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第五章 主従逆転、今日から召使
24話
しおりを挟む王国ラストナスの古都に在る王都学園の歴史は、設立してから十二年とまだ浅い。古くから護られてきた国の平和と自由を未来ある若者達へと繋げていくために、何十年もの月日を掛けて学びの場が創られたそうだが、猛勢を奮い始めた帝国軍の侵略によって、掲げられた象徴は学園建設の最中に崩れ去ってしまった。
国境にまで迫る敵軍。呆気なく散っていく王国の前衛達。国内では希少とされた高位魔法師まで前線に駆り出されたが、圧倒的な数を誇る帝国軍を前にはまるで歯が立たなかった。
これ以上犠牲を増やすわけにはいかないと、当時の国王は早々に降伏をし、帝国に脅かされる日々を暮らす今に至ったわけである。
古国の誇りとなるはずであった王都学園も、至る場所に帝国の国旗が掲げられていた。
「あ、アラン。待って……!」
「敬称」
「んぐっ、あっ、アランさま……!」
シエナは明らかに嫌そうな顔をしつつ、学園男子寮の出口から橋に向かうアランの後を追う。他にも学生らしき青年達がちらほらと学園に向かっており、中には自分達と同様に付き人をつけている者もいた。
しかし、どの付き人も皆揃って体格がいい。あの丸太のような腕で殴られたら、シエナなんて一溜まりもないだろう。
そもそもシエナは同性の付き人ですらない。
短髪栗毛の鬘を被らされ、微妙に似合っていない男子用の学生服を着せられたひょろひょろの令嬢である。アランの替えの学生服を借りているから、丈が合っていないのだ。歩きにくいし、憂鬱だし、お腹は空いているし、家に帰りたい。
「あ、アランはいつから学校に通っているの?」
「敬語も忘れてる」
「アラン様はいつから王都学園に通われていらっしゃるのですかぁ!?」
アランの無愛想な口調に少しばかり苛立ち、口調が荒立ってしまった。
アランは横目でシエナをちらりと見ると、口元を隠しながらぷっと笑い声を漏らしていた。確実に小馬鹿にされている。
「三年前に編入したんです。色々と事情があって」
「……そうなんだ。あっ、そうなんですね」
三年前と言ったら、アランが屋敷を出ていったばかりの頃。王都学園へ入学するためには相当な資金が必要であるはずだが、アランの家はウィアックス伯爵家が援助しなければならないほど経営困難に見舞われていたはず。
シエナの知らない間に財政を立て直したのだろうか。
「……私が学園に入学できていたら、一緒に通えていたかもしれないんだ」
家があんな状態に陥らなければ、数年前のように同じ時間を過ごすことができたのだろうか。学園まで一緒に毎朝通学して、一緒に勉強して、一緒に昼食をとって、午後も一緒に授業を受けて、一緒に屋敷まで帰って、愛する家族に出迎えられて。
「うっ、ううっ」
「え? 泣いてる?」
不意に父のことを思い出してしまい、シエナの瞳がじんわりと潤んだそのとき、ドンッと鉄筋のように堅い感触が顔面にぶつかった。
一瞬、アランが慰めようと抱き締めてくれているのかと思ったが、顔を上げた瞬間にその勘違いは涙と共に宙の彼方へと飛ばされてしまった。
「……おい。お前、見ない顔だな」
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