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第二部 聖女覚醒編
30. そんな風に嫉妬をするものでしょうか
しおりを挟む私たちは結局、買い物を諦めて別の場所に移動し、アンディたちの仕事が一段落するのを待つことにした。
場所を移したのは、思ったよりも目立ちすぎていて、野次馬たちの好奇の目が気になったためだ。
アンディたちと取り急ぎ話す必要もないと私は思っていたのだが、アンディがあまりにも申し訳なさそうな顔をして「リアにちゃんと謝らせるから」と言ったのと、リアさんがジェーンさんと話したがっている様子だったので、時間を設けることにしたのである。
どうやらアンディたちの依頼主は、王都外に引っ越しをするらしく、荷下ろしは別の冒険者に依頼してあるそうだ。
アンディとリアさんの仕事は、馬車に荷物を積み込み、城壁の関所近くまで移動するところまで。
その後は商人たちに随行させてもらうため、馬車の警護は商隊の護衛が兼ねてくれるそうで、個人での護衛依頼は不要なのだとか。
城壁のところまで馬車を送った後は、冒険者ギルドに完了報告をする必要があるため、一度こちらに戻ってくるそうだ。
「それにしても、アンディったら、意外と隅に置けないのね。私、びっくりしちゃいました」
「ええ、左様でございますね」
私とジェーンさんは、先程とは一本違う通りに入ってウィンドウショッピングをしながら、苦笑する。
勘違いで敵意を向けられたのにはドキッとしたが、それはリアさんがアンディを強く慕っていることの裏返しだ。
私はリアさんを微笑ましく思うと同時に、少し羨ましくも感じた。私は、他の人にそんなに強い想いを抱いたことがないのだ。
「ジェーンさん。私、わからないんですけど……普通の女の子って、好きな人ができたら、その人が他の女性と話しているのも許せないものなんですか?」
「一概には言えませんが……業務や生活で必要となる会話にも嫉妬するというのは、少々重すぎる気持ちなのではないかと存じます。重い気持ちが窮屈に感じられる方も多いですが、逆にその重さこそが愛の証と感じられ、喜ばれる方もいらっしゃいます」
「ほええ……そういうものですか」
恋や愛の形は人それぞれだという。神殿にいたときも聖女たちの恋模様を、色々と小耳に挟んだりはしていた。けれど、私にとっては、何の実感も伴わない話にすぎず、理解も難しかった。
今も、リアさんが何故あんなに色んな女性に嫉妬する様子だったのか、あまりよくわからない。
私は、ギルバート様がジェーンさんと話していても何とも思わないし――、
「……あれ?」
「どうされましたか?」
「い、いえ、何でもないです」
私は、慌ててかぶりを振った。
――今、どうしてギルバート様のお顔が頭に浮かんだのだろう。
「……あっ、そこのお店、入ってもいいですか?」
「ええ、よろしゅうございますよ」
――きっと、今の私にとって、ギルバート様が一番身近な男性だからだろう。
私は勝手にそう納得して、誤魔化すように微笑み、お店のドアをくぐったのだった。
*
「もしかして、ジェーンさんって隠蔽スキル持ち?」
グラスの中のオレンジジュースをずずっと飲んで、開口一番、リアさんはそう尋ねた。
ここは冒険者ギルドに併設された休憩所だ。ギルドの営業時間内はずっと開いていて、飲み物やお酒、軽食などを注文することができる。
午前中はみな依頼をこなしに行っているためか、休憩所は空いていた。リアさんはジュースを、アンディはホットミルクを、私とジェーンさんは紅茶を注文し、四人掛けのテーブルを陣取っている。
ジェーンさんはリアさんからの質問に対して何も答えず、にこりと微笑むにとどめた。
リアさんは、グラスの中の氷をスプーンでぐるぐるかき回して、一つ口に入れた。本当にスキルで物の位置が把握できているようだ。
「しかも意識せずに自動で発動してるってことは、スキルレベルはあたしより確実に高いよね。だから気づけなかったんだ。……てことは、アンディの言った通り、昨日のもあたしの勘違いだったんだね」
「そゆこと。リア、こういう時はなんて言うんだっけ?」
「あの、ティーナだっけ? その……ごめんなさい」
アンディに促されて、リアさんはぺこりと頭を下げて、素直に謝罪した。
「いいえ。セシリアさん――」
「リアでいいよ。あたしもティーナって呼ぶし」
「わかりました、リアさん。あの、私、アンディに恋人がいるって知らなくて……アンディは私にとって、王都で初めてできた友達なんです。それで、私は王都のお店を全然知らないので、おすすめのご飯屋さんに連れてってもらったんです」
「友達……友達なのね? 本当に友達なのね?」
「はい。女神様に誓って」
「はぁぁぁ、良かったぁぁぁ」
私が断言すると、ようやくリアさんは安心したようだ。彼女は、へにゃりと力なくテーブルにもたれかかった。
「……なあ、そもそもさ、オレとリアは恋人じゃないだろ?」
「えっ、何それひどい! どうしてそんなこと言うの!?」
「ひっ! ご、ごめ――」
「あたしが大きくなったら、お嫁さんにするって言ってくれたじゃない! アンディの馬鹿!」
「ぐ、ぐるぢ」
アンディは先程まで居心地が悪そうに縮こまっていたが、余計な口を挟んで、今はリアさんに胸ぐらを掴まれている。
「リアさんは、アンディとは以前からのお知り合いなんですか?」
「うん。アンディは、あたしと同郷なの」
私が質問をすると、リアさんはアンディからパッと手を離して、楽しそうに村での思い出を語り始めた。
仲のいい子がいなくて一人ぼっちだったリアさんに、アンディが手を差し伸べてくれたこと。
アンディと薬草採りに行ったり、魚釣りをしたり、馬に乗って隣街まで出かけたりしたこと。
アンディが冒険者を目指すと聞いて、自分も冒険者になるのだと決め、本格的に魔法の鍛錬を始めたこと――。
当のアンディは、突然手を離されて椅子ごと床にひっくり返っていたが、ようやく持ち直して、邪魔にならないように静かに座っている。
「あたしね、ひと足先に村を出たアンディを追いかけて、冒険者になったんだ。でも、近くの街の冒険者ギルドに行ったら、アンディは依頼でずいぶん前に別の街に行ったって言われて。で、そっちの街に行ってみたら、そこにももうアンディはいなくて……」
リアさんの冒険者としての旅は、アンディの後を追いかける旅だった。けれどそれは一筋縄では行かなかったようだ。
「次の街との間にある川で魔物が大量発生して、橋が落とされちゃったんだ。橋の修理が済むまでの間に、あたしは依頼を片っ端からたくさんこなした。もっと強くならないと、アンディがパーティーを組んでくれないかもって思ったから」
「それであっという間にオレを通り越してCランク冒険者とか、凄すぎだろ……」
「てへへ。やり過ぎちゃった!」
聞けば、アンディの冒険者ランクは、Dランクなのだそうだ。ちなみに、登録したばかりの私はEランクである。
「魔法は元々得意だったからさ。ほら、あたしのおじいちゃんが元魔法使いで、魔法書が家にいっぱいあったし。小さい頃から嗅覚とか聴覚に身体強化の魔法を使ってたしね」
「そうは言ってもさ、オレ格好悪いじゃん」
「そんなことない! 強くても弱くても、アンディはアンディ。あたしのアンディは世界一、宇宙一格好いいよ!」
ストレートに褒められて、アンディはぷい、とそっぽを向く。その耳は、いつもより真っ赤に染まっていた。
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