【R18】悪女と冴えない夫

みちょこ

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第1章 冴えない夫

7話※

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 ぱちりぱちり、とアルフィーは何度も目を屡叩かせる。
 滲んだ涙が触れ合った頬の隙間を伝い、顎下へと落ちていく。吐息と声の自由を奪われた唇は柔らかい温もりに包まれていた。視線のすぐ先にあるのは長い睫毛が垂れたエイヴァの両瞼。つまり、今、この状況は。

「え、えい……んっ!?」

 自分が口づけされていると理解できたのも束の間、ぐぐぐっと唇を抉じ開けるようにしてエイヴァの舌がアルフィーの前歯を押す。
 アルフィーは嫌々と顔を横に振ろうとしたが、頬を両手で固定されて思うように動くことができない。

「んむっ、え、えいゔぁさ」

 何とか行為を止めさせようとアルフィーが口を開けてしまった隙を狙ってか、ぬるりと舌が捩じ込まれる。アルフィーは逃げ場のない湿った空間で舌を引っ込めようとしたが、あっという間に絡め取られてしまった。
 左頬に舌を寄せてもついてきて、右頬に舌を寄せてもまた追われて。アルフィーは息苦しさに涙目になりながらも、妙な攻防戦を繰り返す。無論、先に音を上げたのはアルフィーだった。

「や、やめ、エイヴァ……!」

 アルフィーは残された力でエイヴァの肩を押し返し、上体を起こす。が、エイヴァは負けじと唇をくっつけたままだ。何という忍耐力だろう。息がここまで続くことも凄いが、もう口周りがお互いの唾液でべちょべちょだ。

「わ、わかっ、わかったから……」

「思い出したのですか?」

「え?」

 唇をわずかに離して問いかけられた言葉に、アルフィーは眉をひそめる。ただでさえ細かったエイヴァの瞳が徐々に吊り上がり、今度は上衣を勢いよく剥がし取られた。
 アルフィーは大の男の声とは思えない甲高い悲鳴を漏らす。

「な、なになになに、怒っているの!?」

「ええ、とても怒っています。アルフィー様が酒のせいにして何も覚えていないと仰るから。別れようなどと愚かなことを口にするから。かつてないほどの怒りを覚えています」

「ご、ごめんなさ」

「そんな顔で謝っても許しません」

 バシッと割りと遠慮のない力で頬を叩かれる。

 突然平手打ちを喰らったことに驚きながらも、条件反射で再び謝ろうとしたアルフィーだったが、また唇を塞がれた。しかし、今度は乱暴に咥内をかき乱すような口づけではなく、そっと触れ合わせるだけのもの。アルフィーの上体は強張り、背中は粟立っていく。

「あ、あの、エイヴァさ」

「動かないでください。あと喋らないで」

 つつつ、と頬から首筋へ、爪の感覚が落ちていく。
 このまま鋭い爪で心臓を抉られて殺されるか、それとも喰われて死ぬか。甘噛みされている下唇をこのまま食い千切られるような気がしてならない。

「エイヴァ……あっ」

 エイヴァの濡れた唇が顎下へと滑り、ちらりと覗かせた赤い舌が厭らしく喉仏を這っていく。
 恐怖さえ覚えるのに、今まで見たことのない彼女の淫靡な姿がアルフィーの下半身に熱の蟠りを残ってしまう。初夜の日はエイヴァの裸を目の当たりにしてもこんな感覚に陥ることはなかったのに。このままエイヴァに翻弄されていいのだろうか。

 記憶にある限りは、これがアルフィーにとって初めての経験となるかもしれないのだ。

「んっ、まっ、待って、エイヴァ」

「……んむっ、何ですか」

 いつの間にかアルフィーの胸の先端を口に含んでいたエイヴァ。
 どこを触っているんだとアルフィーは突っ込みたくなったが、絶妙な動きで舌で弄ばれ、また変な声が漏れてしまった。

「エイヴァ、ちょっ、やめ、ひとまず舐めない、あっ」 

「いやでふ」

 乳首を舐められてよがる夫を見て、なぜか愉しげに微笑む妻。一体どうなったらこんなことをしようと思うのかは分からないが、紛れもなく非があるのはアルフィーだ。力尽くでエイヴァを止める権利は一切ない。決して舐められて気持ちいいから止めてほしくないということではない。断じてない。

「あ、あの、やっぱりこんな形で夫婦の大事なことを致すのはどうかと、あっ、思うんだ」

「……ふぅん?」

 エイヴァは上目遣いでアルフィーを見つめながら、舌の先端でちろちろと蕾を舐めては弾く。男のそんなところを舐めて何が楽しいのだろう。エイヴァは行為を止める気配はない。

「エイヴァ、やめて、お願い」

「んん、んむっ、やです」

「やめなさい! 汚いから……あ゛っ」

 ガリッ、と先端を噛まれ、アルフィーは潰された蛙のような呻き声を出す。夫の乳首を堪能したことで一度は柔らかい表情を見せたはずのエイヴァは再び人間ブリザードに戻り、真顔でアルフィーの息子を手で扱き始めた。

「ど、どどどどどどこを触って、あっ(裏声)、こらっ、やめ」

「旦那様だって昨日たくさん触ったではありませんか。あんなところやこんなところまで」

「な、何の話……あ、そこだめっ」

 不意の快楽に襲われながらも、アルフィーは息絶え絶えな状態で問い掛ける。
 エイヴァは器用にもアルフィーのアルフィーを愛撫したまま、空いた手を自分の首元に伸ばし。首元で結ばれた紐をゆっくりと引き抜いた。

「………………え?」

 徐々に露になっていくエイヴァの上体。
 肌は一度も光を浴びたことのないように思えるほど白く美しい。豊かとは言えないが二つの乳房も綺麗な形で、腰回りのくびれは女性美を醸し出している。
 ある一点が目に入らなければ、きっとアルフィーは釘付けになっていただろう。

 そう。首元にあるに気が付いていなければ。

「え……えっ、えっ」

 エイヴァは呆然とするアルフィーの肩を押し、意図も簡単に押し倒す。
 混乱状態に陥ったアルフィーは今朝の記憶と今の光景が絡みに絡み、更に訳が分からなくなっていた。今朝一緒に寝ていた黒髪の女の首筋に幾つかの痣があり、なぜかエイヴァの首筋にも同じ場所に痣がある。

 つまりのつまり、これは一体。

「あ、あ、あの、エイヴァ」

「誰かも分かっていない上で情事に溺れるだなんて、これは不義を働くことと相違ないです」

 エイヴァは黄金に艶めく髪を耳に掛け、強制的に寝かされたアルフィーに顔を近づける。自然とエイヴァの柔らかな二つの膨らみが自分の胸板にぴったりと重なり、汗と体温ととてつもなく柔らかな感触に包まれる。
 普通の男がこの状況に陥ればここで理性は飛散していったに違いない。心境的にはアルフィーも崖っぷちまで追い込まれている。

 エイヴァは徐に顔の距離を狭めると、無防備なアルフィーの唇を親指でなぞり、行為を働いているとは思えない殺風景な顔のまま色素の薄い唇をゆっくりと開いた。


「──その手で自らしたこと、思い出すまで決して許しません。旦那様、覚悟はよろしいでしょうか」




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