95 / 193
第三章 繋がりゆく縁
3-16 王城へ
しおりを挟む魔法師団長のシュウ様と打ち合わせをしてから、一ヶ月弱。
王家主催の舞踏会まで、あと二週間を切ったある日のこと。
私とウィル様は、ビスケ様、ホイップ様と共に王城を訪れていた。
「ドレスアップもしないでお城に、だなんて……なんだか、そわそわしてしまいますわね」
「ミア、心配しなくても大丈夫だ。今日のきみは、どこからどう見ても研究員だよ」
「ええ。ウィル君の言うとおり、バッチリ似合ってるわ」
「そうですか……?」
ウィル様はいつも通り魔法騎士の制服を着用しているが、私は今日、魔道具研究室の一員として、作業服を貸してもらっている。
髪型も、後ろでお団子にまとめてもらった。普段は下ろしているか、ハーフアップにすることが多いので、顔周りがスースーして、ちょっぴり落ち着かない。
また、いつもはドレスやスカート、ワンピースで過ごすことが多いのだが、今日はパンツスタイルだ。靴もフラットだから、歩いている時の感覚が全然違う。
「ああ、でも研究員にしては可愛すぎるけれどね。特に髪型がね……白い首筋がまぶしくて心配だ。ああ、こんなことなら、痕でもつけておけばよかったな」
「もう! 何言ってるんですか! おやめくださいまし」
ビスケ様もホイップ様もいるというのに、この人は何を言っているのか。
そもそも、お砂糖を吐きまくる割に奥手で純情なウィル様は、痕が残るような真似なんてしたこともない。なのに、どうしてわざと勘違いを誘うようなことを言うのだろうか。私には全く理解できない。
「はは、ごめんごめん。ミアの頬が可愛らしく染まるところが見たくて、つい、ね」
私の頬に触れて、悪びれもせずにそんなことを囁くウィル様の耳元には、新緑色のシンプルなピアスが飾られている。
私の胸元に輝くペンダントと同じ輝き――魔石のアクセサリーだ。
以前、私が加減を間違えて浄化の聖力を注ぎすぎてしまった魔石に、ウィル様の魔力を追加で込めたものである。
ウィル様はあれから、手先の器用なホイップ様に依頼して、その石をピアスに加工してもらったらしい。
そのホイップ様はというと、テーブルもない馬車の中にも関わらず、何かの部品らしき物をひたすら作り続けていた。部品作りに没頭していて、私たちの会話も耳に入ってこないようだ。
「……意地悪です」
私がため息をついて顔を背けると、ウィル様はくすりと笑って、頬から手を離した。
「うふふ、本当に仲良しねえ」
ビスケ様が楽しそうに笑っているのが聞こえるが、恥ずかしくて顔が向けられない。
ウィル様はいつも堂々としているけれど、恥ずかしいと思うことはないのだろうか。
「それよりウィル君。魔法騎士団の方は、どうなってるの? 魔力探知眼鏡は役に立ってる?」
少しして、ビスケ様が、笑いをおさめて問いかけた。
私を見ながらにこにこしていたウィル様は、一転して真面目な表情に変わる。
「ああ。魔力探知眼鏡のおかげで、捜査は順調に進んでいるよ。魔道具研究室のみんなが頑張ってくれたおかげだな」
「それは良かったわ」
ビスケ様は満足そうに頷くと、続きを促した。
ウィル様は、捜査の関係上話せることが限られていると前置きをした上で、話し始める。
「貴族街の方は、今のところ順調だ。それと並行して平民街の調査も行っているが、そちらからは呪物はほとんど出てこなかった」
どうやら、私とウィル様がデートで出かけたような貴族向けの商店で、呪物が販売されているようだ。
その形状は指輪や腕輪などのアクセサリー、ストールや靴といった服飾小物が主で、やはりいずれも『ブティック・ル・ブラン』の刻印や刺繍が施されていたということである。
「貴族街の商店に置かれていた品については少しずつ回収が進んでいるが、問題は各ギルドと、個々の邸宅に入り込んだ呪物だな。利権も絡んでくるし、少し手間取りそうだ。もっと証拠を集めて『ブティック・ル・ブラン』のことを公表し、商品を回収するのが手っ取り早いかもしれない」
けれど、安易にすぐさま公表というわけにもいかないのだそうだ。
関係者に証拠を隠滅されてしまう可能性もあるし、そもそも、どうやって魔法騎士団が呪物の出所を突き止めたのか――今の段階でそれを教会に探られると、危険だからである。
「職人ギルドや商人ギルド、冒険者ギルド……各ギルドに呪物の関係者が紛れ込んでいる可能性もあるから、簡単にそっちに協力を求める訳にもいかないもんね」
「ああ。現状、誰がどういう形で関与しているのか、まだまだ不明点が多いからな」
ウィル様は、頷いてため息をついた。
「それから……詳しいことは言えないが、やはり一番怪しいのは教会だな。今は隠密行動を得意とするヴェント隊の騎士たちが、各教会に密かに張り付いて情報を集め始めているところだ」
「やはり、教会が出てくるのですね……」
呪物に触れた人の呪いを解くのも教会。ガードナー侯爵家も神殿騎士の家系、すなわち教会の関係者。そして、先月、エヴァンズ子爵家を探りに来た聖女……。
ステラ様も教会に不信感を抱いていたようだし、先日会った魔法師団長のシュウ様も、今日会う予定になっている宰相の息子さんも、そしてウィル様もお父様も、同じく教会を警戒している。
私ももう、何も知らなかった頃と違って、教会を神聖な機関として見ることができなくなっていた。
「……ミア、不安だよね。けど、大丈夫。ミアのことは、魔法騎士団が――俺が絶対に守るから」
「ウィル様……」
私が不安に思っていると、ウィル様はすかさず私の手を取って、両手ですっぽりと包み込んだ。
ウィル様の手は大きくてあたたかくて、触れているとなんだか安心してくる。
彼は、新緑色の目を細めて、優しく微笑んだ。
「はいはい、おふたりとも。相変わらず仲良しなのはいいんだけれど、もうすぐお城に到着するわよ。そろそろ『氷麗の騎士』に戻ってもらわないとね」
