【R18】今日から私は貴方の騎士

みちょこ

文字の大きさ
23 / 36
第五章 主従逆転、今日から召使

22話

しおりを挟む

 領地経営が上手くいっていないということは、シエナも何となく察してはいた。屋敷での暮らしも徐々に切り詰めていかなければならないほど、父も追い詰められていたのだろう。

 しかし、まさか没落してしまうほど借金がかさんでいたとは。況してや自分が借金の担保となっていたなんて、誰が予想できたのだろう。領土内の街で『シエナ・ルロワを捕らえれば膨大な報酬が入るらしい』と人々が口にしていたのも、この件と繋がっていたのだろうか。

 ──そもそも、借金を帳消しにできるほどの価値が自分にあるのだろうか。いや、絶対にない。

 魔力を持ち合わせていないことは疎か、勉強だってできない。剣術ですら人並み以下。初めて馬に乗った日には見事に転げ落ち、その場に置いてきぼりにされた。つまり、馬術も壊滅的な才能しか持ち合わせていないということだ。

「アラン! 私、どうしたらいいの!? なんで私が悪いことをしたみたいになっているの!? こんな指名手配されたら凶悪犯みたいじゃない!」

 シエナはアランに泣きついた。
 つい先ほどまで逃げようとしていたにもかかわらず、事情を知った途端に縋り付くなんて調子が良いにも程がある。が、今のシエナが助けを求められる相手は一人しかいない。

「ウィアックス卿の元に行くのではなかったのですか?」

「意地悪! さっきまで逃げるなとか言っていた癖に! この状況で外に行ったら、捕まってしまうじゃない!」

「私を頼るんですか? 貴女を騙して帝国の人間に売り飛ばすかもしれませんよ」

「アランはそんなことしな………………いもん!」

 多少間があいてしまったが、シエナは否定した。
 いくら相手を嫌っていても、アランはかつての主にそんな非道な行為を仕掛ける人間ではない。おそらく。

「……簡単に人を信じるのはどうかと思いますが」

「うっ、んぐっ、ひくっ」

「鼻水を垂らして泣くのはやめてください」

 アランは本日二度目の深い嘆息を漏らし、泣きじゃくるシエナの顔面を雑に素手で拭き取る。
 そして、彼女が手に持っていた記事の端切れを引っこ抜くと、魔法詠唱であっという間に燃やし尽くしてしまった。灰になった紙は地面へと落ちる前に空気に溶けるようにして消滅していく。

「シエナ嬢。こっちに」

 アランはシエナの腕を引き、カーテンで外の景色を閉ざされた窓の前まで歩く。
 何をするつもりなのか。シエナが尋ねる暇もなく、アランは色褪せたカーテンを勢いよく左右に引いた。

「わっ……」

 窓の景色の先に構えられた銀に眩く光る橋。そこを辿るように視線を上げると、蔦を纏った外壁に囲まれた粛然とそびえる大きな建造物がシエナの目に飛び込んだ。
 王国ラストナスの城を遥かに凌ぐほどの大きさ。幾つもの不揃いな塔が天に向かって伸び、ステンドガラスが陽の光を弾いて異彩を放っている。

 その中で側塔に囲われた一段と高い中央のベルクフリートから、ラストナスの象徴である白竜の像が神秘的な輝きを見せていた。

 まるで白竜が天空から舞い降りたようにも見える光景。

 今日のように晴天に恵まれた日には、屋敷のバルコニーからあの煌びやかな像を指差して、父が何度も「お前もあの場所で教えを受けるのだ」と諭してくれた記憶が甦る。

 (あそこは、まさか……)

「国の中でも限られた人間だけが通える王都学園です。シエナ嬢には……そうですね。王都生徒である私の使なってもらいましょう」





しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

旦那様の愛が重い

おきょう
恋愛
マリーナの旦那様は愛情表現がはげしい。 毎朝毎晩「愛してる」と耳元でささやき、隣にいれば腰を抱き寄せてくる。 他人は大切にされていて羨ましいと言うけれど、マリーナには怖いばかり。 甘いばかりの言葉も、優しい視線も、どうにも嘘くさいと思ってしまう。 本心の分からない人の心を、一体どうやって信じればいいのだろう。

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

新人メイド桃ちゃんのお仕事

さわみりん
恋愛
黒髪ボブのメイドの桃ちゃんが、働き先のお屋敷で、旦那様とその息子との親子丼。

虚弱姫はコワモテ将軍の筋肉に触りたい

隙間ちほ
恋愛
◼︎無骨な英雄×病弱な筋肉フェチ姫 ◼︎辺境伯の末娘エルナは、領軍の英雄マテウスとの結婚が決まった。政略結婚――のはずが、実は姫は将軍の熱烈なファン。姫がノリノリで嫁ぐ一方、当のマテウスは「か弱い姫君に嫌われている」と思い込み、距離を取ってしまう……。 ◼︎筋肉と鼻血とすれ違いラブコメ。 ◼︎超高速展開、サクッと読めます。

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

魚人族のバーに行ってワンナイトラブしたら番いにされて種付けされました

ノルジャン
恋愛
人族のスーシャは人魚のルシュールカを助けたことで仲良くなり、魚人の集うバーへ連れて行ってもらう。そこでルシュールカの幼馴染で鮫魚人のアグーラと出会い、一夜を共にすることになって…。ちょっとオラついたサメ魚人に激しく求められちゃうお話。ムーンライトノベルズにも投稿中。

離宮に隠されるお妃様

agapē【アガペー】
恋愛
私の妃にならないか? 侯爵令嬢であるローゼリアには、婚約者がいた。第一王子のライモンド。ある日、呼び出しを受け向かった先には、女性を膝に乗せ、仲睦まじい様子のライモンドがいた。 「何故呼ばれたか・・・わかるな?」 「何故・・・理由は存じませんが」 「毎日勉強ばかりしているのに頭が悪いのだな」 ローゼリアはライモンドから婚約破棄を言い渡される。 『私の妃にならないか?妻としての役割は求めない。少しばかり政務を手伝ってくれると助かるが、後は離宮でゆっくり過ごしてくれればいい』 愛し愛される関係。そんな幸せは夢物語と諦め、ローゼリアは離宮に隠されるお妃様となった。

処理中です...