悪役令嬢の妹に転生したので、姉と婚約者を交換して死亡フラグを回避します〜って、溺愛とか聞いてないんですけど!?〜

矢口愛留

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第四話

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 結局、原作とは異なり、ヒロインであるはずのヒメナとはクラスが別々になった。
 そのため、アルフレッドが彼女と顔を合わせる機会は訪れないかもしれない――アリアは入学式の日から数日間、そんな風に楽観的に考えていたのだが、やはりというか何というか、平穏な日々は長く続かなかった。

 アルフレッドとヒメナが、ついに出会ってしまったのである。
 原作のどこかで見たシーンと同じ――廊下の曲がり角で二人はぶつかり、転んだヒメナにアルフレッドが手を差し出したのだ。

「ごめんなさい、前を見ていなくて」
「いや、こちらこそすまなかった。怪我はないか?」
「大丈夫です、ありがとうございますっ!」

 二人が手を取り合った瞬間、アリアはアルフレッドのすぐそばにいた。だから、気づいてしまったのだ。
 ヒメナとアルフレッドが、一瞬ではあったが、息を詰めて互いを見つめ合ったことに。
 ヒロインとヒーローが、恋に落ちる瞬間を、アリアはよりにもよって一番近くで見てしまったのである。

「……怪我がないなら、良かった。以後、気をつけるように」
「はい。すみませんでした!」

 ヒメナは元気よく頭を下げて、急ぎその場を去って行った。
 アルフレッドはその場に立ちすくみ、ヒメナの姿が見えなくなるまで、彼女を目で追いかけ続けていた。
 その表情は、アリアからは見えなかった。



 それからというもの、アリアの学園生活には影が差し始めた。
 ヒメナが、アルフレッドの前に現れることが増え始めたのだ。

 やはりこうなったか、とアリアはため息をつく。
 リリアと婚約者が交換になっていたり、婚約者とそれぞれ仲が良くなっていたり、ヒメナとはクラスが違っていたり、原作とは変わった部分が多かったので、正直、この流れにならないかもと少しだけ期待していた。

 予想外だったのは、リリアとテオドールも、ヒメナの行動に巻き込まれていることだ。

 ヒメナは、何故かアリアではなくリリアを敵視し、必要以上に怖がる素振りを見せている。リリアの婚約者はテオドールだから、ヒメナがアルフレッドに接触することで嫉妬するはずもないのに。
 一方で、ヒメナはリリアの婚約者であるテオドールに対してはアプローチを仕掛けていない。アリアのことも、リリアのおまけ程度にしか思っていないようだった。

「……きっと、彼女も転生者ね」

 アリアはそう結論づけた。
 原作のヒメナは健気で純粋で努力家で賢い、好感の持てるヒロインだった。
 しかし今のヒメナからは、あざとさが見え隠れしている。ただ男に媚びているだけで、努力はせず、いつまで経っても最下位クラスのまま。

 ただ、ヒメナのクラスが上がる様子が全くないので、アリアもテストで手を抜かなくて良くなったのは幸いだった。バランスを考えながら、バレないように手を抜くというのは、実際には満点を取る以上に難しい行為なのである。

 閑話休題。
 ヒメナは、アリアがアルフレッドの婚約者に変わっているということに気がついていないのかもしれない。
 今の彼女には親しくしてくれる友達もいないようだし、アリア、リリア、アルフレッド、テオドールの四人は、いつも大抵固まって行動しているからだ。

 ヒメナは「リリアにいじめられた」とうそぶき、自作自演で悲劇のヒロインになり切り、アルフレッドの同情と関心を買おうとしている。アリアにはそれがとても滑稽に見えた。

 しかし、ただ滑稽だと笑ってもいられない。
 問題は、アルフレッド自身がヒメナと恋に落ちてしまったことなのだ。
 アルフレッドは徐々にアリアのそばを離れるようになり、テオドールとヒメナと行動を共にすることが多くなっていった。

 自然と、アリアはリリアと一緒にいる時間が増える。
 アルフレッドにいつか捨てられるかもしれないと覚悟していたアリアと違って、テオドールと愛を育んできたリリアは、少しずつ憔悴していった。

「あのご令嬢、何を考えているのかしら」
「アリア様やリリア様を放っておいて、アルフレッド殿下やテオドール様はどういうおつもりなのでしょう」

 アリアとリリアと仲の良い令嬢たちも、憤慨している様子だ。しかし、今のリリアに立ち向かう気概はない。

「皆様……おやめになって。わたくしが……、愛されないわたくしが悪いのです」
「……リリア……。そうよ、私たちが悪いのよ、リリア。婚約者を信じない私たちが」
「アリア……?」

 リリアは、紅い瞳に涙をためて、驚いたようにアリアを見た。

「信じましょう。テオドール様は、リリアのことを誰よりも深く愛しているわ。それこそ、リリアがいなくなったら病んでしまうぐらいに。貴女はテオドール様の婚約者なのだから、あの方の愛を信じるべきよ」
「……! そう、よね。わたくしとしたことが、少し弱気になっていたみたい」
「ふふ、少しじゃないけどね。リリアには元気出してもらわないと、私も悲しいから」
「そうね。わたくしも同じ気持ちよ、アリア」

 リリアはアリアの手を両手で包む。リリアの手は少し冷たくて、震えていた。

「リリア、大丈夫よ。貴女は絶対に大丈夫」

 アルフレッドはアリアを捨てるかもしれないが、あのテオドールがリリアを捨てるはずがない。

「アリア、貴女も、きっと平気よ」
「いいえ。私は……、命さえ奪われなければ、それで充分よ」
「命って……?」

 アリアは誤魔化すように笑った。
 このままだと、婚約破棄は、確実に行われるだろう。それはもう仕方がないとして、アリアは、回避したはずの死が迫ってこないかどうか、そちらの方が心配になっていた。

 ――この時、二人の会話を聞いていた令嬢が顔を青ざめさせて自分の婚約者に相談しに行くなんて、アリアは思ってもみなかったのである。
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