精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー

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閑話

シヴィルのひとりごと13「灰色オオカミ」

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「シヴィル!? 休んでろと言ったはずだ! 」

 兵舎前で隊を招集しょうしゅうしていたツァルニが声をあげた。表情はふだんより厳しく僕が来るのをこばんでいるようでもある。偵察ていさつから帰ってきたブルド隊と交代し、べつの山岳隊が編成されていた。

「僕の回復力かいふくりょくをなめてもらっちゃあ困ります。それに奇襲兵きしゅうへい遭遇そうぐうして敵のことも知ってる、山道にもくわしい。これ以上ない人材でしょ? 」

 肩をすくめてお得意の舌先三寸したさきさんずんで丸めこむ。僕の体はマジで回復がはやい、食べて水分を摂取せっしゅして寝たら次の日にはエネルギー満タン。睡眠がなくて満タンではないけど、毛皮の大男と再戦するくらい体力は残ってる。

 それでもツァルニが考えあぐねていたら、ブルド隊長が後押あとおしをした。体力的に参加できないことをなげいた隊長は、僕の背中を押してウィンクする。

「ツァルニ兵長、こいつを連れて行ってください! 」

「おまえの馬は疲れてるだろ? 俺の相棒あいぼう、貸してやるよ」

 腰を痛めて出撃できなかったアーバーが自分の相棒を連れてきてくらをのせかえた。ひげモジャでずんぐりしたアーバーをのせる馬は山岳馬さんがくばのなかでも足が太く安定している。

「おぅい! シヴィルこれ食って体力つけろ! 」

 食堂の親父が走ってきて食べ物をわたした。黒くて甘いかたまりはナッツと黒砂糖を固めたものだった。糖分とカロリーを摂取してますますえわたる。

 気づけば1匹オオカミだった僕のまわりはファミリーのような群れになっていた。3人の強力な力添ちからぞえで兵長も首をたてにふった。



 つどった山岳隊は整列する。僕らが北門をでたあと兵舎の者たちは南側へ避難した。中央橋の要石かなめいしへ杭が打ちこまれて落とす準備もととのい、門をくぐったらヴァトレーネの北側には戻れない。

「行ってこい! 」
「んで帰ってこいよ! 」

 見送る親父たちの声援をかき消し、馬のひづめは街道をってはしりだす。へいたんな道をぬけ山道へはいった。1番ちかい見張みはとうからヴァトレーネ北の山々を見わたせる。襲撃されて煙の立ちのぼる塔を発見し、このまま進めば敵と鉢合はちあわせる。

 馬で走りながらツァルニが指示をだした。敵がまっすぐ来るとはかぎらないため隊を分けてまわりこむ、弓のけた僕は上方へむかう隊へ加わるよう命令された。こんなところでめて隊を乱すわけにもいかない、口の奥で悪態あくたいをつき命令にしたがう。

さっさと片づけて彼のもとへ向かえばいいだけ、皮一枚かわいちまいで理性をのこし、僕の内にいるオオカミは牙をきだして走った。



「いたぞ! ゆみ、かまえ! 」

 蛮族を発見した隊長が号令をだす。地理はこちらの方が有利ゆうり、上から矢をびせ敵兵は落馬する。しかしスピードを重視じゅうしする敵は直線的にせまり、ツァルニのひきいる隊とぶつかった。

 その後方へ敵の弓部隊が姿をあらわした。死角しかくの位置、矢をつものの岩場が邪魔をする。

「隊長! 行きます!! 」

「シヴィル! そっちは崖っ、うおぉい!! 」

 アーバーの相棒を信じて崖をとんだ。馬は山羊ヤギのごとくびはね岩場を駆けくだる。弓兵へ矢を放ってしとめ、剣に持ちかえ敵のまっただ中へ突っこむ。頭上から降ってきた僕に仰天ぎょうてんした弓兵はあわてて剣を抜こうとした。そんな時間はあたえない、真横をはしりぬけ剣をふるった。敵の胴体から首がはなれて地面へころがる。



 剣戟けんげきの音が耳へとどいた。見あげた場所では兵長と黒い毛皮の男が交戦している。

 ヴラド・グスタフ。冬の国の将軍、北城塞都市きたじょうさいとしの生きのこりがつぶやいた記憶が鮮明によみがえる。ヤツさえいなければ蛮族は烏合うごうしゅうす。岩かげの弓兵をほふった僕は、馬の手綱たづなをコントロールする。

 敵の弓兵の矢がツァルニの顔をかすった。血が飛びちり右目をふさがれた彼へグスタフが剣を振りおろす。

「させるかよっ!!! 」

 ガッッキィン! 

 牙を剥いた灰色オオカミは勇壮にほえた。豪傑ごうけつな蛮族とまっこうから対立して、氷青ひょうせいの目が僕を見おろす。ヤツは力まかせに剣を押しこみ、両腕で支えていたやいばけた。
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