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第2章 悪女らしい妻
10話 sideエイヴァ※
しおりを挟むその日、あろうことか愛しのアルフィーは元婚約者であるジョセフに苛められていた。しかも慣れない酒まで無理やり飲まされていたのだ。
エイヴァは鬘がずれないようにと頭を支えつつ、元婚約者に対する殺意を募りに募らせる。こういう状況でなければあの男を社会的にも生命的な意味でも抹消してやったのに。エイヴァは柱の影に隠れながら歯軋りをした。
『ふっ、何だ。怒っているのか? だが事実だろう。エイヴァにお前は相応しくない』
『……はっ、ひっ、え、えい……』
アルフィーは血の気が抜けた真っ青な顔で、口をぱくぱくと動かしている。
可哀想なアルフィー。あんなクズ男に煽られるなんて。きっと今、彼は言い返したくても酒に酔い過ぎて言い返せないのだろう。部下の立場もあるから逃げ出すこともできない。
可哀想で世界一可愛い彼を抱き締めて頭を優しく撫でてあげたい。
糞野郎は今すぐに抹殺したい。
『アルフィー様……どうか耐えて……』
エイヴァの心の祈りも虚しく、アルフィーは盛大に吐いた。思いっ切り吐瀉物をジョセフの顔にぶち撒けてしまったのだ。
(アルフィー様の体液を浴びるだなんて、なんと羨ましい!)
妙な嫉妬に駆られながらも、エイヴァは自分が変装していることも忘れ、アルフィーの元まで走った。途中、足元から妙な埋き声が聞こえたが、気にしない。おそらく蛙でも踏んだのだろう。
『アルフィー様、しっかりしてください』
他の騎士団員達が蛙の介抱に気を取られている中、エイヴァはアルフィーの腕を取って食堂の外まで引き摺る。
が、しかし。重い、予想以上に重たい。成人男性の全体重が身体に伸し掛かる。これでは屋敷まで連れ帰るのは愛の力がいくらあっても無理だ。
アルフィーの意識が戻るまで、どこかで休ませよう。
『こ、ここでいいかしら……』
アルフィーのことを見守るために騎士団本部へ侵入したのも両手で数えるほど。場所をそこまで熟知しているわけではない。エイヴァがぷるぷると腕を震わせ、人の気配がない一室の扉をガラリと開けたそのとき──生温かな息がふっとエイヴァの頬にかかった。
『あれぇ? エイヴァだぁ』
視線を向けた矢先、目に飛び込んだのは笑顔満開のアルフィー。いつの間に起きて、とエイヴァが問い掛けようとしたのも一瞬、顎をくいっと引き寄せられた。
『アルフィ……んっ!』
唇に柔らかな感触が触れたかと思いきや、小鳥が啄むように何度もちゅっちゅっとキスをされる。不意打ちの口づけ攻撃にエイヴァの頭は真っ白になり、腰の力が抜けそうになった。
『や、やややややめ、アルフィーさまっ』
『エイヴァ。なんでここにいるの? その頭はどうしたの? エイヴァ。黒髪も可愛い。可愛いね』
相当酔いが回っているのか、アルフィーはえへへと笑いながらエイヴァの腰を弄る。笑顔は可愛いが、手つきは厭らしくて可愛げがない。エイヴァは後退って逃げようとしたものの、アルフィーにがっちりと腰を掴まれて離れることすら叶わない。
必死に逃げようとするエイヴァを、アルフィーは懲りずにまた口づけた。
『んん……むっ、ふごっ』
舌先で口蓋をなぞられ、そのまま優しい力で歯列を抉じ開けられる。行き場のないエイヴァの舌はアルフィーの舌に絡め取られ、唾液が厭らしく混ざり合う。慣れない口づけにエイヴァは酸欠を起こしかけていたが、アルフィーは目元を綻ばせていた。
苦しいのに心地よい。離れたいのにずっとこうしていたい。吐息まで呑み込まれてしまうような深い口づけにエイヴァの理性は崩れ去っていく。
『だ、だだだめだめ、アルフィー様、こんな、場所で……』
『だめなの?』
『えっ』
『だめ?』
舌の裏筋から先端をアルフィーの舌がぬるりと這っていく。どちらのものかも分からない唾液が糸を繋ぎ、わずかに離れた唇の隙間にぬちゅっと粘膜が絡む。
エイヴァの頭は破裂寸前だ。
あんなにも可愛かったアルフィーが。
子供だったアルフィーが。
天使だったアルフィーが。
笑顔こそ屈託のない純真無垢なものだが、アルフィーのゴツゴツとした男らしい手はエイヴァの尻をさりげなく揉み拉き、もう片方の手は器用にエイヴァの左耳を擽っている。
どこでそんな卑猥な性的技巧を学んだのか。昨夜の件も踏まえ、今度はいつアルフィーに誘われてもいいようにとイメージトレーニングを重ねてきたのに、一瞬にして吹き飛んでしまった。まさか次の日に奇襲攻撃を受けるだなんて誰が予想できたのだろう。
『だ、誰かに見られたら、大変、なの、で、そ、そそその、家で、屋敷の寝室で』
『だめ。逃さないよ』
『こ、こらっ、どこ触っ……あっ、あああっ』
アルフィーは生まれたばかりの赤ん坊を持ち上げるようにエイヴァを横抱きにし、ふわりとベッドに倒す。すぐさまエイヴァはシーツを這って逃げようとしたが、項、首筋と音を立てて吸い付かれ、甘い嬌声を上げてしまった。
『あっ、やだっ、んっ』
『可愛い、エイヴァ。ずっとこうしたかったんだ』
『や、やめなさい! これは命令です!』
『んー』
『んー、じゃありませっ、ひゃんっ』
あれよあれよと言う間に服を脱がされ、エイヴァは生まれたままの姿に変えられる。
もうそこからは怒涛の勢いだった。身体の至るところまでたっぷりと愛撫され、口づけを落とされて。エイヴァはこれまでの人生で出したことのない艶めいた甘い声を何度も漏らした。好き、可愛い、愛していると聞き慣れない言葉を幾度となく耳元で囁かれ、エイヴァは処女であるにも拘らず、あっさりと濡れてしまった。
ああ、初めての夜は自分が大人の女性らしくリードする予定だったのに。
(ま、まさか、アルフィー様は純真天使の皮を被った遊び人だったのでは……!)
確か、自分の知る限りは彼は恋人は愚か娼館にすら行ったこともないはずだったが。エイヴァは大昔に徹底的に調べ上げたアルフィーの行動履歴の記憶を辿ろうとしたものの、事の最中に思い出せるはずもない。
エイヴァは再びアルフィーの熱に翻弄され、純潔は秒で散らされていった。
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