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前編
鬼の所有物2
しおりを挟む月読の目元がピクリと動き、重い瞼をこじ開けた。
頭からつま先までドロドロで、多娥丸の匂いが染みついている。その匂いさえ良く知っている男と同じで困惑する。
精を吐きだされた腹は灼けつくように熱い。ベッドから降りて壁で体を支えながら、ふらつく足取りで隣の部屋へと行く。黒い鬼は大きなソファへ身を投げ出して寝そべり、獰猛な肉食獣のように大欠伸をしている。
シーツを巻きつけた半裸の月読を見て、黒い鬼は笑みを浮かべた。
「どうした? まだ足りないか? 」
「……千隼が無事なら……風呂に入りたい、水でもいい」
隼英と同じ匂いだと認めたくなくて、身体にこびりついた匂いを一刻も早く落としたかった。
月読をながめていた多娥丸は、やや不服そうに唸る。
「湯あみか、その前に名を教えろ」
「…………月読だ」
「月読だと!? おまえ、あの山の忌々しい龍どもを従えてるヤツか? 」
「……従えてなどいない。私にそんな力はない……仮にそれほどの力を持っていたらとっくにお前を滅している」
【月読】の存在は鬼にも知られている様子だ。手の内をさらすのは気が引けるが、今は選択肢も無い。
「まあ、いいだろう」
多娥丸は口もとを曲げていたが、手下を呼び風呂場まで案内させた。
見張りの鬼は湯あみをする月読をチラチラと盗み見る。きっと美味そうな人間が迷い込んだと思っているのだろう。もっとも多娥丸が怖くて手出しできない様だが、彼の命令で千隼が無事だという信憑性は増す。
しかし相手は鬼、気まぐれで悠長に構えてもいられない。
月読は現状の打開策を案じつつ体を洗った。強引な挿入のせいで入り口は切れていて湯をかけると痛む、奥歯を噛みしめながら多量に注がれた精をかき出す。多娥丸の精は瘴気を含むせいか、灼けつく感覚で身体が重怠い。
湯あみを終えて部屋へ戻れば、そこに黒い鬼の姿はなかった。
見張りの鬼が部屋を出ていき、気がぬけて蚊帳の下がった寝台へ横たわった。風呂場までのルートに何があったのか千隼が無事かどうか、隼英にそっくりな多娥丸について思考を巡らせた。
さまざまな事が起こり、思っているより疲れていて気を失うように寝てしまった。
***************
千隼を人質に取られて言うことを聞きながら反撃の機会を待っていたが、多娥丸の要求は1回だけに留まらない。
無理やり犯され、態度が気に入らなければ媚薬を使われる。薄紫色の液体は見境いがなくなり屈辱にまみれる。節操なく受け入れる月読を多娥丸は嬉々として抱いた。
時間の大半を黒い鬼と共に寝室で過ごす。何度も体を重ねるうち、多娥丸という男を嫌でも知ることになった。
隼英の双子として生まれた多娥丸は1度死んで数年前に蘇った。けれど父親と弟の手により瀕死に追いこまれ、長いあいだ洞窟へ封じられていた。
小さな鬼は方鬼と言い、多娥丸を拾って蘇らせた鬼だ。方鬼は人界へ行き、調査をしていたため隼英の死を知っていた。隼英が既にいないのでガッカリしたものの、まだ父親と息子が残っていて復讐は終わっていないと赤い眼をギラつかせる。多娥丸は生まれる前に分かれた片割れの角を欲していた。角が在るべきところへ戻れば、真の鬼になれるのだと思っているようだ。
月読に話すのは復讐に関係のない人間だからだろうか、彼の瞳は悲しみよりも怒りが勝っている。隼英と双子だったという事実は、これまで以上に似ている部分を強調させ月読を思い悩ます。
会話しながら千隼の状態を聞きだす事にも成功した。
どうやら当初の計画に狂いが生じて、方鬼の研究室にある水槽で眠らされている。強い力を宿すため、身体のスペアとしても有用で保存されている様子だ。千隼が眠っているだけと聞き、すこしだけ安心した。
多娥丸は乱暴者だが従順にしていれば、酷いことはして来なかった。あるいは月読を自分のものとして認識しているのかもしれない。
