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第五章 主従逆転、今日から召使
22話
しおりを挟む領地経営が上手くいっていないということは、シエナも何となく察してはいた。屋敷での暮らしも徐々に切り詰めていかなければならないほど、父も追い詰められていたのだろう。
しかし、まさか没落してしまうほど借金が嵩んでいたとは。況してや自分が借金の担保となっていたなんて、誰が予想できたのだろう。領土内の街で『シエナ・ルロワを捕らえれば膨大な報酬が入るらしい』と人々が口にしていたのも、この件と繋がっていたのだろうか。
──そもそも、借金を帳消しにできるほどの価値が自分にあるのだろうか。いや、絶対にない。
魔力を持ち合わせていないことは疎か、勉強だってできない。剣術ですら人並み以下。初めて馬に乗った日には見事に転げ落ち、その場に置いてきぼりにされた。つまり、馬術も壊滅的な才能しか持ち合わせていないということだ。
「アラン! 私、どうしたらいいの!? なんで私が悪いことをしたみたいになっているの!? こんな指名手配されたら凶悪犯みたいじゃない!」
シエナはアランに泣きついた。
つい先ほどまで逃げようとしていたにもかかわらず、事情を知った途端に縋り付くなんて調子が良いにも程がある。が、今のシエナが助けを求められる相手は一人しかいない。
「ウィアックス卿の元に行くのではなかったのですか?」
「意地悪! さっきまで逃げるなとか言っていた癖に! この状況で外に行ったら、捕まってしまうじゃない!」
「私を頼るんですか? 貴女を騙して帝国の人間に売り飛ばすかもしれませんよ」
「アランはそんなことしな………………いもん!」
多少間があいてしまったが、シエナは否定した。
いくら相手を嫌っていても、アランはかつての主にそんな非道な行為を仕掛ける人間ではない。おそらく。
「……簡単に人を信じるのはどうかと思いますが」
「うっ、んぐっ、ひくっ」
「鼻水を垂らして泣くのはやめてください」
アランは本日二度目の深い嘆息を漏らし、泣きじゃくるシエナの顔面を雑に素手で拭き取る。
そして、彼女が手に持っていた記事の端切れを引っこ抜くと、魔法詠唱であっという間に燃やし尽くしてしまった。灰になった紙は地面へと落ちる前に空気に溶けるようにして消滅していく。
「シエナ嬢。こっちに」
アランはシエナの腕を引き、カーテンで外の景色を閉ざされた窓の前まで歩く。
何をするつもりなのか。シエナが尋ねる暇もなく、アランは色褪せたカーテンを勢いよく左右に引いた。
「わっ……」
窓の景色の先に構えられた銀に眩く光る橋。そこを辿るように視線を上げると、蔦を纏った外壁に囲まれた粛然と聳える大きな建造物がシエナの目に飛び込んだ。
王国ラストナスの城を遥かに凌ぐほどの大きさ。幾つもの不揃いな塔が天に向かって伸び、ステンドガラスが陽の光を弾いて異彩を放っている。
その中で側塔に囲われた一段と高い中央の塔から、ラストナスの象徴である白竜の像が神秘的な輝きを見せていた。
まるで白竜が天空から舞い降りたようにも見える光景。
今日のように晴天に恵まれた日には、屋敷のバルコニーからあの煌びやかな像を指差して、父が何度も「お前もあの場所で教えを受けるのだ」と諭してくれた記憶が甦る。
(あそこは、まさか……)
「国の中でも限られた人間だけが通える王都学園です。シエナ嬢には……そうですね。王都生徒である私の召使になってもらいましょう」
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