【R18】悪女と冴えない夫

みちょこ

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第2章 悪女らしい妻

9話 sideエイヴァ

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 その瞬間は不意打ちであった。

 貴婦人達の窮屈な話し合いから脱しようと、エイヴァが廊下へ出ようとしたそのとき。大広間の奥から歩いてくるアルフィーの姿が見えたのだ。

 その日は狙ってアルフィーに会いに行こうとしていた訳ではなかったので、エイヴァは焦りに焦った。手に握ったハンカチは滲み出た脂汗でびっしょりだ。
 エイヴァは幼少期から器用な人間だと称賛されてきてはいたが、想定外の出来事にはめっぽう弱い。

 普段はアルフィーに毎日でも会いたいと願っていたにもかかわらず、エイヴァは逃げるように中庭へと走った。

 (ど、どどどどどどうしよう……)

 エイヴァはドレスの裾を掴んで小走りし、周囲を見渡す。目についたのはアイビーに囲まれた四阿。ひっそりとした無人の空間にエイヴァは迷わず駆け込んだ。

『ここまで、くれば……』

 大丈夫。と思ったが、エイヴァの考えは甘かった。奥から聞こえてくるのはザッザッと土を踏む足音。明らかに誰かがこちらに近寄ってきている。
 エイヴァはあたふたとベンチの影に隠れたりしゃがんだりしたが、どう足掻いても不審者にしか見えないので大人しくベンチに座ることにした。

 緊張で吐きそうになるのを堪え、エイヴァは俯いたまま拳をきゅっと握り締める。

『あっ、あ、あのっ、これ……』

 声が、聞こえた。
 聞き間違うはずがない。顔を見なくてもすぐに分かる。これはアルフィーの声だ。

 エイヴァは取り澄ました顔を装い、ゆっくりと顔を上げた。

 (なっ)

 ──何と、可愛らしい………!!

 と男性に対して抱く印象としては不適切な言葉をエイヴァは心の中で叫んだ。背は伸びてはいるが、真正面からよくよく見てみると顔はまだ幼さが残っている。少年と青年の間を彷徨う神の愛し子、もしくは天使なのだろうか。誇張表現はしていない、決して。

 エイヴァは心の中で天使のアルフィーを褒め称えつつ、うっかり落としていたらしいハンカチを受け取る。

『……ありがとうございます』

 こうして出会えたことに感動が込み上げ、涙さえ出てくる。声も分かりやすく震えてしまった。
 一方のアルフィーは困ったように目を逸らしたりと、挙動不審な動きをしている。

 どうしよう。ストーカー行為を働いていたのがバレているのかもしれない。これ以上付き纏うななんて言われたら泣いてしまう、きっと。

 内心怯えたエイヴァだったが、アルフィーが取った行動は想定外のものであった。

『こ、これ、よかったら食べてください!』

 突然差し出された小袋に包まれた焼き菓子らしき食べ物。
 どうしていきなり、とエイヴァは戸惑ったが、アルフィーはそのまま『失礼します』と一言だけ残してその場を去ってしまった。

 (一生、大切にしよう)

 エイヴァは高価な宝石に触れるように、焼き菓子を両手で包み込む。ついでに受け取ったハンカチの匂いを入念に嗅ぎ、二度と洗わないことを誓った。

 そんなこんなで初恋を拗らせに拗らせてしまったエイヴァだったが、アルフィーと再会するまでの道程は険しく。彼が他の家の娘との縁談が来ていると耳にした日はショックで食べ物が喉を通らなくなり、また縁談が水に流れたと聞いた日には不躾ながらも小躍りするほど喜んでいた。

 勿論、エイヴァも結婚の話は少なからずあったが、すべて丁重にお断りしていた。
 彼女を溺愛する父は『一度婚約破棄されたことで心に深い傷を負ったんだな』と違う方向に勘違いしていたようだが、おかげで事が詰まることはなく。エイヴァの裏工作が功を奏したのか、三年後にはアルフィーと婚約するにまで至ることができた。

 ちなみに結婚式は大変だった。
 アルフィーに対する想いを押し殺すことで必死だったのだ。

 燕尾服を纏ったアルフィーはすっかり大人の身体になっていたが、それでも可愛いことには違いない。緊張している顔も可愛い。焦って挙動不審になるところも可愛い。間違えて誓いの口づけを先にしようとした時には、心臓発作を起こして死ぬかと思ったものだ。

 もちろん、初めての口づけをした後は二度と唇は洗わないことを(以下省略)。

 初夜に関してはアルフィーは緊張していたのが一目瞭然。自分の一物を上下に擦りながら泣きそうになっている姿を前に、思わずぎゅっと大きな身体を抱き締めてあげたくなったが、片思いの期間が長引き過ぎたせいもあり、ついエイヴァは素っ気ない態度を取ってしまった。 

 その後も『笑った顔が見たい』と可愛い顔で言われたり、不意打ちで夜に誘われたり、いきなりキスしてきたりと、想定外の行動を測るアルフィーに翻弄されてきたが、興奮して鼻血が出てしまった件を除いては大人の女性として上手く対応できていたつもりだ。
 ──と、エイヴァはこっそりと使用人に扮して騎士団本部でアルフィーを見守りながら、自分に言い聞かせていた。




 
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