無能聖女の失敗ポーション

矢口愛留

文字の大きさ
58 / 91
第三部 フォレ領編

57. 晩餐にお呼ばれしました

しおりを挟む


 それから、ギル様との約束の時間になって、部屋まで私を迎えに来てくれたのは、ジェーンだった。
 部屋を出て廊下に出る。ジェーンの後ろには、リアとアンディ、ウォードもいた。

「あ、みんなも一緒なのね!」
「ティーナ、公爵様と久々に会えたっていうのに、お邪魔しちゃってごめんね」
「え、邪魔だなんて、そんな! みんな一緒の方が楽しいわ」

 リアに茶化されて、私は慌てて胸の前で手を横に振る。
 それに、ギル様は同じ城にいるのだ。彼とは、これから会う機会も増えるだろう。

 一方、騎士としてついて来てくれたウォードはともかく、リアとアンディは現役冒険者だ。
 依頼を完了したのだから、彼女たちが城を出て行く日も近いはず。
 そう思って、私は少し寂しくなった。



 晩餐に呼ばれたとは言っても、格式張った席ではない。
 王都別邸のダイニングルームで開いてもらったパーティーのような豪華な席ではなく、普通の夕食会だ。

 旅の間の報告会も兼ねている。
 秘密にしたいこともあるからだろう、先に食事も飲み物も全て並べられ、給仕の使用人たちはそのまま扉を閉めて下がっていく。

 部屋に残ったのは、七人だ。
 ギル様、私、アンディ、リア、ウォード、ジェーン、それからギル様の従者の男性である。

 書類を持って佇んでいる従者の男性は、シニストラ卿と言うらしい。
 黒い騎士服を着て帯剣しているところを見ると、騎士でもあるのだろう。

 年齢は、ギル様よりも少し上、ウォードよりも下といったところだろうか。
 銀色の瞳は鷹のように鋭く、片方に眼帯を着けている。
 銀に黒色のメッシュが入った髪は、ギル様と違って硬そうだ。

 ギル様とは気安く話せる関係のようで、家名ではなく、ルーカスと名前で呼んでいる。

「では、積もる話もあるだろうが、まずは食事にしようか。折角ティーナに来てもらったのだから、本当は盛大に歓迎会を開きたかったのだが」

 ギル様はそう言ったが、庶民にとっては充分豪華な食事である。
 事実、アンディは目を輝かせていたし、リアも少しテンションが上がっている様子だった。

 ウォードは何故か席に着かず、ジェーンの隣に控えようとしたのだが、「主様のご厚意を無碍にするおつもりですか」とジェーンに諭され、縮こまって端の席に座った。ちょっぴり居心地が悪そうだ。

「皆はティーナの力を知らないし、嵐が近いのか、魔の森が少しざわついている。正直、今の状況で歓迎会を開くのは難しい」

 ギル様の言葉に、私は内心、大きく頷いた。
 城に到着した際に私を部屋まで案内してくれた、女性騎士エミリーのことを思い出す。

 ――ギル様は、私の力や事情を、まだ秘匿しているのだろう。
 おそらくは、神殿や教会に情報が漏れるのを避けるために。

 着実に成果を上げて、少しずつ皆に認めてもらうしかない。

「私のことなら、平気です。それより、魔の森がざわついているというのは……」
「ああ、毎年、この時期は天候が崩れやすくてな。天気が悪くなると、魔物の勢力図が変わるらしく、こちらへ侵入してくる魔物が増えるんだ。だが、抜かりなく備えをしているから、心配はない」
「それなら、できるだけ急いでポーションを作りたいです」
「ふ、ティーナならそう言ってくれると思っていたよ」

 ギル様は楽しそうに目を細めた。
 私がどう答えるか、お見通しだったようだ。

「昨日こちらに帰還してすぐに、薬草を水に浸しておいた。薬草水は私の部屋に置いてあるから、後で誰かに運ばせよう」
「あっ、それなら、自分で運びます! 皆様の手を煩わせるわけにはいきませんから」
「だが、量が多く、重いぞ。あまり無理をしては」
「大丈夫です! 本当にお気になさらず」

 私は元気な笑顔で、ギル様の申し出を断る。
 脳裏には、私の荷物をポイと放り投げたエミリーの、冷たい表情がよぎっていた。

「――主様。ウォード様に手伝っていただいてはいかがでしょう。わたくしもお手伝いいたします」
「だが……」
「主様。わたくしは、この城が常に人手不足なのだと聞きました・・・・・よ」
「……なるほど、そういうことか」

 一瞬だったが、ギル様の瞳が、剣呑な光を帯びた。ジェーンも同様だ。
 私は、もしかしたらおかしな態度を取って余計な心配をかけてしまったかもしれない、と不安になる。

「あの、良かったら、オレも手伝うっす。色々とお礼がしたいですし。荷物運びだったら、オレにもできるんで」
「あたしも同じく。お手伝いします」

 ウォードも、巌のような顔をこちらへ向けて、首を縦に振っている。

「みんな……ありがとう」

 結局みんなを頼ることになってしまったが、私は正直、かなりホッとしていた。
 これで、お城の人たちの手を煩わせなくて済む。

「私も頑張って運ぶね!」
「こらこら。ティーナは力仕事より、ポーション精製が優先でしょ?」
「あっ、それもそっか!」

 あはは、と和やかな笑い声が上がる。
 それをきっかけに、晩餐の雰囲気はすっかり温まったのだった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

