【R18】今日から私は貴方の騎士

みちょこ

文字の大きさ
8 / 36
第一章 愛想のない護衛騎士

7話

しおりを挟む

 いつもと異なるアランの雰囲気に慄いてしまったのか。
 その場の空気を誤魔化したくなったのかもしれない。

 揺るぐことのないアランの視線に耐えられず、シエナは思わず目を逸らしてしまった。

「ど、どうしたの急に。おかしい、アラン。いつもだったらそんなこと絶対に言わないじゃない」

「……そうですか?」

「そうよ。非現実的なことを言うなんて、アランらしくないわ。お父様とお義母様の元を離れるなんて、できるはずかないじゃない。それにアランだってその言葉、本気じゃないでしょう。いつまでも私と一緒にいたいなんて思っていないくせに」

 上擦った声で言葉を返すシエナに、アランは目を細める。返答に窮したシエナを軽蔑しているのか、それとも心の奥底に秘めた感情を隠そうとしているのか。
 アランはしばらく黙り込んだあと、口元をふと緩めた。

「冗談ですよ。すみません」

「な、なんだ……じゃなくて、ほら、やっぱり!」

 あはは、と態とらしくシエナが笑うと、アランは再びすみませんと言葉を繰り返した。相変わらず表情から心の意図は読み取れないが、彼の言う通りきっと冗談なのだろう。
 シエナはそう自分に言い聞かせながらも、なぜか泣きそうになってしまった。

「わ、私、お父様ともう一度話してくる。婚約の話は別として、アランを護衛から外すのは今すぐじゃなくてもいいはずだし」

「……そうですね。でも、無理はしなくて大丈夫です」

「無理なんてしないよ! すぐに戻ってくるから待ってて」

 シエナは力の緩んだアランの腕から抜け出し、小走りで扉の前まで駆け寄る。錆び付いたハンドルにそっと手を掛けると、少し離れた場所から掠れた声がシエナの耳に届いた。

 ──シエナの名前を呼ぶ、アランの声が。

「シエナ嬢。貴女は本当に変わらないな」

「え?」

 唐突な言葉に、シエナは振り返る。
 アランは手を伸ばしても、ちょうど届かない距離に立っていた。

「どうかお幸せに。心からそう願っています」

「な、なに、急に……?」

 真顔で言うものだから、シエナはまた声が震えてしまった。その場で足を止めたまま返す言葉に迷っていると、アランはテーブルの天板に置かれたままの勉強道具の残骸に目を向けた。

「戻ってきたら、勉強を再開しましょう。ここで待っています」

「う、うん……待ってて……」

 普段と同じトーンで話すアランに疑念と安堵感を抱きつつ、シエナは再び視線を前へと戻す。そして振り返らずに自室を離れ、父を探そうと各場所を回った。
 元いた客間から応接室、広間、居間、舞踏室、そして書斎まで。階段を上がる途中、弓状に張り出した出窓から東屋で休む父の姿が見え、シエナはすぐさま外へ向かおうとした──が、ふと足を止めた。

 何だか、嫌な胸騒ぎがする。
 今すべきは、父と話すことではない。一刻も早く自室に戻らなければ。

 妙な焦燥感に駆られたシエナは元来た道を折り返し、歩き、急ぎ足で進み、最後には走っていた。途中、廊下ですれ違った義母に「はしたないから走るんじゃありません」と叱られたが、シエナは構わず部屋の扉を勢いよく開けた。

「アラン!」

 何ですか、騒々しい。呆れたような顔でそう言ってくれるアランがきっといる。シエナの願いにも近い予想はあっけなく散っていった。

「……アラン?」

 綺麗に整頓された机の上。
 皺一つなく整えられた寝台のシーツ。
 そして、シエナ以外誰もいない静寂な空間。

 ──ここで待っていると、確かに約束したアランの姿は、どこにもなかった。




しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

旦那様の愛が重い

おきょう
恋愛
マリーナの旦那様は愛情表現がはげしい。 毎朝毎晩「愛してる」と耳元でささやき、隣にいれば腰を抱き寄せてくる。 他人は大切にされていて羨ましいと言うけれど、マリーナには怖いばかり。 甘いばかりの言葉も、優しい視線も、どうにも嘘くさいと思ってしまう。 本心の分からない人の心を、一体どうやって信じればいいのだろう。

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

新人メイド桃ちゃんのお仕事

さわみりん
恋愛
黒髪ボブのメイドの桃ちゃんが、働き先のお屋敷で、旦那様とその息子との親子丼。

虚弱姫はコワモテ将軍の筋肉に触りたい

隙間ちほ
恋愛
◼︎無骨な英雄×病弱な筋肉フェチ姫 ◼︎辺境伯の末娘エルナは、領軍の英雄マテウスとの結婚が決まった。政略結婚――のはずが、実は姫は将軍の熱烈なファン。姫がノリノリで嫁ぐ一方、当のマテウスは「か弱い姫君に嫌われている」と思い込み、距離を取ってしまう……。 ◼︎筋肉と鼻血とすれ違いラブコメ。 ◼︎超高速展開、サクッと読めます。

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

魚人族のバーに行ってワンナイトラブしたら番いにされて種付けされました

ノルジャン
恋愛
人族のスーシャは人魚のルシュールカを助けたことで仲良くなり、魚人の集うバーへ連れて行ってもらう。そこでルシュールカの幼馴染で鮫魚人のアグーラと出会い、一夜を共にすることになって…。ちょっとオラついたサメ魚人に激しく求められちゃうお話。ムーンライトノベルズにも投稿中。

離宮に隠されるお妃様

agapē【アガペー】
恋愛
私の妃にならないか? 侯爵令嬢であるローゼリアには、婚約者がいた。第一王子のライモンド。ある日、呼び出しを受け向かった先には、女性を膝に乗せ、仲睦まじい様子のライモンドがいた。 「何故呼ばれたか・・・わかるな?」 「何故・・・理由は存じませんが」 「毎日勉強ばかりしているのに頭が悪いのだな」 ローゼリアはライモンドから婚約破棄を言い渡される。 『私の妃にならないか?妻としての役割は求めない。少しばかり政務を手伝ってくれると助かるが、後は離宮でゆっくり過ごしてくれればいい』 愛し愛される関係。そんな幸せは夢物語と諦め、ローゼリアは離宮に隠されるお妃様となった。

処理中です...