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8話
しおりを挟むそれからというものの。師匠の上に乗せられて腰を激しく揺さぶられたり、壁に寄りかかりながら後ろから突かれたり、向かい合った状態で中に精を放たれたり。僅か数時間の出来事とは思えないほど、激しく互いの身体を貪り合った。
正直、途中からは記憶が曖昧で。本能のまま動いていたような気がする。
そして日も完全に落ち、気付けば夜を迎えていた。
「んんっ……ししょ……」
ぐったりとした身体のままベッドを這いずり、隣で僅かに息を切らしている師匠にピットリと寄り添う。熱の籠った部屋の中、汗で冷えた師匠の肌が気持ちいい。
「……ナーシャ」
師匠の手が汗で張り付いた私の前髪をそっと撫でる。擽られるような感覚がもどかしく、誤魔化すように師匠の唇の端にキスをした。
へへっ。師匠、驚いた顔をしている。
してやったり……
「んにゅっ」
頬っぺたを師匠の片手で鷲掴みされ、唇を奪い返される。そのまま唇を一周するようにペロリと舐められ、背中がゾクゾクと震え上がった。
ああ、もう!
何で人の行動の一歩先を難なくしちゃうのかな!
ズルい、ズルい、かっこいい……!
「……お前、その様子だと何も分かっていないだろう」
「ふぇ?」
瞳を細めて尋ねる師匠に、気の抜けたような声が溢れる。師匠は分かりやすく溜め息を吐き出すと、私の身体を片腕でぎゅっと抱き寄せた。
「もういい。お前は俺の側から離れるな」
「師匠……」
逞しい腕に抱かれて、おでこにキスをされて。
目を合わせれば優しく微笑んで。
ううっ、何でそんなにかっこいいの……!
「ししょ、もう一回キス……」
「っと、そう言えば今日の夜は新人の歓迎やら何やらで、酒場に行かなきゃいけないんだったな」
抱き付こうとした寸前で身体を避けられ、師匠はベッドから上体をさっと起こす。私が行き場の無くなった腕をシーツの上で泳がせている間に、師匠は着替え終わっていた。
「少し外に出るが……お前はどうする。ナーシャ」
ベッドに腰を掛けたまま私の顎下を撫でる師匠に、これでもかと言うほど俊敏に起き上がる。
「い、行きます! 一緒に行きます!」
「よし。待ってるから着替えろ」
師匠と結ばれて初めて!
二人で、お外に!
ふ、た、り、で!!
これってもしかして、いや、もしかしなくてもお散歩デートじゃ……!?
わー! どうしよう!
何かオシャレした方がいいのかな!?
と言っても服なんて普段着ているようなものしか……。
「おい。くねくねしてないで早くしろ」
師匠の呆れたような声にハッと意識が戻り、床下に投げ捨てていた服を直ぐ様拾い上げる。着替え終わった時には、既に師匠は扉の前に佇んでいた。
「あっ、待って、師匠!」
慌てて靴を履いて、急ぎ足で師匠に駆け寄り──ぎゅっと師匠の大きな手を握った。
……あれ? 師匠、何でそんなに驚いた顔してるの?
私、何か間違えた?
「……何だ、その手は」
師匠は視線を繋いだ手に向けながら、顔を顰めて尋ねる。
「なにって、手を繋いでいます」
「何で」
「なんでって、恋人同士だったら普通ですよね?」
「は? いつから俺達は恋人同士になったんだ」
…………え?
恋人同士じゃ、ない?
あれだけキスして、抱き合って、エッチなこと沢山したのに。恋人同士じゃない?
だったら、私達の関係って何?
もしかして、師匠は──
「私との関係は、ただの遊びだったってことですか?」
「は? 何でそうなるんだ」
「だ、だって、そういうことじゃないですか!」
「どういうことだ」
「も、もういいです! 師匠のばか! 二度と口聞きませんから!」
師匠の手を振りほどき、逃げるように部屋から飛び出す。後ろから私の名前を呼ぶ声が聞こえたけど、気に止める余裕なんて無かった。
師匠、酷い、酷い、酷い!
私のこと、愛しているなんて甘い言葉を囁いて。身体が壊れるくらいに私を抱いた癖に。ただの遊びだったんだ! そんな人だなんて思わなかった!
もう二度と師匠と口は聞かない!
エッチなことだって、一生しないんだから!
師匠のバカーーーー!
──と、心に誓った約束を後悔したのはその一時間後のこと。
騎士団の皆が集まった酒場に向かって、ビレン達と合流して。遅れてやって来た師匠と一瞬目が合ったような気がしたけれど、直ぐに逸らされてしまった。
あれ? 何で無視されているんだろう──と思って師匠に話し掛けようとしたら「二度と口聞かないんじゃなかったのか」と言われ、師匠はその場を立ち去って。私は何も言葉を返せず、呆然としていた。
もしかして、私──
「師匠に嫌われた……?」
賑わいを見せる酒場の中、ジョッキに入った葡萄ジュースを両手に持ちながら端のテーブル席で小さく呟く。周囲の喧騒で聞こえなかったのか、ビレンは「ん?」と眉を顰めて顔を近付けた。
「わ、私、師匠に嫌われた、かも」
「え? 何で? 喧嘩でもしたの?」
「私が一生口聞かないって言ったから」
「ダメじゃん。それ」
ははっ、と渇いた笑いを溢すビレン。
──刹那、必死に堪えていた涙がボロボロと溢れ出した。
「わ、わ、私が口聞かないって言ったから、師匠が、師匠が」
「お、おおおおおい。泣くな泣くな」
ビレンは料理が敷き詰められた皿をテーブルに置くと、私の口に食べかけのローストチキンを押し付けるようにして運んだ。
「ほら、肉旨いぞ。食うか?」
「だって、だって、あんなことやこんなことまでしたのに、恋人じゃない、って、うぇっ」
「ああ、駄目だこりゃ」
泣きじゃくる私を前にして、ビレンは大きな溜め息を吐く。
どうしよう。このまま本当に師匠が口を聞いてくれなかったら。恋人どころか師匠と弟子の関係まで危うく……!?
取り敢えず、師匠ともう一回話をして……!
「……あれ。本当に騎士団の一員だったんだ」
突然、耳を通り抜けた聞き覚えがあるような無いような声。
溢れ出る涙を拭い、顔を上げると──そこには見覚えのある金髪の青年が立っていた。
「さっきは失礼したな。これから宜しく、へんてこ耳女さん」
「っ、あっ!」
へらっと笑いながら片手を差し出す男に、宿屋の師匠の部屋での前での出来事が走馬灯のように駆け巡る。その後の師匠とのセックスが強烈過ぎて、存在ごと忘れていた。
あの時、半獣の私を馬鹿にしてきた男だ……!
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