公爵家の次女ですが、静かに学園生活を送るつもりでした

佐伯かなた
恋愛
王国でも屈指の名門、公爵アルヴィス家。 その家には、誰もが称賛する完璧な令嬢がいた。 長女ソフィア。 美貌、知性、礼儀、すべてを備えた理想の公爵令嬢。 そして──もう一人。 妹、レーネ・アルヴィス。 社交界ではほとんど名前も出ない、影の薄い次女。 姉ほど目立つわけでもなく、社交の中心にいるわけでもない。 だが彼女は知っている。 貴族社会では、 誰が本当に優れているのかは、静かな場面でこそ分かるということを。 王立学園に入学したレーネは、 礼儀作法、社交、そして人間関係の中で、静かに周囲を観察していく。 やがて── 軽んじていた者たちは気づく。 「公爵家の妹」が、本当はどんな令嬢だったのかを。 これは、 静かな公爵令嬢が学園と貴族社会で評価を覆していく物語。

【完結】「異世界に召喚されたら聖女を名乗る女に冤罪をかけられ森に捨てられました。特殊スキルで育てたリンゴを食べて生き抜きます」

まほりろ
恋愛
※小説家になろう「異世界転生ジャンル」日間ランキング9位!2022/09/05 仕事からの帰り道、近所に住むセレブ女子大生と一緒に異世界に召喚された。 私たちを呼び出したのは中世ヨーロッパ風の世界に住むイケメン王子。 王子は美人女子大生に夢中になり彼女を本物の聖女と認定した。 冴えない見た目の私は、故郷で女子大生を脅迫していた冤罪をかけられ追放されてしまう。 本物の聖女は私だったのに……。この国が困ったことになっても助けてあげないんだから。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※小説家になろう先行投稿。カクヨム、エブリスタにも投稿予定。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

もうすぐ帰って来る勇者様と私の結婚式が3日後ですが、プロポーズされていないといくら言っても誰も信じてくれません

まつめ
恋愛
3日後に村をあげての盛大な結婚式がある。それはもうすぐやって来る勇者様と自分の結婚式。けれど勇者様は王都の聖女様と結婚すると決まっている。私は聖女様の代わりに癒し手として勇者様を治療してきた、だから見事魔王を打ち破って帰って来た時、村人達は私が本物の聖女だと勘違い。私がいくら否定しても誰も聞いてはくれない。王様との謁見を終えてもうすぐ勇者様が村に帰って来る。私は一度も好きだと言われてないし、ましてや結婚しようとプロポーズも受けていない。村人達はお祭り騒ぎで結婚式の準備は加速していく。どうしようと困っているのに、心の奥底で「もしかしたら……」と大好きな勇者様が自分を選んでくれる未来を淡く期待して流されてしまう私なのだった。どうしよう……でもひょっとして私と結婚してくれる?

完璧な政略結婚のはずでしたが、宰相閣下の“私の妻”扱いが甘すぎます

星乃和花
恋愛
政略結婚のはずでした。 家同士の利も、立場の釣り合いも、全部きちんと整った、完璧に合理的な結婚。 ……なのに、夫となった冷徹宰相は、なぜか人前で私を「最高の妻」と紹介し、暮らしを完璧に整え、他人に近づかれると不機嫌になってしまいます。 “天使”と噂される穏やかな令嬢フィオナもまた、 そんな不器用な優しさに少しずつ心をほどかれて――。 これは、条件で選ばれたはずの夫婦が、 いつの間にかお互いを“ただ一人”として欲しくなるまでの、甘くてやさしい政略結婚物語。 (毎日21:50更新ー全8話)

【完結】嫌われ公女が継母になった結果

三矢さくら
恋愛
王国で権勢を誇る大公家の次女アデールは、母である女大公から嫌われて育った。いつか温かい家族を持つことを夢見るアデールに母が命じたのは、悪名高い辺地の子爵家への政略結婚。 わずかな希望を胸に、華やかな王都を後に北の辺境へと向かうアデールを待っていたのは、戦乱と過去の愛憎に囚われ、すれ違いを重ねる冷徹な夫と心を閉ざした継子だった。

一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました

由香
恋愛
没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。 ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。 遠い存在になったはずの彼。 けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。 冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

【完結】隣国のモフモフ騎士団長様、番ではない私でよろしいのですか?

こころ ゆい
恋愛
※最終話に、3/11加筆した分をアップしました。 ※番外編書きたい気持ちがあるのですが、一旦、恋愛小説大賞の締め切りに合わせて、完結とさせて頂きます。🌱 ※最後、急ぎ足で駆け抜けたので、説明不足や誤字脱字多くなっているかもしれません。都度見つけ次第、修正させて頂きます。申し訳ありません。💦 ジャスミン・リーフェント。二十歳。 歴史あるリーフェント公爵家の一人娘だが、 分厚い眼鏡に地味な装い、常に本を読んでいる変わり者。皆が自分のことをそう言っているのは知っていた。 モーリャント王国の王太子殿下、コーネル・モーリャントとの婚約が王命で決まってから十三年。王妃教育を終えても婚姻は進まず、宙ぶらりん状態。 そんな中、出席した舞踏会でいつも通り他の女性をエスコートする王太子殿下。 それだけならまだ良かったが、あろうことか王太子の連れた女性が事件を巻き起こす。その最中で言い渡された婚約破棄。 「....婚約破棄、お受けいたします」 そのあと、ジャスミンは一人旅に出てある人物と出会った。 これは、婚約破棄された女性が獣人国で知らぬうちに番と出会い、運命に翻弄されていく物語。

処理中です...