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第2章 悪女らしい妻
8話 sideエイヴァ
しおりを挟むエイヴァが初めてアルフィーを見かけたのは、数年前に城の晩餐会に招かれた日のこと。脳内お花畑の婚約者から婚約破棄の言葉を告げられたあの夜の数日後のことだった。
『お、おいおい、エイヴァ! あれはどういうことだ!?』
『は?』
『その場で何も言わなかったくせに、後になって慰謝料やら何やら請求っておかしいだろう!』
『はぁ』
多くの人が集う表舞台で婚約者を振っておきながら、ねちねちと城の茶会にまで付き纏ってきたジョセフ。無礼を働いてくれたお礼に一発だけ平手打ちをした跡がまだ彼の頬に残っている。
婚約破棄を二つ返事で受け入れたことが気に喰わなかったのか、それとも先日送り付けた違約金に関して綴られた書類を目にしたのか、口調が妙に荒々しい。
恐らく、性格のひん曲がったこの男のことだから、皆が集う夜会の場で捨てないでと縋る婚約者を見て優越感に浸りたかったのだろう。だがしかし、お生憎様エイヴァはこの男に対して愛情は一欠片も抱いていない。
リーリエとかいう男爵家の令嬢に嫌がらせを受けていた時から、証拠集めは徹底させていた。侯爵家当主である父にも事前に証拠も併せてすべて密告している。
婚約破棄をされようものなら、こちらの家が不利にならないようにとすでに根回し済みだ。
『貴方のお望み通り婚約破棄の手続きを済ませたのですよ。貴族院と国王陛下に承認を得られれば私達は晴れて赤の他人です。ただ、公の場で私を根も葉もない嘘で侮辱した失礼な行為として色をつけて違約金を請求しますので、それはどうか忘れずに。ではさようなら』
『い、いや、ちょ……ちょっと待て!』
『きゃっ』
接近禁止令も後ほど出しておかねば、とエイヴァは中庭に戻ろうとしたが、腕を強い力で引かれてしまった。華奢なエイヴァの身体は蹌踉めき、ジョセフの腕の中に閉じ込められる。
それまで冷静さを保っていたエイヴァだったが、一瞬にして全身に粟肌が立った。
『分かったぞ、エイヴァ。俺が冷たくあしらったから怒っているんだな』
『は?』
『分かった分かった。俺が悪かった。やり直すのは俺の面目上無理だが、側に置いてやることはできなくもない』
『はぁ?』
『俺の愛妾にしてやろう。公爵家との繋がりは消したくないだろう? 夜会で俺を殴ったことも水に流してやるよ。エイヴァ、俺の女になれ』
生理的に受け付けないキメ顔を向けられ、油断した隙に頬にちゅっとキスをされた。その場で悲鳴を上げなかったことを褒めてほしいくらいには、とてもとても気持ち悪い。
エイヴァの鳥肌は限界突破を起こし、思わず今度は拳でジョセフの顔面を殴りそうになった──が、遠くから聞こえた声がそれを制した。
「お疲れさまです! 城の巡回終わりましたぁ!!」
数メートルは離れているであろう場所から聞こえた初々しい声。エイヴァが視線を向けると、そこには敬礼をする栗毛の少年の姿があった。
背は低く、声変わりの時期なのか子供らしさが残っている。エイヴァは涙目を浮かべながら、若々しい少年を見つめた。
「馬鹿野郎! お前取り込み中に何をやってるんだ!」
「痛っ!? す、すいません!」
後から出てきた上官らしき男が少年の頭を叩き、首根っこを掴む。ずるずると奥へ引き摺られる彼にジョセフは舌打ちをしていたが、エイヴァは構わずその隙に逃げ出した。
──これが未来の夫との出会いになるだろうと、誰が予想できたであろうか。
その後、エイヴァは度々アルフィーを城で見かけた。ほとんどが怒られている姿ばかりではあったが、どうしてかエイヴァは彼を見る度になぜか胸を高鳴らせていた。今思えば、彼が何をやらかすのかとハラハラしていただけかもしれないが。
数日、数週間、数ヶ月と時が経つに連れて、少年だった彼は大人へ。声も男性らしくなり、背もあっという間に越されていった。
かっこいい、という訳ではないが、どうも彼を放っておけない。ずっと彼を見守っていたい。側にいてあげたい。エイヴァは心の奥底に秘めた想いを募りに募らせ、アルフィーの行動予定を隅から隅まですべて調べ上げた。
言っておくが、アルフィーはこの時点では恐らくエイヴァの存在を認識していない。
エイヴァがアルフィーと接触したのは、婚約破棄を経て一年経った日のことだ。
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