2 / 20
第1章 クリスタ
2話
しおりを挟むテオとその女性は至近距離で見つめ合い、親密な雰囲気でひそひそと会話を交わしている。
クリスタが見たことのない真剣な表情を、他の見知らぬ女性に向けている。熱い眼差しが彼女の瞳だけを捉えている。
女性がくすりと笑い、テオの黒い髪を指先で撫でたところでクリスタは背を向けた。その場から逃げ出していた。
知らなかった。
テオに恋人がいただなんて、クリスタはこれっぽっちも知らなかった。
何年も何年も想いを告げてきたのに、テオのことはなにも知らなかった。
泣きたい気持ちを必死に堪え、螺旋状の階段を駆け降りる。顔を両手で覆いながら正殿へ向かおうとしたそのとき、ちょうどクリスタを探しに来た父親とぶつかってしまった。
目尻を赤く腫らすクリスタに、彼女の父親は「どうしたんだ?」と優しく尋ねる。
このとき、自分の気持ちを隠していれば悲劇は起こらなかったのかもしれない。しかし、クリスタは悲しみを吐き出したい気持ちには逆らえず、愚かにもすべてを打ち明けてしまった。
幼い頃からテオが好きだったこと。
何回も何回も想いを伝えてきたこと。
その誰よりも大好きなテオに恋人がいたこと。
自分の恋心は儚く散っていってしまったこと。
事の経緯を余すことなく話し終えた頃には、クリスタの父親の表情は険しいものへと変わっていた。父親はしばらくなにかを考え込むように低く唸ると、クリスタの頭にそっと手を乗せた。
「どうにかしてやるから、待っていなさい」
父親は一言だけそう告げ、テオ達のいる塔の最上階へと向かっていく。このとき、クリスタは父親の言葉の意味を理解することができなかった。
自分の告白に対する罪の重さを把握したのは、その数週間後のこと。父親の手によって、クリスタとテオの結婚が正式に決められてしまった。
血の気が引いた。今でこそ軍職からは退いているが、おそらくは仕事の関係上、立場が高かった父親が元部下のテオに脅しをかけたのだろう。幾らテオのことを愛していても、恋人から無理やり奪って夫婦になるだなんて、そんなことは不本意だ。クリスタは必死に訴えたが、父親は『クリスタは自分が幸せになることだけを考えるんだ』としか返さず、一切聞く耳を持たなかった。
そして、結局なにもできないまま結婚式を迎え、クリスタは望まぬ花嫁衣装に身を包んだ。
本来であれば愛する人と結婚をすることは、幸せなはずなのに。クリスタの黄金の瞳からは涙しかこぼれ落ちない。
式の最中にまでひっくひっくと声に出して泣くクリスタ。燕尾服を纏ったテオは、妻となった彼女を冷えきった双眸でただ見つめるだけだった。
14
あなたにおすすめの小説
コワモテ軍人な旦那様は彼女にゾッコンなのです~新婚若奥様はいきなり大ピンチ~
二階堂まや♡電書「騎士団長との~」発売中
恋愛
政治家の令嬢イリーナは社交界の《白薔薇》と称される程の美貌を持ち、不自由無く華やかな生活を送っていた。
彼女は王立陸軍大尉ディートハルトに一目惚れするものの、国内で政治家と軍人は長年対立していた。加えて軍人は質実剛健を良しとしており、彼女の趣味嗜好とはまるで正反対であった。
そのためイリーナは華やかな生活を手放すことを決め、ディートハルトと無事に夫婦として結ばれる。
幸せな結婚生活を謳歌していたものの、ある日彼女は兄と弟から夜会に参加して欲しいと頼まれる。
そして夜会終了後、ディートハルトに華美な装いをしているところを見られてしまって……?
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
嘘をつく唇に優しいキスを
松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。
桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。
だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。
麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。
そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。
旦那様の愛が重い
おきょう
恋愛
マリーナの旦那様は愛情表現がはげしい。
毎朝毎晩「愛してる」と耳元でささやき、隣にいれば腰を抱き寄せてくる。
他人は大切にされていて羨ましいと言うけれど、マリーナには怖いばかり。
甘いばかりの言葉も、優しい視線も、どうにも嘘くさいと思ってしまう。
本心の分からない人の心を、一体どうやって信じればいいのだろう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる