悪役令嬢は今日から下町娘!?

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第四章

十七話 ある晴れた日の再開

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「ふわぁ…」
 お昼のピークも過ぎ、マリア亭には穏やかな休息の時間が訪れていた。
 サーシャとレイラはトムさんがいれてくれた紅茶をすすりながら、売り物のぬいぐるみを作り、トムさんとルイは新作メニューについて熱く語り合い、父はダラダラと机に突っ伏していた。
 そして私は働き詰めでパンパンな足を休めながらウトウトとしていた。
 もう今日はお客さん来なくてもいいな。
ーチリーン
 そんなことを考えていると、お店のドアが開いて。
「いらっしゃいま…あっ!」
 営業スマイルにさっと切り替え、訪問客に笑いかけた私は、その客の顔を見た瞬間、口を半開きにしたまま固まった。
「お邪魔します」
 そう言って頭を下げた客は、町民に近づけようとシンプルな服装にしたにも関わらず、やはり身分の良さが隠しきれていなかった。
「お久しぶりです、オルセイン様」
 その客はあのパーティで私を助けてくれたマーサさんの幼なじみであるクラーク・オルセイン様である。
 なぜ、名前を知ってるのかというと、あの日から引っ越すまでの間に彼が誰でどんな人なのかを調べたのだ。
 クラーク・オルセイン。
 彼はオルセイン家の長男であり、マーサさんとは幼い頃から一緒。
 また、オルセイン家の長男ではあるが、実質家を継ぐのは次男で正妻の子であるジェイ・オルセインなのではないかと噂されている。
 まぁ、当の本人は跡継ぎには一切興味を示さず、自由人として名が通っている。
 そんな彼が私を助けてくれてのは何らかの気まぐれで。
 だから、あの時渡した紙もきっとすぐに捨ててしまったとばかり思っていたのだが。
「こちらへどうぞ」
 戸惑いながらもお店の厨房に一番近い席に案内すると、彼はそっと腰を下ろし、キラキラした目でメニューを眺め始めた。
「オムレツとトーストのセットとクリームリゾット、あとツナのサンドイッチください」
 一人で食べるとは到底考えられない量を注文し終えた彼は、そっと私に向き直り、
「暇だったから来た。食堂って知ってたら、もっと早く来たのに」
 そう言ってムッと口をすぼめた。
「すみません。私も引っ越してから知ったので」
 そう言って笑いかけると、彼はルイが出した紅茶をひと口すすり、窓の外を眺めた。
 こう見ると、自由人という噂は少し違うのではと思えてくる。
 暇だったと言う割に、きちんと揃えられた町民の服。
 そして、パーティの時話してくれた考察力。
 跡継ぎに興味を示さない自由人とは、到底考えられない。
 そんなことを考えながら、彼の顔をじーっと見つめていると。
「聞きたいこととかないの」
 窓の外を見ていたはずの瞳がいつの間にか私を捉えていた。
「聞きたいことと言いますと?」
「例えば、マーサとカイルのこととか」
「そうですね。聞きたくないと言えば、嘘になるかもしれませんが、聞いたところで私に出来ることはないですしね」
 嘘だ。
 本当はすっごく気になる。
 マーサさんはちゃんとカイルの補佐を出来てるのかとか、まずオルセイン様はカイルを名前呼びするくらい仲良いのかとか。
 でも聞けない。
 未練がましい女って思われるかもしれないし、めんどくさいって思われるかもしれないし。
「じゃあ、勝手に喋る」
「えっ…」
「カイルとマーサの仲は今のとこは大丈夫。だけど、やっぱ補佐とかその辺はアンタと比べたらまだまだだなって口にはしないけど多分カイルは思ってる。まぁ、そこは愛の力とかなんちゃらで乗り越えるだろうけど」
「そう、なんですか」
 きっと彼はすごく頭のいい人なんだろう。
 私の気持ちを察し、勝手にと言いながらも私にちゃんと教えてくれている。
「ありがとうございます」
 嬉しかった。
 以前の私の行動の理由を理解し、私自身を認めてくれている、そんな彼の存在がただ嬉しかった。
「お待たせしました」
 そのあとは、ルイが持ってきた料理を無言で口に運ぶ彼と、そんな彼を見つめながら嬉しそうに微笑む私の静かで安らかな時間が過ぎた。

「また、暇な時来てもいい?」
 帰り際、そう言って少し不安げな瞳を私に向けたオルセイン様。
「もちろんです。ぜひまた、いらっしゃってください」
「うん」
ーチリーン
 私の言葉に嬉しそうに頷きながらオルセイン様は帰っていった。
「ありがとうございました」
 丁寧に頭を下げ、私は彼を見送った。
 その時、私は気づきもしなかった。
 そんな彼と私を見ていた、もう一人の人物がいたとこに…。

    
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