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第一章 愛想のない護衛騎士
4話
しおりを挟む時は流れ、シエナは十二歳を迎えた。
来年には上流階級の貴族達が通う王都学園へ入学することが決まっていたが、その前段階にと義母がシエナにつけたのは異様な数の指導係だった。多岐にわたる魔法学や、社交、礼儀作法、地理学や国の歴史などの各々の学問。大人ですら逃げたくなるほどの学修時間をみっちり敷き詰められてしまったのだ。
どうせ学園で勉強する羽目になるのだからやらなくていいのでは、とシエナはめそめそと泣いたが、義母に『お前には特級に値する魔術や教養、剣術の才能もなければ、外見だけで見初められるほどの美貌も持っていない。恥をかきたくなければ人並みに勉学に励め』と叱咤された。
父と亡き母からは溺愛振りが目に見えて分かるほど可愛がられてきたので、このときの義母の言葉でちょっぴり傷ついたことは、記憶に新しい。
母の亡き後、後妻となった義母は一貫として儼乎たる態度を貫いていた。幼かったシエナに対して一度足りとも笑顔を向けることはなく、ねぇねぇとシエナが話しかけた日には空気が凍りつくような眼差しを向けられた。
彼女の父との会話も、日常において必要な最低限のやり取りのみ。
──如何にも政略結婚した妻の縮図、というような印象だった。
シエナが魔術に長けていたり、皆が一目置くような卓越した剣術を持っていれば文句の一つでも減ったかもしれない。が、そんな無い物ねだりをしても状況が変わることはない。
シエナはその日もひぃひぃと弱音を吐きながら、手ほどきを受けていた。急用で席を外したいつもの指導係に代わって、暇を持て余していたアランの指導によって。
「シエナ嬢。術式が違いますよ。やり直してください」
「覚えてない……」
「昨日指導係から習ったばかりでは? 指導係の説明を聞いていなかったのですか? 集中していなかったのですか? それとも寝ていたのですか? 復習はしなかったのですか? 復習したのに覚えていなかったのですか? お嬢様の頭は鶏以下ですか?」
「う、ううっ」
シエナは幼子のように情けなく泣きながら、机に突っ伏す。
長い時間を過ごすに連れて、アランの毒舌は容赦がなくなっていた。敬語を崩さずに無表情のまま説教されるので、シエナの心はすでに折れかけている。傍から見たらどちらが主なのか分かったものではない。
「解けるまで夕食は抜きですよ」
「意地悪! アランにそんな権限はない!」
「いいえ。しっかりと貴女のお母様から許可は得ています。口答えする暇があったらさっさと調べたらどうでしょう」
ほら、とアランは机に資料を置く。
自分の顔よりも幅があるその厚さに、シエナは堪らずその場を逃げようとした。
「逃げるな、シエナ」
「いやーっ!」
腕を引かれてアランの膝に無理やり乗せられるシエナ。勉強と鬼教師から逃げたい一心で、今どういう体勢になっているのか分かっていなかったが、突然開いた扉の音で意識を引き戻された。
「……お前達、一体何をしているんだ」
扉の前に立っていたのは、どこか険しい表情を浮かべたシエナの父。
シエナは現れた救世主の側まで駆け寄ろうとしたが、父の低い一声が妨げてしまった。
「シエナ。お前の婚約者のことで話がある。私と一緒に来なさい」
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