」
「おお」
店主さん、いきなり店前で起きた暴行事件に腰抜かしたんじゃないかな。
「店主さん、何か言ってました?」
軽い気持ちで尋ねた瞬間だった。
桐生さんの気配が変わった。
いきなり張り詰めた空気、背筋を走る悪寒。
……あれ、何かミスった?
「いーや、なにも?」
桐生さんがうっそりと笑った。
「……ん」
なんだかあったかいものが近くにあるぞ……
身体をもぞもぞとさせて近づくと、ぽかぽかとした何かが頬に当たった。
うーん、あったかくて幸せ。
思わず頬を摺り寄せる。
「ん“……っ」
何かがこらえるような声が聞こえたような……?
しかも、このあったかいもの、少し震えているような?
不審さのあまり、睡魔の誘惑を振り払って瞼を開けた。
「…………んっ……うわっ」
目を開けたら、肌色と黒色……? なんだこれ。
思わずまじまじと見入ってしまう。あ、この黒いの、ドラゴンの形してる。お洒落な感じで。え、これ、もしかしてタトゥーでは? つまり肌色は……誰かの身体?
一気に目が覚め、ぎゅんっと勢いよく顔を上げる。
「え“……?」
驚くほど美しい顔がそこにあって、思わず声が出た。
彫りが深めな端整な顔立ちに、少し灰色がかった髪。鼻筋はすっととおり、その瞳は意思の強さを感じさせる。そのまなざしはどこか甘く、どこか冷静で……
まごうことなき桐生さんだ。
桐生さんが目の前にいる。
ということは、先ほど私がほおずりしたこの身体は桐生さんのものということで……
のけ反りぞりついでにとっさに離れようとしたけれど、腰に腕を回されていて距離をとれない。
桐生さんは何も言わず、ただじっとこちらを見ている。
こ、これは……
一方的にファーストキスをおしつけただけでは飽き足らず、彼を襲ってしまったのだろうか。
あるいは全然記憶にないけれど、合意の上でベッドインしたのか?
「本当に吐かないんだな」
どこか嬉しそうに言われた言葉がピンとこなくて、首を傾げる。
はかないんだな? なんの話?
「朝飯、食おうぜ」
桐生さんがするりとベッドから出ていく。
あ、下はズボンを穿いている。
改めて見てみたら、私もシャツワンピみたいなのを着ていた。
いや、安心していいのか? 誰が着替えさせたんだろう……あんまり考えないでおこう。
とりあえず自分もベッドを降りて、部屋を出た。
扉の先は、昨日桐生さんと顔を合わせたリビングだ。
隣接するダイニングキッチンには、ホカホカと湯気を立てるフレンチトーストと、カフェオレが置いてあった。
ひえ、お洒落な朝食ですね。
「ちょっと顔を洗ってきます」
「ん」
昨日のうちに場所を把握していたトイレと洗面所で用を済ませる。
鏡に映った自分の顔は、どこかぼんやりしてむくんでいた。
「まだ疲れてるのかなぁ……」
思った以上に覇気のない自分の顔に少々ビックリしつつ、ダイニングに戻る。
桐生さんは少し不機嫌そうな顔でスマホを見ている。
なにか面倒事でも起きたのかな。
「お待たせしました」
「ああ。食え」
なんか状況がいまいちわからないけれど、とりあえずせっかく準備されたご飯は温かいうちに食べないと冒涜な気がする。
我ながら厚かましいなぁと思いつつ、席に座って手を合わせた。
「いただきます」
「ん」
ざくっと、じゅわっとするフレンチトーストを一口頬ばって、思わずにへらっと顔が緩んだ。おーいし。
カフェオレはミルクたっぷりで、身体に優しい感じ。
小さなグラスで置かれているのはオレンジジュースだった。
高級ホテルの朝食かな?
あの超高級特別室で食べた病院のご飯もおいしかったけど、ベッドで、しかも一人で食べるご飯って味気ないよね。
準備されていた量もちょうどいいくらいで、綺麗に食べきることができた。
桐生さんはただ座ってこちらを見ている。
「ごちそうさまでした」
「ん……。俺の前で飯も食えるんだな」
どこか驚いたような顔で言う桐生さんに、思わずビクッとした。
「え、厚かましすぎました? すみません」
「ははは、ちげえよ」
笑ったご尊顔の美しいこと。国宝かな? いや、美醜逆転世界だったわ。
と思ったところで、ようやく気がついた。
あ、桐生さんが言っていることって、そういうことか。
この世界で、桐生さんのご尊顔を、直視できて、その前で食事もできるのか、本当に嘔吐しないのか、って。
知らず唇が尖る。
本当にこの世界ってどうしようもないな。
「とても美味しかったです。ごちそうさまでした」
とりあえず、にこっと笑っておいた。
ん……と頷く桐生さんに、改めて尋ねる。
「で、私、どうしてここに連れてこられたんですか」
昨日はぼんやりしているうちに、この部屋に置いていかれて、そのままいつの間にか寝ちゃってたみたいだけど、さすがに状況説明がほしい。
「療養、必要だろ」
「療養」
「ああ。左腕折れてたし」
「あー、でも、なんとんでもなりますよ、たぶん」
「芽衣の勤め先にも伝えてある」
「おお」
店主さん、いきなり店前で起きた暴行事件に腰抜かしたんじゃないかな。
「店主さん、何か言ってました?」
軽い気持ちで尋ねた瞬間だった。
桐生さんの気配が変わった。
いきなり張り詰めた空気、背筋を走る悪寒。
……あれ、何かミスった?
「いーや、なにも?」
桐生さんがうっそりと笑った。
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