「角がねえって、どういうことだ? 」
「てっきり息子に受け継がれたと思うたが、違ったようじゃ……壱から調べなおしじゃ……」
千隼は角なしだと分かり、方鬼の計画にズレが生じている。
月読はこの場に居るべきではない、なぜなら彼らの探している『隼英の角』を持っているからだ。遠いむかし瀕死の月読を救うため、秘術により神宝になった角は古傷のある脇腹へおさまっている。
逃げようにも、多娥丸の太い腕にしっかり抱かれて動けない。なるべく目立たないよう息を殺して成りゆきを見守る。しかし流石に近くへ座っていたら方鬼の目に留まった。こちらに気付いた小鬼は、顔をそらす月読をじっと凝視する。
「ゲゲゲ多娥丸、こやつ月読じゃ! 隼英の息子を捕まえたついでにイイ拾い物をしたのう! 幸運じゃ、月読は血肉も魂も仙桃のように美味いらしいぞ」
舌なめずりをした方鬼は好色な目つきでなめまわし、多娥丸の赤眼が鬱陶しげに細められる。
「こいつは俺のだ。勝手に手をだすな! 」
多娥丸が片手で追い払い、方鬼は名残惜しい顔つきで部屋を出ていった。
――――まずい方向へ話が進んだな。
方鬼に目を付けられて角の所在がバレるのも時間の問題だ。月読は得てきた情報をまとめ、千隼の監禁されてそうな場所を推察する。
そして企てを実行した。湯あみのふりをして多娥丸の元から脱出を試み、監視の隙をついて風呂場を脱走した。ところが鬼の数が想定よりも多く、見つかってしまい捕縛された。
「おまえ、俺から逃げるつもりだったのか!? 」
態度の軟化していた多娥丸の瞳が炎のごとく燃えあがる。
後ろ手に縛られたまま放り投げられて乱暴に犯される。身動きができず暴力的に突き上げられ、血の気が引くのを感じた。声なき悲鳴が出て額から脂汗がにじみ、貧血を起こしたように冷たくなった。
顔が青白くなり力なく横たわる月読に、舌打ちをした多娥丸は交わりを中断して部屋を出ていった。
知らない手が腹筋をたどり、腹を撫でさぐる不快さに身じろぐ。失神していた月読は体の痛みに顔をしかめた。
意識は少しずつ覚醒して会話が聞こえてくる。
「――――まさか息子の方ではなく、こんな所に隼英の角があるとは思いもよらんかった。多娥丸、なぜ腹を裂いてしまわないのじゃ? こやつのハラワタはさぞかし綺麗で美味いだろうに」
「腹のあたりの龍鱗が結界になってる。それに事を急ぐと面白くねえ」
ズルズルと内臓を啜る仕草をする小鬼の隣で黒い鬼の舌打ちが聞こえた。多娥丸は隼英の角に勘づいていたようだ。只の気まぐれなのだろうか、今まで言わなかった理由はわからない。
方鬼は触診を続ける。
「ひひひ……隼英と一体どのような関係だったのやら。月読は女の一族だと聞いていたが男もなかなか……この身体は食いでがありそうじゃの。ひひ」
膏薬を付けた指が月読の内ももへ触れた。卑猥に這わされる細い指は、傷のある部分へ軟膏を擦りつける。
「…………っ……」
覚醒して目をうすく開けた月読は身体をよじって、いやらしく這う指から逃れようとした。ますます野卑な笑みを浮かべた方鬼は、治療だとせまり尻へ指をすべりこませた。
「よい反応じゃ、どぅれココもしっかり塗らねば」
方鬼の指は内腿の付け根を撫でて尻の割れ目へ潜りこみ、窄まりの入り口へ軟膏を擦りつける。
ほそい指が中へ侵入する直前、手をつかまれた方鬼は床へ投げられた。
「ひひゃあっ、なにをしよるか!? 多娥丸っこれは治療じゃ! 」
「俺のだって言ってんだろ。それは俺がやる」
多娥丸は小鬼から軟膏を取り上げた。そして治療と称し存分に軟膏を尻の奥へ塗りこめる。月読は太い指に身をよじらせ、喘ぐ姿を方鬼にもじっくり見られてしまった。
黒い鬼の膝で力なく横たわる月読の耳に鬼たちの会話が聞こえてくる。
「それで角はどうするつもりじゃ? 多娥丸よ」
「外はかたくても内側は脆い、なら内から破ればいい」
赤く光る眼は、横たわる月読を見下ろした。
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