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第三部 フォレ領編
57. 晩餐にお呼ばれしました
しおりを挟むそれから、ギル様との約束の時間になって、部屋まで私を迎えに来てくれたのは、ジェーンだった。
部屋を出て廊下に出る。ジェーンの後ろには、リアとアンディ、ウォードもいた。
「あ、みんなも一緒なのね!」
「ティーナ、公爵様と久々に会えたっていうのに、お邪魔しちゃってごめんね」
「え、邪魔だなんて、そんな! みんな一緒の方が楽しいわ」
リアに茶化されて、私は慌てて胸の前で手を横に振る。
それに、ギル様は同じ城にいるのだ。彼とは、これから会う機会も増えるだろう。
一方、騎士としてついて来てくれたウォードはともかく、リアとアンディは現役冒険者だ。
依頼を完了したのだから、彼女たちが城を出て行く日も近いはず。
そう思って、私は少し寂しくなった。
*
晩餐に呼ばれたとは言っても、格式張った席ではない。
王都別邸のダイニングルームで開いてもらったパーティーのような豪華な席ではなく、普通の夕食会だ。
旅の間の報告会も兼ねている。
秘密にしたいこともあるからだろう、先に食事も飲み物も全て並べられ、給仕の使用人たちはそのまま扉を閉めて下がっていく。
部屋に残ったのは、七人だ。
ギル様、私、アンディ、リア、ウォード、ジェーン、それからギル様の従者の男性である。
書類を持って佇んでいる従者の男性は、シニストラ卿と言うらしい。
黒い騎士服を着て帯剣しているところを見ると、騎士でもあるのだろう。
年齢は、ギル様よりも少し上、ウォードよりも下といったところだろうか。
銀色の瞳は鷹のように鋭く、片方に眼帯を着けている。
銀に黒色のメッシュが入った髪は、ギル様と違って硬そうだ。
ギル様とは気安く話せる関係のようで、家名ではなく、ルーカスと名前で呼んでいる。
「では、積もる話もあるだろうが、まずは食事にしようか。折角ティーナに来てもらったのだから、本当は盛大に歓迎会を開きたかったのだが」
ギル様はそう言ったが、庶民にとっては充分豪華な食事である。
事実、アンディは目を輝かせていたし、リアも少しテンションが上がっている様子だった。
ウォードは何故か席に着かず、ジェーンの隣に控えようとしたのだが、「主様のご厚意を無碍にするおつもりですか」とジェーンに諭され、縮こまって端の席に座った。ちょっぴり居心地が悪そうだ。
「皆はティーナの力を知らないし、嵐が近いのか、魔の森が少しざわついている。正直、今の状況で歓迎会を開くのは難しい」
ギル様の言葉に、私は内心、大きく頷いた。
城に到着した際に私を部屋まで案内してくれた、女性騎士エミリーのことを思い出す。
――ギル様は、私の力や事情を、まだ秘匿しているのだろう。
おそらくは、神殿や教会に情報が漏れるのを避けるために。
着実に成果を上げて、少しずつ皆に認めてもらうしかない。
「私のことなら、平気です。それより、魔の森がざわついているというのは……」
「ああ、毎年、この時期は天候が崩れやすくてな。天気が悪くなると、魔物の勢力図が変わるらしく、こちらへ侵入してくる魔物が増えるんだ。だが、抜かりなく備えをしているから、心配はない」
「それなら、できるだけ急いでポーションを作りたいです」
「ふ、ティーナならそう言ってくれると思っていたよ」
ギル様は楽しそうに目を細めた。
私がどう答えるか、お見通しだったようだ。
「昨日こちらに帰還してすぐに、薬草を水に浸しておいた。薬草水は私の部屋に置いてあるから、後で誰かに運ばせよう」
「あっ、それなら、自分で運びます! 皆様の手を煩わせるわけにはいきませんから」
「だが、量が多く、重いぞ。あまり無理をしては」
「大丈夫です! 本当にお気になさらず」
私は元気な笑顔で、ギル様の申し出を断る。
脳裏には、私の荷物をポイと放り投げたエミリーの、冷たい表情がよぎっていた。
「――主様。ウォード様に手伝っていただいてはいかがでしょう。わたくしもお手伝いいたします」
「だが……」
「主様。わたくしは、この城が常に人手不足なのだと聞きましたよ」
「……なるほど、そういうことか」
一瞬だったが、ギル様の瞳が、剣呑な光を帯びた。ジェーンも同様だ。
私は、もしかしたらおかしな態度を取って余計な心配をかけてしまったかもしれない、と不安になる。
「あの、良かったら、オレも手伝うっす。色々とお礼がしたいですし。荷物運びだったら、オレにもできるんで」
「あたしも同じく。お手伝いします」
ウォードも、巌のような顔をこちらへ向けて、首を縦に振っている。
「みんな……ありがとう」
結局みんなを頼ることになってしまったが、私は正直、かなりホッとしていた。
これで、お城の人たちの手を煩わせなくて済む。
「私も頑張って運ぶね!」
「こらこら。ティーナは力仕事より、ポーション精製が優先でしょ?」
「あっ、それもそっか!」
あはは、と和やかな笑い声が上がる。
それをきっかけに、晩餐の雰囲気はすっかり温まったのだった。
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