無色透明なきみへ

Okayakan

文字の大きさ
2 / 10

プロローグ2 あの夜

しおりを挟む
遡ること約一週間。それは、春休みの終わりに差し掛かったある夜の事だった。
 仕事とやらで半年ほど家を空けていたよしふみが、事前の連絡もなく突然帰ってきたのだ。

 玄関で物音がしたので慌てて降りて行くと、よしふみが靴箱にもたれ掛かっていた。乱暴に開けられた玄関の引戸はそのままに、彼が手をついたであろう場所には血が散らばっている。
 薄暗い上に黒い服を着ているため、怪我の程度が全く分からず、息も相当に荒い。




 「よしふみ、なにがーー」

 俺の疑問には答えず、彼は胸の前で大事そうに抱えたものをゆっくりと床に横たえた。

 女の子。ひとつふたつ下だろうか。彼女に意識はない。
 開け放たれた引戸から差し込む月明かりが少女の横顔を青白く照らしていた。

 「やっと、見つけた」
 息絶え絶えによしふみはしゃがみこみ、少女の頬を撫でた。
 泣きそうな、小さな小さな声。

 「やっと連れて帰れた。」

 その言葉に、ある予感が背中をぞくりと駆け巡り、次に頬が火照った。
 もしかして。

 「かなめ、…なのか?」

 八年前に行方不明になった俺の双子の妹。
 手がかりが一切なく、半ば諦めていた。

 よしふみは頭の後ろを抱え込み項垂れると、大きく頷く。
 「生きてる」という言葉は途中で途切れ、半年前の彼の誕生日には新品だったはずの擦りきれた靴の爪先に雫がほたりと落ちた。

 突然のことに感情が追い付かず、上手く息ができない。
 今までどこにいたのか?よしふみはどうやって見つけ出したのか?どうして二人とも怪我をしているのか?疑問は次々に浮かぶが何も口にできない。

 「はやと」
 よしふみに呼ばれて我に返った。
 「先生に連絡を取ってくれ。すぐにどうこうというわけじゃないが、早いところ治療しなきゃならんと思う」
 「よしふみは?」
 「俺はあとで良い。35を越えて五徹は相当こたえるが、怪我の方は大して…」
 そう言いかけて彼はそのまま崩れ落ちた。

 かかりつけの先生に連絡を取り事情を話すと、夜中にも関わらず何故か先生本人が民間救急車を運転して現れた。
 先生の他には見慣れぬ制服-まるで軍服のような-を着た男が二人。三人で手早くかなめをストレッチャーに乗せ、その後一人がよしふみをかついで救急車に乗せた。

 病院の前に待機していたスタッフ数人と共にかなめとよしふみは処置室へ運ばれ、処置が終わる頃には夜が明けていた。
 スタッフに促され、眩しい朝日の中、はやとは帰路に着く。

 あまりにも突然で、あまりにも色々なことが起こりすぎて、まるで夢の中のようだった。
 
 ふわふわした頭のまま玄関の引戸を明けると、あたり一面の血が目に飛び込んできて、否応なく現実に引き戻される。朝日の眩しさが、真っ赤な血を浮き上がらせていた。

 感情が追い付かないのか、実感がないのか。それとも、その後始まる日々への予感があったのか。

 はやとは引戸にもたれかかり両手で顔を覆うと、大きくため息をつき、しばらくの間、立ち尽くした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

処理中です...