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プロローグ2 あの夜
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遡ること約一週間。それは、春休みの終わりに差し掛かったある夜の事だった。
仕事とやらで半年ほど家を空けていたよしふみが、事前の連絡もなく突然帰ってきたのだ。
玄関で物音がしたので慌てて降りて行くと、よしふみが靴箱にもたれ掛かっていた。乱暴に開けられた玄関の引戸はそのままに、彼が手をついたであろう場所には血が散らばっている。
薄暗い上に黒い服を着ているため、怪我の程度が全く分からず、息も相当に荒い。
「よしふみ、なにがーー」
俺の疑問には答えず、彼は胸の前で大事そうに抱えたものをゆっくりと床に横たえた。
女の子。ひとつふたつ下だろうか。彼女に意識はない。
開け放たれた引戸から差し込む月明かりが少女の横顔を青白く照らしていた。
「やっと、見つけた」
息絶え絶えによしふみはしゃがみこみ、少女の頬を撫でた。
泣きそうな、小さな小さな声。
「やっと連れて帰れた。」
その言葉に、ある予感が背中をぞくりと駆け巡り、次に頬が火照った。
もしかして。
「かなめ、…なのか?」
八年前に行方不明になった俺の双子の妹。
手がかりが一切なく、半ば諦めていた。
よしふみは頭の後ろを抱え込み項垂れると、大きく頷く。
「生きてる」という言葉は途中で途切れ、半年前の彼の誕生日には新品だったはずの擦りきれた靴の爪先に雫がほたりと落ちた。
突然のことに感情が追い付かず、上手く息ができない。
今までどこにいたのか?よしふみはどうやって見つけ出したのか?どうして二人とも怪我をしているのか?疑問は次々に浮かぶが何も口にできない。
「はやと」
よしふみに呼ばれて我に返った。
「先生に連絡を取ってくれ。すぐにどうこうというわけじゃないが、早いところ治療しなきゃならんと思う」
「よしふみは?」
「俺はあとで良い。35を越えて五徹は相当こたえるが、怪我の方は大して…」
そう言いかけて彼はそのまま崩れ落ちた。
かかりつけの先生に連絡を取り事情を話すと、夜中にも関わらず何故か先生本人が民間救急車を運転して現れた。
先生の他には見慣れぬ制服-まるで軍服のような-を着た男が二人。三人で手早くかなめをストレッチャーに乗せ、その後一人がよしふみをかついで救急車に乗せた。
病院の前に待機していたスタッフ数人と共にかなめとよしふみは処置室へ運ばれ、処置が終わる頃には夜が明けていた。
スタッフに促され、眩しい朝日の中、はやとは帰路に着く。
あまりにも突然で、あまりにも色々なことが起こりすぎて、まるで夢の中のようだった。
ふわふわした頭のまま玄関の引戸を明けると、あたり一面の血が目に飛び込んできて、否応なく現実に引き戻される。朝日の眩しさが、真っ赤な血を浮き上がらせていた。
感情が追い付かないのか、実感がないのか。それとも、その後始まる日々への予感があったのか。
はやとは引戸にもたれかかり両手で顔を覆うと、大きくため息をつき、しばらくの間、立ち尽くした。
仕事とやらで半年ほど家を空けていたよしふみが、事前の連絡もなく突然帰ってきたのだ。
玄関で物音がしたので慌てて降りて行くと、よしふみが靴箱にもたれ掛かっていた。乱暴に開けられた玄関の引戸はそのままに、彼が手をついたであろう場所には血が散らばっている。
薄暗い上に黒い服を着ているため、怪我の程度が全く分からず、息も相当に荒い。
「よしふみ、なにがーー」
俺の疑問には答えず、彼は胸の前で大事そうに抱えたものをゆっくりと床に横たえた。
女の子。ひとつふたつ下だろうか。彼女に意識はない。
開け放たれた引戸から差し込む月明かりが少女の横顔を青白く照らしていた。
「やっと、見つけた」
息絶え絶えによしふみはしゃがみこみ、少女の頬を撫でた。
泣きそうな、小さな小さな声。
「やっと連れて帰れた。」
その言葉に、ある予感が背中をぞくりと駆け巡り、次に頬が火照った。
もしかして。
「かなめ、…なのか?」
八年前に行方不明になった俺の双子の妹。
手がかりが一切なく、半ば諦めていた。
よしふみは頭の後ろを抱え込み項垂れると、大きく頷く。
「生きてる」という言葉は途中で途切れ、半年前の彼の誕生日には新品だったはずの擦りきれた靴の爪先に雫がほたりと落ちた。
突然のことに感情が追い付かず、上手く息ができない。
今までどこにいたのか?よしふみはどうやって見つけ出したのか?どうして二人とも怪我をしているのか?疑問は次々に浮かぶが何も口にできない。
「はやと」
よしふみに呼ばれて我に返った。
「先生に連絡を取ってくれ。すぐにどうこうというわけじゃないが、早いところ治療しなきゃならんと思う」
「よしふみは?」
「俺はあとで良い。35を越えて五徹は相当こたえるが、怪我の方は大して…」
そう言いかけて彼はそのまま崩れ落ちた。
かかりつけの先生に連絡を取り事情を話すと、夜中にも関わらず何故か先生本人が民間救急車を運転して現れた。
先生の他には見慣れぬ制服-まるで軍服のような-を着た男が二人。三人で手早くかなめをストレッチャーに乗せ、その後一人がよしふみをかついで救急車に乗せた。
病院の前に待機していたスタッフ数人と共にかなめとよしふみは処置室へ運ばれ、処置が終わる頃には夜が明けていた。
スタッフに促され、眩しい朝日の中、はやとは帰路に着く。
あまりにも突然で、あまりにも色々なことが起こりすぎて、まるで夢の中のようだった。
ふわふわした頭のまま玄関の引戸を明けると、あたり一面の血が目に飛び込んできて、否応なく現実に引き戻される。朝日の眩しさが、真っ赤な血を浮き上がらせていた。
感情が追い付かないのか、実感がないのか。それとも、その後始まる日々への予感があったのか。
はやとは引戸にもたれかかり両手で顔を覆うと、大きくため息をつき、しばらくの間、立ち尽くした。
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