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1話※
しおりを挟むウィツール王国の王都騎士団長、スコール・フォークナーは冷酷無情な人間と世間で囁かれていた。
穢れのない白銀の髪を返り血で染め上げ、容赦なく敵を斬り殺すその姿は、人成らざる者と恐れられ。今まで己の手で殺めてきた人間の血を吸い上げたような緋色の瞳で睨まれれば、敵味方問わず誰もが地面にひれ伏すという恐ろしい男。
──そんな噂が婚姻前に嫌と言うほど流れてきたものだから、怖がるなと言う方が無理な話だった。
「はっ、あぁ、あぁん」
ぱんぱんぱんっ、と規則的に肉がぶつかる音を立てながら、エルヴィールは身体を揺さぶられる。彼女の目の前には、無表情で汗を滴らせるスコールの姿があった。
「だめっ、あっ、んっ、だんなさまっ」
「…………」
押し寄せる快楽にか細い鳴き声を上げるエルヴィールに対し、スコールは喘ぐどころか呼吸すら乱さない。シーツの上で善がる妻の姿をただ見据えながら、単調な動きで腰を振っている。
スコールと夫婦の契りを交わしてから数ヶ月。彼に抱かれるのは此れで五度目だった。
「出すぞ。エルヴィール」
「あっ、んんっ、はいっ、だっ、だんなさまっ」
相も変わらず冷淡な声で告げられ、エルヴィールは必死に首を振って頷く。スコールは身悶える妻を見下ろしながら、一気に腰を押し進めた。
「っ、あぁ……!」
ぐちゅんっ、とナカで淫水がかき乱され、奥を激しく突かれて。一番敏感で弱い部分にガッガッと強烈な刺激が落とされる。
エルヴィールは身体を痙攣させながら、スコールに両手を伸ばそうとした──けれども、相手はあの冷酷無情な騎士団長。口づけは大聖堂で行った婚姻の儀式以来一度もせず、セックスはただの単純作業のように行うような男だ。
彼にとってエルヴィールは、ただの子供を生ませる為の道具なのかもしれない。
(……政略結婚だから、当たり前と言えば当たり前なのかもしれないけど)
エルヴィールは半開きになっていた唇を結び、よれたシーツをぎゅっと握り締める。しかし一度冷静になりかけた脳も、夫が齎す痺れるような甘さに溶かされていき、彼女の膣道の奥底へ熱が弾けていった。
「……は……っ、あぁ……ん」
快楽の余韻に浸るように身体を震わせるエルヴィール。
対してスコールは欲望を吐き出した肉楔を蜜壺からずるりと抜き出すと、直ぐに乱れた服を整えた。
「今日は執務室に籠る。先に寝ていろ」
「えっ」
シーツに飛び散った体液を布で拭き取り、足早にベッドから部屋の外へと去っていくスコール。素っ裸のまま大きな寝台に一人取り残されたエルヴィールは呆然とその場に座り込んだ。
セックスは月に一度のみ。
普段は寝る場所すら別々で、身体を重ねた日だけは一緒に眠れると思っていたのに。
(……冷酷というよりは、無愛想ね)
話しかけても返事は「ああ」「分かった」「別に」とか一言だけ。然り気無く一緒に寝ないかと誘ってみた時は「は?」と言葉を返された。
たまにしかしないセックスだけやたらと上手いのが、逆に腹を立たせる。
いつの間にかスコールに対して抱いていた恐怖の感情は消え去り、代わりに苛立ちのような感情が芽生え始めていた。
「ああ……っ、もうっ!」
床に投げ捨てていた寝着を身に纏い、両腕を広げて寝台へと倒れる。外はいつの間にか雨。大粒の水滴が硝子窓を絶え間なく叩き付け、遠くの空から雷鳴が聞こえてきた。
そういえば、前に夜の営みをした日も悪天候だったような──そんなことをぼんやりとした頭で思いながら、エルヴィールはそのまま深い眠りへと誘われていった。
しかし、その数時間後。
天と地がひっくり返るような凄まじい雷鳴が轟き、熟睡していたエルヴィールは瞼をカッと開けて飛び起きた。
「なっ、なに、ひつじの毛玉が……!?」
羊と戯れる長閑な夢を見ていたエルヴィールは、屋敷が破壊されたのかと錯覚してしまうような音に焦って周囲を見渡す。
部屋の中はいつも通り。家具や窓や天井も壊された形跡は無いし、隣で夫のスコールが身を縮めるようにして眠っている。
(よし。何も変わらずいつも通り…………じゃない!?)
エルヴィールは思わず隣を二度見した。寝付いた時はいなかったはずの夫が──今日は執務室に籠るはずだったスコールが、どこからどう見てもエルヴィールの隣で眠っているではないか。
子供のように毛布にくるまる夫を、エルヴィールは暗闇の中、凝視する。長い睫毛は微かに震え、眉根はぎゅっと中心に寄り、形の良い唇は頑なに閉じられていた。まるで何かに怯えるように眠る夫に、エルヴィールはのそのそと彼の隣に横になりながら顔を近付ける。
(何か怖い夢でも見ているのかしら)
つんっ、と頬をつついてみると、スコールは唸り声を上げて。ふっ、と息を目元に吹き掛けてみれば、身体を捻らせて。ちょっとした悪戯心に紛れて母性愛のようなものが芽吹いてしまったエルヴィールは、スコールの無防備な唇にちゅっ、と口づけた。
結婚式以来交わしていなかった口づけ。何だか背徳的な行為をしているかのように思えてしまう。
「う、ううん、エルヴィール」
スコールは寝言に交えて妻の名前を口ずさむ。初めて見る夫の可愛い姿に、エルヴィールは気付かれないように何度も夫の柔らかな唇にキスをした。
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