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17話
しおりを挟む「フィン……どうしてここに」
完全な密室と化したモニター室に二人。フィンは無表情のまま、ゆっくりと私に歩み寄る。普段の柔らかな雰囲気が微塵も感じられない彼の姿を前に、ガタンと椅子を倒して立ち上がった。
「どうしてって。家にいるはずなのに、シャーリーが俺の側からいなくなることが前々から頻繁にあったから。それでさっき、セバスチャンが地下から出てくるのを見かけて、シャーリーがいるんじゃないかって思って、ここに辿り着いたんだ」
じわりしわりと迫るフィンに後退りをするも、ここは狭い部屋の中。あっという間に壁際まで追い込まれてしまった。
「フィン、待って。これには話が」
「話? それは俺に話せないことだったの? セバスチャンには話せるのに夫の俺には話せないの?」
「何でそれを。きゃっ!」
両手首を強い力で掴まれ、壁に押し付けられる。モニター室が薄暗いせいなのか、フィンの瞳が酷く冷たいように感じられて。背筋がゾクゾクと震え上がったのも一瞬、噛み付くように唇を塞がれた。
「ふっ、あぁ、んんっ、フィン」
「シャーリー……隠し事はしないでって先に言ったのはシャーリーだよ。なのに俺には隠し事をするんだ。セバスチャンには話して俺には話さないんだ」
「んっ、ふぁ、あぁ、ん」
下唇をフィンの唇に挟み込まれながら言葉を紡がれ、下腹部が甘く痺れていく。柔らかな感触を嗜むように唇を食まれた後、ぬるりと熱いものが隙間から入り込み、瞬く間に舌を絡め取られた。
「シャーリー、愛しているよ。七年前に出会った日からずっとずっと。誰よりも愛している。本当は俺から離れないように手首に手錠をつけて、永遠に一緒にいたい。片時も離れたくない。他の男と過ごす時間なんて一秒でも与えたくない」
「あっ、あぁっ、フィン」
舌の根元から這うように舐められ、ガクッと腰の力が抜ける。背中を引き摺るよう壁からずり落ちそうになった私を、フィンは片腕で抱き寄せて。唇が離れないように後頭部を押さえ付けた。
「シャーリー。ソフィアの件もだけど、俺に隠したまま解決しようとしていたよね。俺への相談は一切無しに。それは違うよね、シャーリー。違うだろ。もし俺が知らないところで危険な目に合ったらどうするつもりだったんだ」
口内も、唇も、唇の周りも、激しい動きでフィンの舌に舐められて、彼の唾液に犯されていく。
フィンは怒っている。確実に怒っている。威圧感を含ませた低い声で私に迫る彼も、こんなに乱暴な口づけも初めてだ。
怒りを露にする彼への恐怖からか、それとも身体の奥底から沸き上がる情欲のせいなのか、呼吸が震えて涙が瞳からこぼれ落ちていく。
「フィン、ごめんなさ、ごめんなさい」
「シャーリー」
「貴方に万が一のことがあったらって、怖くて言えなかったの。許して。お願い、フィン」
フィンの首に腕を回して、深い口づけに応えながら謝罪の言葉を口にした。フィンは薄目を開けたまま私をじっと見据えている。心の中まで見透かされそうな、氷のような瞳でじっと。
──勿論、フィンを巻き込みたくなかったというのは嘘ではない。でも、それ以上に自分の醜態を、彼には晒したくないという気持ちがあった。
監視カメラを屋敷の至るところに設置して、愛する夫と、彼を狙う女を四六時中見張って。こんなことをしてまで夫を奪われないように行動する醜い私を見られたくなかった。
愛する夫に白い目で見られたくなかった。
彼に嫌われたくなかった。
「……ごめんなさい。嫌いにならないで」
消え入りそうな声で、唇を震わせながら彼に懇願する。
フィンは私を見つめたまま、手を後頭部から腰へと滑らせ、私をぎゅっと優しく抱き締めた。
「ごめんね、シャーリー。きつく言い過ぎた。俺も自分のことを棚に上げてこんなことを言って、酷いよな。嫌いになんてならないよ。大好きだよ、シャーリー」
耳朶にそっと唇を落とされ、身体が小さく跳ねる。フィンの胸元に埋めていた顔を上げれば、いつものように穏やかな眼差しを向ける彼がいて。その優しい表情に、胸の奥が締め付けられた。
「……本当にごめんね、シャーリー。でも、これからはお互い隠し事はなしにしよう? あと、仲直りもしないと」
「フィン……」
腰は抱かれたまま頬を優しく撫でられ、再び濡れた感触が頬を伝う。
ああ。やっぱりフィンは心優しい夫だ。こんな私を許してくれるなんて。
「ごめんね。わたし……」
彼に再び謝ろうと視線を持ち上げたその時──身体が後ろへと倒れ、視界が反転した。
目の前にはフィンの顔と、その奥に天井があって、背中は机の上に押さえ付けられている。逃げようとしても、彼の両腕に閉じ込められて身動きが取れない。
「フィン……?」
自然と声が震えてしまう。
だって、フィンは私を平然と押し倒したまま、普段と変わらない笑顔を浮かべているから。
「シャーリー。俺の可愛いシャーリー」
戸惑って身体が硬直した私の片腕を掴んだまま、フィンは自分のネクタイをするりと抜き、それを私の両手首に縛り付けた。
「……こんなことが二度と起こらないように、ちゃんと仲直りしよう?」
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