無能聖女の失敗ポーション

矢口愛留

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第一部 無能聖女編

6. 食事も仕事の一環だそうです

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 掃除を再開した私たちは、先ほど飲んだ失敗ポーションのおかげもあって、どんどん作業を進めていった。みるみるうちに、離れの一階小部屋はぴかぴかに磨き上げられていく。

「よし、こんなもんか?」
「すごい! これなら快適に暮らせそう!」
「へへっ。さっきのポーションのおかげだな」
「ううん、アンディが頑張ってくれたからだよ」
「ティーナもな」

 私たちはお互い褒め合って、ハイタッチをする。
 小部屋は窓も壁も床も、チェストや天井の照明魔道具に至るまで、すっかり綺麗になっていた。
 部屋に併設されているトイレとバスルームも、カビ取りのつけ置きが終わったらお掃除完了である。

「あとは大部屋にある簡易キッチンを掃除して、寝具を取り込んで……とりあえずこれで生活できるわ」
「だな。あと問題は、メシと生活必需品だけど……」
「それに関しましては、ご心配には及びません」
「ひぇっ!?」

 突然私たちの背後に、ぬっと現れたのは、手にランチバスケットを抱えたジェーンさんだった。アンディは大袈裟に驚いて、飛び上がっている。

「あ、ジェーンさん、お疲れ様です。小部屋のお掃除がもう少しで終わるところなんです」
「そのようでございますね。仕事が早く丁寧で、このジェーン、感心しております」

 ジェーンさんはそう言って初めて小さく微笑みを浮かべ、手に持っていたバスケットを私に差し出した。

「遅くなりましたが、お二方の昼食でございます。試用期間の間は、こうしてわたくしが昼食をお持ちいたします」
「わぁ、ありがとうございます! いただきます」
「なあ、ジェーンさん。さっき昼食って言ったけど、朝と夜は出ないんすか? オレは街に戻るからいいんだけど、ティーナはここに住み込みになるだろ? 買い物も行けないと思うからさ」
「えっ、そんな、とんでもない! 私、一日一食で十分ですよ!」

「は?」
「はい?」

 私がそう言うと、アンディとジェーンさんはそろって固まり、目を丸くした。

「んん? 二人とも、なんで驚いてるんです?」

 その反応が不思議で、私は首を傾げる。二人はますます困惑して、目を見合わせた。

「あのなあ、ティーナ。遠慮して倒れたりしたら、もっと迷惑かけちまうぞ」
「なんで? 遠慮なんてしてないよ」
「おいおい、普通は一日三食とるだろ?」
「ええ。人によっては二食、あるいは四食の方もいらっしゃいますが、ここ王都では一日三食が一般的です」
「えっ、そうなの? ……あ、そういえば」

 私は反対側に首をひねって、ようやく、あることに思い至った。

「私、神殿にいたとき、皆さんの食事を一日に三回用意してたの。朝昼夜、どれでも好きな時間に食べていいっていうから、私は昼にいただいてたんだけど……いつも、神殿に詰めてる人数にしては量が多いって思ってたんだよね。もしかして、皆さん、毎食召し上がってたのかしら?」
「……なあ、ティーナ。きみ、神殿でちゃんと大事に扱われてたのか? よく見れば洋服もつぎはぎだし……」
「ん? もちろん、良くしてもらってたよ。お洋服は、他の聖女様たちからもらったの。お下がりのローブとか、買い出し用の服とか。そこから下着とかも繕ったわ。破れてても補修すれば使えそうな服もあったから、困ったことはないよ」
「……っ」

 アンディは、何故か言葉を詰まらせ、眉尻を下げている。ジェーンさんは目を潤ませ、片方の手を口元に当てていた。

「……ジェーンさん。オレ、ティーナと出会ってからまだ半日だけどさ、この子、本当に良い子だと思うぞ」
「ええ、アンディ様。心得ております。澄み切った瞳、痩せたお身体、清掃の際の手際の良さ……疑う方が気が引けるというものです」

 アンディとジェーンさんは、何か通じ合ったかのように、頷き合っている。何がなんだかわからないが、私だけ蚊帳の外のようだ。
 神殿にいた頃は、そっとその場を離れて聞かないように気を遣ったりしたのだが、今は小部屋の出入り口をジェーンさんがふさいでいるので、逃げ場がない。

「ティーナ、オレにできることがあったら、何でも協力するよ」
「クリスティーナ様、わたくしもです。必ず主様を説得いたしますので、試用期間だけと言わず、ぜひともここにいらして下さい」
「え? ええ?」

 アンディの気合いの入った申し出もだが、ジェーンさんまでそんな風に声をかけてくれるなんて、驚きである。特にジェーンさんは、私たちを見定めるような固い雰囲気はすっかり消え、メイドらしく世話焼きの顔が表面に出てきていた。
 ジェーンさんは改めて私たちに向き直ると、最初に比べて熱のこもった口調と表情で、話し出した。

「クリスティーナ様、主様が母屋への出入りをご許可くださるまで、わたくしがこちらに朝昼晩とお食事をお持ちします。三食お召し上がりになるのも、仕事の一環、義務といたします。アンディ様、勤務前後の行き帰りの際に、買い出しをお願いできますでしょうか。もちろん経費はお支払いしますし、その分遅めに出勤し、早めに退勤して頂いて構いません」
「えっ、三食いただくのがお仕事の一環?」
「買い出し、了解っす!」

 私は戸惑いながら、アンディは元気よく、ジェーンさんに返事をした。

「では、そのように。後ほど買い出しのリストをお持ちいたします」

 ジェーンさんは満足そうに頷くと、ランチバスケットを清掃済みのテーブルに置いて、母屋へと戻っていった。
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