「ああ。大丈夫、外ではちゃんとするから」
ちょっと呆れを含んだ声で、ビスケ様は準備を促す。
ウィル様は、なんだか干物男みたいな、ちょっぴり不安になるような返事をしつつも、私から手を離した。
ホイップ様も、ビスケ様に声をかけられて、片付けをし始めている。
そして、私たちを乗せた馬車は、城門前へと到着したのだった。
27
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
冷酷騎士団長に『出来損ない』と捨てられましたが、どうやら私の力が覚醒したらしく、ヤンデレ化した彼に執着されています
放浪人
恋愛
平凡な毎日を送っていたはずの私、橘 莉奈(たちばな りな)は、突然、眩い光に包まれ異世界『エルドラ』に召喚されてしまう。 伝説の『聖女』として迎えられたのも束の間、魔力測定で「魔力ゼロ」と判定され、『出来損ない』の烙印を押されてしまった。
希望を失った私を引き取ったのは、氷のように冷たい瞳を持つ、この国の騎士団長カイン・アシュフォード。 「お前はここで、俺の命令だけを聞いていればいい」 物置のような部屋に押し込められ、彼から向けられるのは侮蔑の視線と冷たい言葉だけ。
元の世界に帰ることもできず、絶望的な日々が続くと思っていた。
──しかし、ある出来事をきっかけに、私の中に眠っていた〝本当の力〟が目覚め始める。 その瞬間から、私を見るカインの目が変わり始めた。
「リリア、お前は俺だけのものだ」 「どこへも行かせない。永遠に、俺のそばにいろ」
かつての冷酷さはどこへやら、彼は私に異常なまでの執着を見せ、甘く、そして狂気的な愛情で私を束縛しようとしてくる。 これは本当に愛情なの? それともただの執着?
優しい第二王子エリアスは私に手を差し伸べてくれるけれど、カインの嫉妬の炎は燃え盛るばかり。 逃げ場のない城の中、歪んだ愛の檻に、私は囚われていく──。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています
六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。
しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。
「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!
王太子妃専属侍女の結婚事情
蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。
未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。
相手は王太子の側近セドリック。
ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。
そんな二人の行く末は......。
☆恋愛色は薄めです。
☆完結、予約投稿済み。
新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。
ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。
そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。
よろしくお願いいたします。
身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜
しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」
魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。
鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。
(な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?)
実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。
レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。
「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」
冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。
一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。
「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」
これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。
旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~
榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。
ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。
別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら?
ー全50話ー
【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる