13 / 16
第2章 悪女らしい妻
13話※
しおりを挟む「ちょっと、地下から声が聞こえたって本当なの?」
「ほ、本当です! 何かこの世の怨念に取り憑かれたような呻き声が聞こえたと言うか……」
「いやねぇ。私、幽霊とかそういう類苦手なのよ。まぁ、一回も見たことないけど」
声の主は屋敷付きの侍女達だろうか。洋燈の光がゆらゆらと壁際に迫ってくる。
アルフィーはエイヴァを抱えたまま一時停止した。エイヴァは半裸、自分に至っては惜しげもなく全身を晒した素っ裸。そして、エイヴァの服は侍女達が入ってきたであろう書斎の扉付近に投げ捨ててある。
まずい。この状況は非常に厄介だ。
最悪、自分だけが今の姿を見られてしまうのはまだマシだ。朝っぱらから共同部屋で素っ裸になる頭がおかしい旦那だと思われるくらいで済むだろう。だがしかし、エイヴァは女性。尚かつ自分の愛する妻だ。相手が男であろうと女であろうと妻の肌は衆目に晒したくはない。
アルフィーはとろんと目が惚けたままのエイヴァを抱きかかえ、本棚の裏側まで走った。
「アルフィーさま、まだ話が」
「いやいや、今はそんな状況じゃないだろ!」
「大事な話です」
「あとで、あとでね!」
アルフィーは人差し指を口の前で立て、エイヴァに静かにするように促す。エイヴァはむっと頬を膨らませ「大事な話なのに」と文句を言いつつ、顔をすりすりとアルフィーの胸元に擦り付けた。
拗ねる妻が可愛過ぎて危うくこのまま押し倒しそうになったが、アルフィーはぐっと歯を食い縛って耐える。先ほどからエイヴァの変わり様、というか垣間見える素直な表情に下半身が限界突破を迎えてしまいそうなのだ。
自分が不甲斐ない童貞でなければすぐに襲っていたに違いない。いや、正確にはもう童貞じゃなかった。
「きゃー! い、今、声しませんでした!? 絶対におばけ、おばけですっ!」
「うるっさいわね、耳元で叫ばないでちょうだい! 幽霊ならまだいいけど不法侵入者だったときの方が大問題でしょう! 見張りを怠った罰として奥様に殺されてしまうわよ! あの恐ろしい眼力で石にされてしまうわ!」
「そ、それは幽霊より恐ろしい……!」
随分と失礼な会話が聞こえる。エイヴァに彼女達の声が耳に入らないようにと、外套を頭にすっぽりと被せた。状況を今一掴めていないのか、エイヴァは猫のような目を大きく見開き、小さく首を傾げている。
「アルフィー様。誰か人がいるのですか? この体勢のままではきついでしょう。離してください」
「い、いや、だめ……あっ」
腕の中から脱しようとしたエイヴァを抱き直し、ぎゅっと胸へと引き寄せた刹那──アルフィーの唇から気の抜けた声が漏れた。エイヴァもアルフィーと同じくナニかが当たったのか、上擦った淡い声を漏らす。
「あ、アルフィーさま……その、当たって」
「ご、ごごごごごめ、ちょっと体勢ずらして」
「あっ、そこは、ひゃ、んっ」
動かせる範囲で両脚を動かした。が、余計に悪化した。エイヴァは鼻の奥から甘ったるい声を漏らし、アルフィーの胸元に縋り付く。すべては意に反してむくりと元気に起き上がっている自分のあれが原因なわけだが、今のエイヴァの姿は更なる毒と化す。
蜂蜜色の艷やかな髪は乱れ、深い海のような青い瞳は潤み、先ほどの口づけで濡れた唇からは荒い息が漏れている。
先ほどまでアルフィーを襲おうとしていた獰猛な姿とはまた違う類。あっちもいいが、こっちもいい。なんて言っている場合ではない。
アルフィーの盛った雄は、エイヴァの濡れた割れ目に躊躇なく喰い込んでいく。
「エイヴァ、ごめ、やっぱり一回下ろし」
このままでは理性を手放してしまうと、アルフィーがエイヴァを抱く腕を緩めようとしたが、すぐに手の動きは止まった。
余裕がない表情を見せていたはずのエイヴァは、どうしてか口元を微かに綻ばせ、目尻を下げている。何を考えているか分からないその顔に不安が過ぎり、小声で妻の名を呼ぼうとした刹那、エイヴァは自らの手を下体衣の中へと滑らせた。
「へっ、あっ」
薄い布切れを通して触れ合っていた秘部が、ずるりと下着に引っ張られるような感覚に陥る。同時に生温かくしっとりとした濡れ心地に屹立が挟まれ、アルフィーの顔面が火で炙られたかのような熱さに見舞われた。
「アルフィーさま……」
エイヴァの顔が、紅色の唇が近づく。
互いの吐息が交差するほどの近さに、アルフィーの中で時が止まる。
エイヴァは今までに見たことのない柔らかな笑みを。それはもう極上の蕩けるような笑顔を向け、両腕をアルフィーの首に回した。
「……先ほどのチャンスの続き、今ここで致しましょう?」
エイヴァはそのまま躊躇わず、アルフィーに煽るように深く口づける。すぐ側で侍女達の声が話していることが分かっているだろうに、淡いよがり声を鼻から漏らす。
まさか、すべて分かってやっているのか。
アルフィーの理性の糸はあっけなく切れ、エイヴァの腰に腕を回してしまった。
12
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
今さらやり直しは出来ません
mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。
落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。
そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……
【完結】好きでもない私とは婚約解消してください
里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。
そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。
婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。
強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!
ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」
それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。
挙げ句の果てに、
「用が済んだなら早く帰れっ!」
と追い返されてしまいました。
そして夜、屋敷に戻って来た夫は───
✻ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる