【R18】あなたに愛は誓えない

みちょこ

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第1章 クリスタ

2話

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 テオとその女性は至近距離で見つめ合い、親密な雰囲気でひそひそと会話を交わしている。

 クリスタが見たことのない真剣な表情を、他の見知らぬ女性に向けている。熱い眼差しが彼女の瞳だけを捉えている。

 女性がくすりと笑い、テオの黒い髪を指先で撫でたところでクリスタは背を向けた。その場から逃げ出していた。

 知らなかった。
 テオに恋人がいただなんて、クリスタはこれっぽっちも知らなかった。
 何年も何年も想いを告げてきたのに、テオのことはなにも知らなかった。

 泣きたい気持ちを必死に堪え、螺旋状の階段を駆け降りる。顔を両手で覆いながら正殿へ向かおうとしたそのとき、ちょうどクリスタを探しに来た父親とぶつかってしまった。

 目尻を赤く腫らすクリスタに、彼女の父親は「どうしたんだ?」と優しく尋ねる。

 このとき、自分の気持ちを隠していれば悲劇は起こらなかったのかもしれない。しかし、クリスタは悲しみを吐き出したい気持ちには逆らえず、愚かにもすべてを打ち明けてしまった。

 幼い頃からテオが好きだったこと。
 何回も何回も想いを伝えてきたこと。
 
 その誰よりも大好きなテオに恋人がいたこと。

 自分の恋心は儚く散っていってしまったこと。

 事の経緯を余すことなく話し終えた頃には、クリスタの父親の表情は険しいものへと変わっていた。父親はしばらくなにかを考え込むように低く唸ると、クリスタの頭にそっと手を乗せた。

「どうにかしてやるから、待っていなさい」

 父親は一言だけそう告げ、テオ達のいる塔の最上階へと向かっていく。このとき、クリスタは父親の言葉の意味を理解することができなかった。



 自分の告白に対する罪の重さを把握したのは、その数週間後のこと。父親の手によって、クリスタとテオの結婚が正式に決められてしまった。

 血の気が引いた。今でこそ軍職からは退いているが、おそらくは仕事の関係上、立場が高かった父親が元部下のテオに脅しをかけたのだろう。幾らテオのことを愛していても、恋人から無理やり奪って夫婦になるだなんて、そんなことは不本意だ。クリスタは必死に訴えたが、父親は『クリスタは自分が幸せになることだけを考えるんだ』としか返さず、一切聞く耳を持たなかった。

 そして、結局なにもできないまま結婚式を迎え、クリスタは望まぬ花嫁衣装に身を包んだ。

 本来であれば愛する人と結婚をすることは、幸せなはずなのに。クリスタの黄金の瞳からは涙しかこぼれ落ちない。
 式の最中にまでひっくひっくと声に出して泣くクリスタ。燕尾服を纏ったテオは、妻となった彼女を冷えきった双眸そうぼうでただ見つめるだけだった。


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